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最終決戦

自害

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 水分の声が響いた時、歯を食いしばっていた司がやっと口を開いた。だが、それは選択肢に答えるためではない。

「俺は、どっちの選択肢を選んでも、結局は死ぬ。最後は死ぬ。もう、お前の式神に掴まった時点で俺の負け。俺は、死ぬんだ」

 ぶつぶつと何かを言い出した司に弥来は片眉を上げ、靖弥は警戒するように刀を握った。
 水分は札を強く握りながら肩で息をし、司の動きを見続けた。

「どっちにしろ死ぬんだったら、もう、いいか。ははっ、そうだな。もう、いいや。どっちにしろ、死ぬんだったら。せめて、最後は主に従って死ぬことにする」

 俯かせていた顔を上げると、司の顔を見た三人は驚愕。水分を抜いた二人は、一気に臨戦態勢を作った。

「ひひっ、警戒しなくていい。俺はここから動けない。動こうとすれば、頭がかち割る。だから、安心しろよ。お前らにはもう、何もしない」

 焦点のあっていない目を向け、引きつった笑いを零す司。その表情を見た瞬間、水分の顔面も彼と同じくらい真っ青になった。

「っ、弥来!! 今すぐあいつの口に何かを突っ込め!!」
「え、なぜ急に」
「早くしろ! あいつ、自害するつもりだ!!!」

 水分が弥来に叫んだ直後、司は大きく口を開いていた。その口の中、奥歯には何かが埋め込まれている。


 ――――――――ダッ


 全てを察した弥来は地面を強く蹴り、司へと走り出した。

「やめろぉぉぉおおお!!!」

 二人の行動に、この後何が起きてしまうのか予感した靖弥は叫び、行動を止めようとした。弥来も同時に走り出し、司へと手を伸ばした。


 だが――……


 ――――――――カチッ


 靖弥の声は届かず、弥来の手が司の肩を掴む手前。伸ばされた手は、司が体を傾かせたことにより、なにも掴むことが出来なかった。


 ――――――――パタン


 司は何も残さず、何も口にすることなく。仰向けになって倒れ、そのまま、動かなくなった。

「な、なんで。自害してまで…………」
「そこまでしても、守りたかったんだろう。自身が慕っている主を」

 靖弥の隣で座っていた水分は立ち上がり、弥来の隣に移動。腹部の血はいつの間にか止まっていた。
 足取りはまだ不安定で、今にも倒れてしまいそうになっていた。

「水分様……」
「お前は何も悪くない。こいつは、自分でこの選択をした。自分が持っている情報を、自分の命もろとも消し去った。ここまでの覚悟を持っている奴はそうそういない。惜しい奴をなくしたとは、まさにこのことだな」

 地面に倒れ込んだ司を目にした後、水分は振り返り歩き出す。
 誰にも指示を出さず、靖弥の横までも通り抜け、ただひたすら真っすぐを見続けていた。
 靖弥は何をすればいいのかわからず、弥来と水分を交互に見ている。

「あの、行かなくていいんですか?」
「私はこの者の後始末をしなければなりません。貴方は水分様の元に」
「俺が後始末をしますよ? どこに連れて行くかさえ教えていただければ…………」

 靖弥が弥来に言うが、彼は「大丈夫です」と言うだけ。
 弥来の背中を見つめている靖弥は、これ以上何も言えなくなり、頷き水分の後ろを付いて行った。

 残された弥来は、仰向けに倒れ動かなくなった司の口元に手を伸ばす。息がかかる感覚はない、そのため、死んでしまったのは確実だ。

 浅く息を吐き、弥来は周りを見渡した。

 周りは血痕が残されていたり、土器や風呂敷など。普段使っている者が壊れ転がっている。
 酷い惨状を目にし、弥来は一度、目を閉じた。

「確かに、ここまで酷い事をしたのだ。これくらいは当然かもしれない。こうなる事が分かっていたのか、わかっていたからこそ情報を漏らさぬよう、口の中に即死できる毒を顰めておいたのかもしれんな」

 弥来が零した言葉は風に乗り、誰にも聞かれることなく消えた。

 ☆

 水分の後ろを付いて行く靖弥は、先ほどから何も話さなくなった彼に今どこに向かっているかなどの質問する事が出来ない。


 今二人が歩いているのは、水歌村を囲っている森の中。周りは木ばかりで、目印になるものがない。そのため、周りの光景でどこに向かっているのかを考えるのも不可能。

 何も発することなく歩いていると、水分が立ち止まり後ろを振り向かず靖弥に聞いた。

「…………なぜついて来る」
「っ、なんとなくです」
「俺が納得できる理由がないのなら来るな」
「それは無理ですね」
「なぜだ」
「今の水分さんを一人になんて、多分あいつならしないので」

 靖弥が質問に答えると、水分は何も言わなくなる。
 気まずい空気だが、靖弥から何かを話す事が出来ず、ただ我慢するしかない。すると、水分が前を向きながら靖弥に問いかけた。

「お前は今回の件、どう考える」
「え、どう考える、とは?」
「四里司《しりつかさ》は、屍鬼家の陰陽助。屍鬼家は蘆屋家の配下に位置する寮。蘆屋道満が動き出していたようだが、あの者が蘆屋道満に何か言われたからと言って、自身の命を落としてまで情報を隠蔽するとは思えん。それと、今の屍鬼家の陰陽頭である屍鬼魕《しきおに》は戦闘を嫌い、穏便に事を済まそうとする人物だと聞いている。命を落としてまで情報を隠蔽しろなど、そんな指示は絶対に出さないはずだ」

 淡々と話す水分に、靖弥は首を傾げながらも頭の中で整理をし、答えた。

「つまり、今回の件は、屍鬼家が自らから動いたのではなく、蘆屋道満にそそのかされ動き出した。という事でしょうか」
「それだけの理由なら、あそこまではしない。そそのかされたのではなく、脅されたと考えた方がいい」
「お、どされた?」
「あぁ」

 振り向き、水分は靖弥の目を見ながら言い切った。

「おそらく、屍鬼家が言われたのは『いう事を聞かなければ、屍鬼家を潰す』といった内容だろう。蘆屋家の配下についているのなら、蘆屋家の怖さは知っている、強さを知っている。だからこそ、逆らえなかったんだろう」
「つまり、その陰陽頭を守るため、陰陽助は命を懸けて守ったって事?」
「そうだろうな。じゃなければ、あの陰陽助があそこまでやらんだろう。蘆屋道満がそこまで予想していたかは知らんが……いや、予想出来ていたとしても、同じことをするだろうな。人の命など、自分の目的を達成するためには犠牲になるのも仕方がないと考えそうだ」
「そんな、いや。あのお方なら…………」

 今まで共に行動していた靖弥だからこそ、水分の憶測は理解出来る。そして、自分もそんな外道なやり方に加担していたことに、酷く悔やんだ。
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