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最終決戦

怒りと自惚れや

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「そんなに怖がらないでほしぃなぁ。俺は他の人みたいに、何も言わずに襲い掛かるような真似はしないよ。それに、君達のような別嬪さん相手になんて。襲い掛かるなんてこと、出来ないさ」

 青年はケラケラと笑いながら言う。だが、その眼は笑っておらず、濁っている黒い瞳は二人を映し出した。

「よくわからんが、ここにワタシ達を落としたのはお前か?」
「落としたわけではないのだけれどねぇ。ただ、君達が俺の仕掛けた罠にひっかかっただけ。でも、俺からしたら君達みたいな別嬪さんで本当によかったよ。胸糞悪い男が落ちてきてたら、怒りで落ちてきた瞬間に粉砕していたかもしれなかったからねぇ」

 笑いながら怖いことを言う彼に、夏楓は顔を青くし紅音の裾をぎゅっと掴む。
 紅音は青年から目を逸らさず、次の動きを見続けた。

 警戒を怠らず、青年の小さな動きにも気を付けていた。

「んー。警戒しててもいいけれど、疲れない? もしよかったら、この穴から出てお茶でもどう? 俺がおごるからさ!」
「あほなのか? そんなことをするわけがないだろう。ワタシ達から情報を抜き取るつもりか?」
「そんなことはないよぉ? 別嬪さんと共にお茶ができるというだけで。男としては嬉しいものさ」
「断る」
「えぇ、酷いなぁ。あぁ、もしかして、俺のことまだ怪しんでいるの? どうすれば警戒を解いてくれるかなぁ。やっぱり話し合える場を提供するのが一番な気がするんだけど……。やっぱり、共にお茶にしようよ!」

 ニコッと笑みを浮かべる青年に、紅音は眉をぴくぴくと動かし、怒りを何とか我慢していた。

 拳を強く握り、深い息を吐き出す。
 後ろで見ていた夏楓は「ま、まずい」と、先ほどとは違う意味で顔を青くし、口をわなわなと震わせた。

「え、えっと。貴方は一体、何者ですか? 名前をまず教えていただけると嬉しいのですが」
「おっと、確かにそうだね。名前を伝えたらお茶をしてくれるかい?」
「考えます」
「それはしてくれない返答だねぇ。ま、いいけど。俺の名前は叶井静樹《かないしずき》。女性には優しくをもっとうにしている男さ」

 パチンと片目を閉じ、二人に星を飛ばす。そんな彼を見た二人は、今にも胃の中の物が出そうな顔を浮かべ「「うげぇ」」という声を出していた。

「ひ、酷いなぁ。さすがに悲しいよ。女性にそんな顔を浮かべられるなんて……。今までそんな顔を浮かべられたことなんて一度もなかったのに…………」

 わかりやすいくらいの噓泣きを披露する静稀に、紅音は体を震わせる。その震えは恐怖などではなく、単純な怒り。顔を赤くし、顔を引きつらせた。

「殺す」
「っ、待ってください紅音! あの人はただものではないんですよね?! 何も考えずに突っ込むのは危険です! しっかりと作戦を立てなければこちらが簡単にやられてしまいます!」

 今にも走ってしまいそうな紅音を無理やり抑え込み、夏楓は無理やり前に出て静稀に声をかけた。

「あの、貴方は陰陽師なのですか? もし、陰陽師なのでしたら、何処の寮なのですか?」
「おや、これは俺のことが気になるということかな? やっぱり、俺は見た目は整っているし、女性の扱い方にも慣れている。もてない要素がないねぇ」
「紅音、殺しましょう」
「さっき言っていた言葉と正反対だな。殺すことには大賛成だが、いいのか?」

 振り向き、夏楓は紅音に黒い笑みを浮かべ言う。先ほど言われた言葉とは正反対だったため、紅音は思わず聞き返してしまった。

「いや、ちょっと待ってください。さすがに、作戦はしっかりと立てます。私達は琴平さんや闇命様みたく、戦闘に慣れているわけではありません。紅音も頭に血を登らせずに考えましょう」
「あぁ、そうだな」

 二人は気を引き締め、またしても嘘泣きしている静稀を見た。

「おや? 泣いている男性をほっとけない優しい女性なんだね。いや、それか俺の泣いている姿が美しすぎて見惚れてしまったかな? 俺はどのような姿でも女性を虜にしてしまう。あぁ、なんて俺は罪深き男なんだ。周りの女性がすべて俺に目を奪われてしまっている」

 本を片手に上を仰ぎ、肩を落とした。

 彼を見ていた二人は同時に額に青筋を立て、口を引きつらせた。
 ワナワナと体を振るわせ、地面を踏みしめる。

 深い息を吐き、二人は同時に口を開いた。

「「何としてでも殺す!!」」

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