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最終決戦
違和感
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土蜘蛛は八個ある目をギョロギョロさせ、冷菓と月卯歌を見下ろしていた。
月卯歌は下唇を舐め、ゆっくりと土蜘蛛に向かって歩き出す。その間、土蜘蛛は月卯歌を近づかせまいと、口から勢いよく白い糸を噴き出した。
その糸は四方に散り、月卯歌を包み込む。だが、月卯歌は一切慌てるようなことはせず、氷の爪を動かし始めた。
「なめんじゃねぇぞ」
氷が纏われている右手を左に持って行き、大きく前に一歩足を繰り出す。瞬間、目の前まで迫ってきている糸を横一線に切った。
次に、右足を軸にし、左足を前に。胸を開き溜め、右手を上から下に振り下げた。
白い糸は切り刻まれ、月卯歌に届く前にすべてが地面に落ちた。
「ほう、酸が混ざっていたか。作り出した氷の爪が解け始めたな」
月卯歌の言う通り、右手に纏われていた氷の爪先が丸くなり、ぽたぽたと水が滴り落ちた。
顔を上げ、右手を下げると氷がシュッと消え、普通の手に戻る。土蜘蛛は牙を動かし、月卯歌を見下ろしていた。
「さすがに爪だけでは倒せんなぁ。すぐに作り出す事が出来れば別だが、他の方法をやろうか」
独り言を零し、月卯歌は二枚のお札を取り出した。笑みを浮かべ、準備運動をするようにトントンと、つま先で地面を叩く。
取り出した二枚のお札を右手の人差し指と中指ではさみ、手を横に下ろす。すると、またしてもお札から冷気が出始めた。
徐々に右手が水色に変色し始め、広がっていく。
ゆっくりと歩き始めた月卯歌に、土蜘蛛は牙を動かし白い糸を噴射。勢いよく放たれた糸はまっ直ぐ、月卯歌へと向かった。
「お前の攻撃は、もう俺には届かない」
放たれた糸は、月卯歌にたどり着く手前で止まる。動かしたくとも動かせず、震える糸。月卯歌が「ふっ」と息を拭くと、大きな音を出して砕け散った。
『ジ、ジジジジ…………』
やっと声を出した土蜘蛛は、糸が砕け散ったことにより怯えたように震えていた。
体が勝手に後退しており、月卯歌から距離を取っている。だが、それを月卯歌自身が許すわけもなく、同じ速さで歩いていた。
「これで終わりか? さすがに弱すぎるだろう、土蜘蛛。もしかしてだが、外れの陰陽師に当たっちまったか? それはご愁傷様、ここで楽にしてやるよ」
言いながらも先ほどまでの狂気的な笑みを消し、警戒するような目線で目の前の土蜘蛛を見上げる。なぜ警戒しているのか、後ろで見ていた冷菓はわからず、土蜘蛛を見続けた。
「力の差が圧倒的なのはわかっていましたが、何故月卯歌は倒さないのか」
眉を顰め、月卯歌の行動について考える。
戦闘を始めた月卯歌は周りの事など考えず、一人で目の前の”敵”と認識した者達を殺すまで自身の刃を振るい続ける。
冷菓が声を駆ければ止まってくれるが、かなり渋々。
月卯歌のそのような部分を見ていたため、今の行動に疑問を抱いていた。だが、その疑問は直ぐに解消される。
「あれ、そう言えば……。土蜘蛛って、ここまで弱かった?」
冷菓の口から零れた言葉。月卯歌にも届き、冷菓をちらっと見た。
「冷菓、何かある。気を付けろ」
後退する土蜘蛛を追いかけるのはやめて、その場に立ち止まる。右手に持っているお札からは、まだ冷気が出ており油断していない。
「もしかして、法力を送られていないのか?」
周りを見ても、術者がいない。確かめる術のない月卯歌は目を閉じ、「まぁ、いいか」と呟いた。
「式神なら殺しても別に構わないはず、冷菓も止めんだろう」
右手を顔近くまで上げ、指先に集中し始めた。すると、冷気が出ていたお札が徐々に光出す。
「『聖なる剣よ、我を守り、我に危害を食らわせようとするものを串刺しにせよ』」
冷静に唱えられた言葉に合わせるように、辺り一面に冷たい空気が漂い始めた。
冷気が月卯歌の周りに漂い、草や木すら凍らせている。
一歩、月卯歌が足を前に出すと、踏みしめた地面が凍る。白い息が口から吐き出され、月卯歌の深緑色の髪の一部が藍色に変化。
吐き出された冷気は月卯歌の周りに集まり、何かを作り出す。それは、細く、長い。先が尖っている物。
先程、月卯歌が唱えていた通り、土蜘蛛を串刺しにするための剣が作られた。
「納得は出来んが、ここで終わらせてやろう。このまま時間を無駄に過ごすわけにはいかん」
月卯歌は下唇を舐め、ゆっくりと土蜘蛛に向かって歩き出す。その間、土蜘蛛は月卯歌を近づかせまいと、口から勢いよく白い糸を噴き出した。
その糸は四方に散り、月卯歌を包み込む。だが、月卯歌は一切慌てるようなことはせず、氷の爪を動かし始めた。
「なめんじゃねぇぞ」
氷が纏われている右手を左に持って行き、大きく前に一歩足を繰り出す。瞬間、目の前まで迫ってきている糸を横一線に切った。
次に、右足を軸にし、左足を前に。胸を開き溜め、右手を上から下に振り下げた。
白い糸は切り刻まれ、月卯歌に届く前にすべてが地面に落ちた。
「ほう、酸が混ざっていたか。作り出した氷の爪が解け始めたな」
月卯歌の言う通り、右手に纏われていた氷の爪先が丸くなり、ぽたぽたと水が滴り落ちた。
顔を上げ、右手を下げると氷がシュッと消え、普通の手に戻る。土蜘蛛は牙を動かし、月卯歌を見下ろしていた。
「さすがに爪だけでは倒せんなぁ。すぐに作り出す事が出来れば別だが、他の方法をやろうか」
独り言を零し、月卯歌は二枚のお札を取り出した。笑みを浮かべ、準備運動をするようにトントンと、つま先で地面を叩く。
取り出した二枚のお札を右手の人差し指と中指ではさみ、手を横に下ろす。すると、またしてもお札から冷気が出始めた。
徐々に右手が水色に変色し始め、広がっていく。
ゆっくりと歩き始めた月卯歌に、土蜘蛛は牙を動かし白い糸を噴射。勢いよく放たれた糸はまっ直ぐ、月卯歌へと向かった。
「お前の攻撃は、もう俺には届かない」
放たれた糸は、月卯歌にたどり着く手前で止まる。動かしたくとも動かせず、震える糸。月卯歌が「ふっ」と息を拭くと、大きな音を出して砕け散った。
『ジ、ジジジジ…………』
やっと声を出した土蜘蛛は、糸が砕け散ったことにより怯えたように震えていた。
体が勝手に後退しており、月卯歌から距離を取っている。だが、それを月卯歌自身が許すわけもなく、同じ速さで歩いていた。
「これで終わりか? さすがに弱すぎるだろう、土蜘蛛。もしかしてだが、外れの陰陽師に当たっちまったか? それはご愁傷様、ここで楽にしてやるよ」
言いながらも先ほどまでの狂気的な笑みを消し、警戒するような目線で目の前の土蜘蛛を見上げる。なぜ警戒しているのか、後ろで見ていた冷菓はわからず、土蜘蛛を見続けた。
「力の差が圧倒的なのはわかっていましたが、何故月卯歌は倒さないのか」
眉を顰め、月卯歌の行動について考える。
戦闘を始めた月卯歌は周りの事など考えず、一人で目の前の”敵”と認識した者達を殺すまで自身の刃を振るい続ける。
冷菓が声を駆ければ止まってくれるが、かなり渋々。
月卯歌のそのような部分を見ていたため、今の行動に疑問を抱いていた。だが、その疑問は直ぐに解消される。
「あれ、そう言えば……。土蜘蛛って、ここまで弱かった?」
冷菓の口から零れた言葉。月卯歌にも届き、冷菓をちらっと見た。
「冷菓、何かある。気を付けろ」
後退する土蜘蛛を追いかけるのはやめて、その場に立ち止まる。右手に持っているお札からは、まだ冷気が出ており油断していない。
「もしかして、法力を送られていないのか?」
周りを見ても、術者がいない。確かめる術のない月卯歌は目を閉じ、「まぁ、いいか」と呟いた。
「式神なら殺しても別に構わないはず、冷菓も止めんだろう」
右手を顔近くまで上げ、指先に集中し始めた。すると、冷気が出ていたお札が徐々に光出す。
「『聖なる剣よ、我を守り、我に危害を食らわせようとするものを串刺しにせよ』」
冷静に唱えられた言葉に合わせるように、辺り一面に冷たい空気が漂い始めた。
冷気が月卯歌の周りに漂い、草や木すら凍らせている。
一歩、月卯歌が足を前に出すと、踏みしめた地面が凍る。白い息が口から吐き出され、月卯歌の深緑色の髪の一部が藍色に変化。
吐き出された冷気は月卯歌の周りに集まり、何かを作り出す。それは、細く、長い。先が尖っている物。
先程、月卯歌が唱えていた通り、土蜘蛛を串刺しにするための剣が作られた。
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