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最終決戦
大事な友人
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「う。うぅ。や、やめっ…………。誰か、たすけ…………」
蘆屋家の陰陽寮の一室から、少女のうめき声が聞こえる。
苦しげにうなり、助けを求める声。部屋の中には、蘆屋道満の子孫である蘆屋藍華が畳の上でうずくまっていた。
額から大粒の汗が流れ、苦しげに歯を食いしばっている。目を血走らせ、胸を押さえていた。
無意識に畳を掴んでいるため、爪がボロボロになり、はがれている指もあった。
――――貸せ、貸せ。ワシにその体を、貸せ
少女の頭の中に響くしわがれた声。耳をふさいでも意味はなく、直接脳に伝わっていた。
「い、いやだ、もう、嫌だ」
血走らせた目からは透明な涙が落ちる。「いやだ、いやだ」と呟き続け、襖に立つ人に助けを求める。だが、少女を見ている陰陽師は突如変貌した少女に怯え、体を震わせるだけで手を差し出そうとしない。
――――委ねろ、ワシに。体を、意思を。すべてを寄越せ、お前はわしの子孫だろう?
「い、やだぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああ!!!!」
体を掻きむしり頭の中に響く声を拒否しようとするが意味はなく、藍華の肌の色が徐々に黒色に変色。そのまま部屋に響いていた叫び声は聞こえなくなり、襖に立っていた陰陽師はその場から逃げようとした。だが、足に黒い影が絡み、部屋の中に引きずり込まれてしまった。
先程まで人の呻き声や恐怖の声が響いていた廊下に、何も聞こえなくなった。
「──これでやっと、ワシは自由に動ける。まったく、ワシを封じ込めようとするなど、めんどいことをしてくれた」
――――――ゴトッ
少女の姿はそのまま、手に持っていた陰陽師の頭を畳に落とした。
手は赤く染まり、周りは血の海。見るに堪えない光景が部屋の中に広がっていた。
「見た目まではまだ変えられんか。力がまだ封じ込まれているな、まったく。さすがワシの子孫だ、力が強くてまいってしまった」
「クククッ」と笑い、赤く染まった手を舐め、廊下へと出て行った。
☆
「よし、手紙は出し終わりました。あと、どうなるかは運次第。待っているしかありません」
「まさか、そんなことができるようになっているなんて。しかも、今のは陰陽術ではなく、一技之長の方みたいだけれど、どこでこんな技を手に入れたの?」
「この子の技を真似しただけだよ。ここに来たのが今と同じ技でだったんだよね、すごいよねぇ」
すごいよねぇ、じゃないんだよ。すごいのは貴方なんだよ。とは、さすがに口には出せないから黙っておくけど、冷菓さんからの視線が痛い。グサグサと刺さってる。
「…………詳しく教えていただきたいのですが、いいでしょうか?」
『偶然できた技を試した結果、成功。さっき、漆家に手紙を出す際に月卯歌が同じことをして習得。今に至る』
闇命君の説明、簡単すぎませんかね?
あ、でも冷菓さんは納得したみたいに頷いている。本人が納得しているのならいいか。
「あの、発言してもよろしいでしょうか」
『大丈夫だよ、どうしたの夏楓』
夏楓がおずおずと手を上げた。
「闇命様、何故急いでここまで来たのですか? もしかして、何かが動き出したのですか?」
「あ、話していなかったね。ごめんね」
「いえ、話したい事が沢山あったので仕方がないです。それで、何かありましたか?」
「うん、大きく事態が動き出したんだ。蘆屋家の配下に位置する屍鬼家が水分家に来たんだ。しかも、陰陽頭が」
「えっ、大丈夫だったのですか!?」
夏楓が身を乗り出して、紅音が今にも駆けだそうと片膝を立ててしまった。
いやいや、待って待って、今動かなくても大丈夫だから!!
「大丈夫大丈夫! 怪我もしなかったし、今回襲ってきた陰陽頭には迷いがあったんだ。だから、追い返す事が出来たんだよ」
あの技が無かったらマジで危なかったけど。
迷いがあったとしても陰陽頭だ、雰囲気や気配は強かったし、まともに戦うのだけは避けたいと、自然と考えた。
もし、迷いなく本気でかかってきていたら、最初、襖を突き破った時には靖弥か俺は死んでいたか、良くて刀を掠っていたはず。
「それならよかったですが……」
「心配させてごめんね。見ての通り、本当に怪我もないし、大丈夫だよ」
胸をなでおろした夏楓と、紅音も浮かした腰を静かに下してくれた。
良かった、ここで紅音が暴走したら止められる人がいない。
いや、闇命君がいるから大丈夫か、多分。
「迷いがあった……? それは、なぜだ」
『本人に聞いていないから詳しくはわからないけど、おそらく陰陽頭の性格上、どうしても心から蘆屋家に従う事が出来なかったんだと考えているよ』
闇命君の言葉を理解出来ていないのか、紅音が首を傾げて頭にはてなを浮かべている。
これは多分だけど、紅音。屍鬼家の陰陽頭、知らないでしょ。だから、理解が出来ないんだろうなぁ。俺も聞かないとわからなかったし。
「屍鬼家と言えば、陰陽頭は魕だった気がしますが、当たっていますか?」
『そうだよ、知っているの?』
月卯歌さんが目を微かに開き、驚いたような表情で闇命君に聞いていた。
なんで驚いたような表情を浮かべているんだろう。
「魕は、僕とは一番の友人だったので。少し、驚きました」
蘆屋家の陰陽寮の一室から、少女のうめき声が聞こえる。
苦しげにうなり、助けを求める声。部屋の中には、蘆屋道満の子孫である蘆屋藍華が畳の上でうずくまっていた。
額から大粒の汗が流れ、苦しげに歯を食いしばっている。目を血走らせ、胸を押さえていた。
無意識に畳を掴んでいるため、爪がボロボロになり、はがれている指もあった。
――――貸せ、貸せ。ワシにその体を、貸せ
少女の頭の中に響くしわがれた声。耳をふさいでも意味はなく、直接脳に伝わっていた。
「い、いやだ、もう、嫌だ」
血走らせた目からは透明な涙が落ちる。「いやだ、いやだ」と呟き続け、襖に立つ人に助けを求める。だが、少女を見ている陰陽師は突如変貌した少女に怯え、体を震わせるだけで手を差し出そうとしない。
――――委ねろ、ワシに。体を、意思を。すべてを寄越せ、お前はわしの子孫だろう?
「い、やだぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああ!!!!」
体を掻きむしり頭の中に響く声を拒否しようとするが意味はなく、藍華の肌の色が徐々に黒色に変色。そのまま部屋に響いていた叫び声は聞こえなくなり、襖に立っていた陰陽師はその場から逃げようとした。だが、足に黒い影が絡み、部屋の中に引きずり込まれてしまった。
先程まで人の呻き声や恐怖の声が響いていた廊下に、何も聞こえなくなった。
「──これでやっと、ワシは自由に動ける。まったく、ワシを封じ込めようとするなど、めんどいことをしてくれた」
――――――ゴトッ
少女の姿はそのまま、手に持っていた陰陽師の頭を畳に落とした。
手は赤く染まり、周りは血の海。見るに堪えない光景が部屋の中に広がっていた。
「見た目まではまだ変えられんか。力がまだ封じ込まれているな、まったく。さすがワシの子孫だ、力が強くてまいってしまった」
「クククッ」と笑い、赤く染まった手を舐め、廊下へと出て行った。
☆
「よし、手紙は出し終わりました。あと、どうなるかは運次第。待っているしかありません」
「まさか、そんなことができるようになっているなんて。しかも、今のは陰陽術ではなく、一技之長の方みたいだけれど、どこでこんな技を手に入れたの?」
「この子の技を真似しただけだよ。ここに来たのが今と同じ技でだったんだよね、すごいよねぇ」
すごいよねぇ、じゃないんだよ。すごいのは貴方なんだよ。とは、さすがに口には出せないから黙っておくけど、冷菓さんからの視線が痛い。グサグサと刺さってる。
「…………詳しく教えていただきたいのですが、いいでしょうか?」
『偶然できた技を試した結果、成功。さっき、漆家に手紙を出す際に月卯歌が同じことをして習得。今に至る』
闇命君の説明、簡単すぎませんかね?
あ、でも冷菓さんは納得したみたいに頷いている。本人が納得しているのならいいか。
「あの、発言してもよろしいでしょうか」
『大丈夫だよ、どうしたの夏楓』
夏楓がおずおずと手を上げた。
「闇命様、何故急いでここまで来たのですか? もしかして、何かが動き出したのですか?」
「あ、話していなかったね。ごめんね」
「いえ、話したい事が沢山あったので仕方がないです。それで、何かありましたか?」
「うん、大きく事態が動き出したんだ。蘆屋家の配下に位置する屍鬼家が水分家に来たんだ。しかも、陰陽頭が」
「えっ、大丈夫だったのですか!?」
夏楓が身を乗り出して、紅音が今にも駆けだそうと片膝を立ててしまった。
いやいや、待って待って、今動かなくても大丈夫だから!!
「大丈夫大丈夫! 怪我もしなかったし、今回襲ってきた陰陽頭には迷いがあったんだ。だから、追い返す事が出来たんだよ」
あの技が無かったらマジで危なかったけど。
迷いがあったとしても陰陽頭だ、雰囲気や気配は強かったし、まともに戦うのだけは避けたいと、自然と考えた。
もし、迷いなく本気でかかってきていたら、最初、襖を突き破った時には靖弥か俺は死んでいたか、良くて刀を掠っていたはず。
「それならよかったですが……」
「心配させてごめんね。見ての通り、本当に怪我もないし、大丈夫だよ」
胸をなでおろした夏楓と、紅音も浮かした腰を静かに下してくれた。
良かった、ここで紅音が暴走したら止められる人がいない。
いや、闇命君がいるから大丈夫か、多分。
「迷いがあった……? それは、なぜだ」
『本人に聞いていないから詳しくはわからないけど、おそらく陰陽頭の性格上、どうしても心から蘆屋家に従う事が出来なかったんだと考えているよ』
闇命君の言葉を理解出来ていないのか、紅音が首を傾げて頭にはてなを浮かべている。
これは多分だけど、紅音。屍鬼家の陰陽頭、知らないでしょ。だから、理解が出来ないんだろうなぁ。俺も聞かないとわからなかったし。
「屍鬼家と言えば、陰陽頭は魕だった気がしますが、当たっていますか?」
『そうだよ、知っているの?』
月卯歌さんが目を微かに開き、驚いたような表情で闇命君に聞いていた。
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