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最終決戦

声と震え

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「紅音、大丈夫ですか?」
「問題ない」

 穴に落ちてしまった二人は、洞窟のような場所に立っていた。

 地面に穴が空き、空中に投げ出された紅音が、同じく底に落ちる夏楓の腕を掴み、自身へと引き寄せた。
 体勢を立て直し、足を壁に付け勢いを殺し、底が見えると転がるように着地することが出来た。

 二人に怪我はなく、服に着いた砂などを払いながら現状を確認するため、周りを見回していた。

「それにしても、紅音は本当に人なのでしょうか。時々、疑ってしまいます」
「なに?」

 上を見上げながらげんなりしたような顔で呟く夏楓に、紅音が反応。頬を膨らませ怒りを見せた。

「私は人間だ」
「わかっていますよ、安心してください。凄いなと思っただけです」

 息を吐き、再度周りを見回し始める夏楓。紅音はそんな彼女を見て、眉を顰め首を傾げた。

「夏楓、何をかんがっ―――」

 紅音が問いかけようとした時、洞窟の奥から足音が聞こえ、二人はそちらに目を向ける。

 気配を探り、何が近づいて来ているのか確認しようとするが、何も感じず二人はお互い目を合わせ、ゆっくりと歩みを進めた。

「ワタシが先を行く。後ろを歩け」
「わ、わかりました…………」

 紅音の言う通り夏楓は後ろに回り、紅音は夏楓を守るように周りを警戒しながら前へと進む。

 一本道の洞窟、壁側には水たまりが出来ている。先ほど聞こえた音は、水が落ちた音だったと二人は理解した。

 上から落ちて来る水を気にせず、二人はどんどん奥へと進む。

 二人の足音が響き、周りは薄暗い。闇命が居れば雷火で辺りを照らす事が出来るが、二人には扱える式神はいないため、照らすのは不可能。

 不気味な雰囲気が漂う空間に、夏楓はどんどん恐怖が浮上し、紅音の袖を思わず掴んでしまった。

「むっ、どうした?」
「あ、す、すいません。ちょっと…………」

 眉を下げ、周りを不安そうに見ている夏楓を見て、紅音はキョトンと目を丸くする。その場に立ち止まり、後ろにいる夏楓へと振り向いた。

「あ、あの、紅音? どういたしました?」
「怖いのか?」
「え?」
「さっきから夏楓、静かだ。怖いのか?」

 紅音からの質問に、今度は夏楓が目を丸くする。

 確かに、周りの雰囲気に押しつぶされそうになり体が竦んでいたが、周りに興味のない紅音に気づかれるとは思っていなかった。

「だ、大丈夫ですよ。少々不気味な空間だなと思い、警戒を強めていただけです」
「そうか、無理はするな。今は闇命様がいない、我々でどうにかしなければならん。ワタシも自分の事で精一杯だ、無理をされると困る」
「そ、うですよね。すいません、気を付けます」

 紅音に言われ、夏楓は拳を握り顔を上げた。その顔は先程までの不安そうな顔ではなく、眉を上げ、覚悟を決めたような表情になっていた。

 彼女の表情を目にした紅音は、もう大丈夫だと思い、鼻を鳴らし再度歩き始めた。

 そんな彼女の背中を見た夏楓は、息を吐き震える体を抱きしめる。

「私も、しっかりしなければ。覚悟はもう決めたでしょう、夏楓。私の出来る事は少ないけれど、出来る事を全力でやらなければなりません。琴平さんの気持ちを、死を、無駄にしてはなりませんよ」

 胸を掴む手はいまだ震えている。覚悟は決めたとしても、不安な気持ちは完全に消すことは出来ず、体の震えは止まってくれない。

 止まれ、止まれ。

 そう唱えるも、止まらない。前を進む紅音がどんどん闇の中に溶け込んでいき、夏楓は置いて行かれないように走り出そうと、一歩足を前に出した。


『────…………』


 その時、聞こえるはずのない声が聞こえ、後ろを振り返る。


「――――――――琴平、さん?」


 後ろには、闇に浮かぶように琴平が笑みを浮かべ立っていた。
 いつもと変わらぬ笑み、優し気に細められている瞳は夏楓を真っすぐ見ていた。


「え、なんですか?」


 その場に立っている琴平が、ゆっくりと口を開き何かを伝えようとしている。


 じ ぶ ん を し ん じ ろ


 口の動きだけで夏楓は琴平が何を言いいたのか察し、目を大きく開く。わなわなと震わせている口元が、琴平の言葉により端が上がる。眉を吊り上げ、今度こそ目に力が込められた。

「ありがとうございます、琴平さん。私、自分を信じてみます。闇命様が認めてくださった私を、紅音と琴平さんが仲間に引き入れてくださいました私を。私は最後まで、私自身を信じます」

 夏楓の言葉に、琴平は温かな笑みを浮かべ、頷き、その場から消えるように姿を消した。

 何も見えなくなった空間を見つめていると、先に行ってしまっていた紅音が夏楓を呼ぶ声が聞こえた。

「早く来い! おいて行くぞ」
「――はい、今行きます!」

 声を張り上げ、地面を蹴り紅音の元へと走った。その時にはもう、先ほどまで止まらなかった体の震えが、完全に止まっていた。
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