上 下
223 / 246
最終決戦

怒涛の

しおりを挟む
 爆風に包み込まれた土蜘蛛、大きな動きを見せようとしない。
 二人は警戒しながらも爆風がなくなるのを見続けた。すると、煙の中で大きな影が見え始める。倒れているわけではない。
 土蜘蛛が爆発と氷のつぶてによりやられたわけではなかった。

「やられては、いないみたい」
「そうらしいな、いやぁよかったわ。また新たな技を試せる。次は何を試そうか」

 ケケケッと、悪魔のような笑顔を浮かべた月卯歌に、冷菓はもはや何も反応を見せない。いつものことだと思い、土蜘蛛の次の動きを見た。

 だが――……

「…………無傷? のようには見えるけど、なぜ動こうとしないの」
「体が黒いから傷付いているのかわかりにくいとかか? いや、傷から法力があふれ出るからすぐにわかるか……。爆破は土蜘蛛には無意味と考えようか。次は体を刻んでやりたいが、地上からの攻撃は見えない何かによって阻まれてるからなぁ。うひゃ、楽しいなぁ」
「楽しんでいないで、早く倒して。あの式神を出せば一発でしょう」
「だめだ。確かにあいつは強いし、出せばすぐに片が付くだろう。だが、それだとつまらん。それに、俺は自分であいつを切り刻んでやりたいんだ。式神になんて頼るかよ」
「さいですか…………」

 もう何も言うまい。そう心に誓った冷菓、土蜘蛛を見て首を傾げた。

「まだ、動かない」
「動かないなぁ。これは何かある、大きなもんが来てもいいように結界の準備はしておけ」
「はい」

 さっきまでの笑顔を消し、月卯歌は冷菓を守るように前に出た。右の人差し指と中指を立て、何が来てもいいように集中。

 静かな時間が進む、お互い何もしかけず、無言。月卯歌でさえ、土蜘蛛を見据え何もしかけようとしない。

『キッ、キシャッ…………』

 かすかな声を出すと、牙が動き出し、目をギョロギョロと動かし始めた。
 八つある目はすべて違う方向を見ており、気持ちが悪い。二人は動き出した土蜘蛛から目をそらさず見続けた。


「――――――っ、結界!!!!」


 月卯歌が目を大きく開き、右手を振り上げ結界を何重にも出した。直後、見えない攻撃が放たれ、結界が破壊される。

「なに!?」

 何重にも張っていたおかげで、結界は二、三枚残して攻撃を防ぐことに成功。何が起きたの変わらな冷菓は、結界を張った月卯歌を見た。

「今のはおそらく、法力をそのまま吐き出したものだろう」
「え、そのまま? どういうこと?」
「法力を何かに変換、または何かを挟んで発動させたのではなく、法力そのものを術者がくりだし、俺の結界を壊した」
「そ、そんなこと可能なの? 聞いたことすらないんだけど……」
「普通は知っていてもやろうとしねぇよ。式神にしたり、俺のように何かに変換した方が強いし様々な形で相手に攻撃を仕掛けることができる。その方が楽しいし、威力が段違いにあがる」

 月卯歌が説明をしていると、土蜘蛛の口からドロッとした液体がしたたり落ち始めた。

「うげっ」
「反応は間違えていないけど、今は違うかと」

 緑色のドロドロな液体が土蜘蛛かの口から出てくると、大きな塊まで一緒に出てきた。それは人の頭。緑の液体に包まれた人の頭部、そこからゆっくりと肩、体、胴体と。ズルズルと人が出始めた。

 足まですべてが口から出ると、ボトッと地面に落ちる。

 最初は動かなかったが、少しすると指先が動き始める。起き上がろうと地面に手をつき、ゆっくりと上半身を起こした。

 よく見ると、その人は巫女の姿をしていた。髪は短く顎当たりの紫色、蝶の髪飾りをつけている。
 緑色の液体は巫女の体からズルズルと落ち、姿を明快にした。

 やっと周りを見回し始めた巫女は、頭を支えながら冷菓と月卯歌をとらえる。黒い、闇に染まった瞳には何も移さず、死んだように濁っていた。
 何も言葉を発することはせず、その場にゆっくりと立ち上がった。周りを見回し、不思議そうに首を傾げる。

「まさか、さっきの攻撃で死ななかったですって? どういうこと? さっきの攻撃を防ぐことができるなどありえないわ。貴方達は一体なにもなのかしら」

 女性にしては低い声で発せられたのは、困惑の言葉。そんな言葉を投げかけられ、冷菓も月卯歌も何も言えず黙り続ける。

「ちょっと、聞いているのかしら。女性の言葉を無視するなんて、教育がなっていないのね。これだから最近の男はダメねぇ、もっと女性の心を理解する努力をしていただかないと。あ、もしかして、貴方達は女性とお付き合いしたことがないのでしょうか? そうよねぇ、私に対してその無礼だもの。他の女性が貴女達を好きになるわけがないわ。まったく、もう少し努力をしなさいよ。そのままだと、これからも一生独身よ? いいのかしら?」

 怒涛のけなし。しかも、その女性は冷菓までも男性に思っているらしく、二人をけなしていた。

 何が起きたのかわからない冷菓はけなされたことより、なぜ女性が当たり前のように土蜘蛛の口から現れたのかわからず何も口にできない。そんな冷菓の困惑など月卯歌は気づかない。
 いまだぐちぐち言っている女性をただただ見ていた。

 なぜ見ているだけなのか、冷菓が月卯歌を見ると、やっと口を開いた。

「緑の液体をまとい、見た目が気持ち悪い土蜘蛛の口から登場した女には言われたくねぇな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...