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最終決戦

好きな事と溢れる想い

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「ところで、月卯歌るうかさんはどうしてここに?」
「あ、これをお渡ししたく」

 言いながら部屋の中に入ってきた月卯歌は、手に持っていた本を夏楓に見せながら正面に座った。
 そんな月卯歌を見た紅音は一気にげんなり顔になり、夏楓を見る。

 紅音の表情の変化に気づいた夏楓だったが、苦笑いを浮かべるだけで無視。月卯歌の話に耳を傾けた。

「この本、新しく手に入れた物なんですよ」
「そ、そうなんですね」
「これは、今まで見たどの本よりも外の世界について描かれており、凄く惹かれてしまったのです!」

 目を輝かせながら本の話をしている月卯歌。

 月卯歌は無類の文字好きで、一日中本を読んでいることはしょっちゅう。
 お風呂やご飯を食べるのを忘れるのも日常茶飯事。睡眠すら忘れる時もあり、その時は双子である冷菓に怒鳴られていた。
 それでも、本を一度読むと集中してしまい、同じことの繰り返し。

 そんな月卯歌は、誰かと本の話をすることはなかった。
 一度話し出すと止まらなくなるため、皆途中で話しを切り上げたり、そもそも話される前に適当な理由を付けて話題を変えられる。

 そんな環境で、話したくても話せなかった月卯歌。そんな時、夏楓と紅音が自身の陰陽寮に冷菓が連れてきた。

 最初は自分の性格を隠し、変に距離を置かれないように世話をしていた。

 本以外の話をしたり、緊張している二人を安心させるように一緒にご飯を食べたりと。そのような生活をしていると、やっぱり大好きなものを共有したいという気持ちが浮上してしまう。

 二人は本を読むのか、本の話をしていいのか。そんな思考が頭を駆け回っていると、夏楓が一言「本、好きなんですか?」と聞いた。

 何故そう聞いたのか問いかけると、冷菓から聞いたと答えた。
 優しく微笑みながら聞く夏楓は、月卯歌が欲しい言葉を言ってくれた。

『本の話、聞かせていただいてもいいですか?』

 世界が輝いたような気がした月卯歌は、おそるおそる控えめに話し出す。それを楽しそうに聞く夏楓の表情に、溢れる気持ちが止まらなくなりどんどん話をしてしまう。

 一度出てしまった気持ちは収まらず、一人で話してしまった。
 途中、自分の悪い癖に気づき口を塞ぐ。夏楓を見て顔を青くしたが、彼女はきょとんとするのみ、続きを促した。

 そんな事があって、今では夏楓に本の話をするのが月卯歌の唯一の楽しみになっていた。
 紅音は本の話などには一切興味が無いため、嫌な顔をしてしまったのだ。

「これには、僕がこの目で見た事がない世界が沢山広がっていたの。森や湖はいつでも見る事が出来るけど、空を隠すほどの高い建物や、馬などを使わなくても移動が簡単な乗り物とか。他にもいろんな服があるんです。はぁ、見てみたい。この目で、現物を」

 本を開き、夏楓に見せながら目を輝かせ話している。そんな月卯歌の様子を笑みを浮かべながら夏楓は見ており、紅音も隣に座り、無表情のまま二人の話を聞いていた。

「そういえば、お二人は旅をしているんですよね? もしかして、今まで様々な光景を見てきたのですか?」
「いえ、旅に出たと言っても、まだまだ始まったばかりなのです。出る時も、出てからも。問題が積み重なっており、前に進むのに時間がかかっていたのです」
「そうなんですね、大変な思いをしてきたのですね」
「そうですね。ですが、私達は自由を手に入れました。自由が無ければ何も出来ませんが、自由があればやりたい事が出来る。それに、あらゆる問題が発生しようと、仲間が一緒なので、乗り越えられると信じております。不安な気持ちはどうしてもありますが」

「あはは」と、控えめに笑いながら、夏楓は言った。
 月卯歌はそんな彼女をじぃっと見ている。

「? なんですか?」
「…………いえ、素敵ですね」

 にこっと笑った月卯歌に、夏楓も笑みを返す。

「はい、本当に私は恵まれております。素敵な人と出会えたことに、私は幸せを感じております。家族からも見放された私が、まさかこんな素敵な方々と出会う事が出来るとは思っておりませんでした」

 微笑みを浮かべながら俯き、悲しげに言った夏楓。
 紅音は今の夏楓の言葉は気がかりだったらしく、片眉を上げた。

「あの、これを聞くのは少々不躾かもしれないのですが、貴方はいつから巫女に? なぜ、巫女になったのですか?」

 月卯歌の言葉に、夏楓はゆっくりと顔を上げ、はかなげな笑みを浮かべた。

「巫女になったのは十の頃、親に売られた時ですよ」

 そこから語られたのは、ずっと一緒に居た紅音ですら知らない夏楓の過去。途中、紅音の手が強く握られ、なにかにこらえる姿が見られた。

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