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最終決戦
海坊主
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お互い集中、一歩も引かない。
緊張が広がる空間に、一人残された靖弥は汗をにじませ二人を見るのみ。体を少しでも動かせば、次の瞬間には目の前に刀の先が自分に向けられる。
そんな錯覚にとらわれ、呼吸すら浅くなる。
お互い、相手の動きを警戒。ほんの少しでも動けば、そこから戦闘が始まる。
――――――ザッ
司がかすかに足を踏みしめた。
刹那――……
「っ、ち」
瞬きをした一瞬で、司は弥来の目の前に。刀を水平に、腹部めがけて突く。
弥来はすぐ体を横に、くるりと司の背後に回る。左足を軸に、地面を強く踏みしめ、右足を蹴り上げた。
姿勢を低くし司は避け、振り向きながら刀を振り上げた。
「っ!? 型も何もないですね」
「元々、俺はこっちの方が性に合っているんでね」
後ろに下がり回避したものの、司の猛攻は止まらない。
すぐに距離を詰められ、弥来は受け流したり横へよけたりと。攻撃を仕掛ける暇を与えてはくれない。
それでも弥来は焦りを見せず、淡々と躱している。
相手が刀というのもあり、うまく避けなければ削られるだけ。そんな状況にもかかわらず、余裕な表情を崩さない弥来に、靖弥は疑問を抱く。
何か企んでいるのか、水分の準備が終わるまでの間だからなのか。だが、靖弥の隣にいる水分は、今だ先ほどから変化はない。
水分の準備が整うのが早いか、弥来が司の攻撃をさばききれなくなるのが早いか。
「これ、どっちが勝つんだ?」
弥来が押されているように見えるが、そう感じない。どっちが勝つかわからない状況に、靖弥は目を輝かせ始めた。
弥来の無駄のない体の動かし方。最小限の動き、相手の動きを見切る洞察力。すべてが靖弥の目にはきれいに映り、目を離させない。
司の動きも彼の目を離させない理由の一つになっている。
隙を見せない刀裁き、相手の動きを制限し、自身の射程距離から離させない猛攻。次から次へと攻撃を仕掛けているのにも関わらず、司自身体力が無限なのか、うまく体力を温存しながら戦っているのか。一切ぶれがなく、息すら切らしていない。
水分は一瞬、隣に目を向ける。
口角を上げ、目を輝かせながら二人の戦闘を見ている靖弥に目を細めた。
「おめぇ、もしかして結構な戦闘狂か?」
「っ、え、な、なんで、な? え?」
前触れもなく声をかけられたため、靖弥は一瞬息を飲み心臓を抑えた。驚きすぎて言葉が口から出ていない。
「あの二人の攻防を笑顔で見ていたからな。戦闘が好きなんじゃいかと思って聞いてみたんだが、今の反応的に図星か?」
「そ、そんなことないですよ。笑ってもいないです…………」
「自覚なしか」
わざとらしく肩を落とし、水分はため息を吐いた。彼の様子にむっとなる靖弥だったが、水分の手に持っているお札を目にして怒りが収まった。
「あの、出来たんですか?」
水分が手にしている札はさっきから変化がない。
淡く光っているが、時間をかけて出すほどの式神だ。もっと光っていたり、何か変化があってもいいはず。
まだ準備段階なのかと、靖弥はじぃっと水分を見つめた。
「あぁ、もう発動した」
「――――――――え?」
水分の言葉を理解出来ず、靖弥はぽかんとしてしまった。
「なんだこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
司の叫び声。すぐに靖弥が声の聞こえた方を向くと、驚愕した顔で固まった。それもそのはず。
司の後ろには黒い肌に、着物。坊主姿の男性が見下ろしながら立っていた。それだけならすぐに刀を向けて倒せばいい。だが、それは出来ない。理由は、男性の身長。
司の倍以上、三メートルはある背丈。司の頭に片手を置き、今にもにぎりつぶそうとしている。
「出す事が出来たんですね、水分さんが持っている中でも強い部類に入る式神、海坊主」
「結構法力吸い取られっから、あんま長くは持たないけどな」
水分は口で言っている通り、怪我も相まって体が震えだし、瞼が今にも落ちそうになっている。もって数分。その間に決着を付けなければ、水分が倒れてしまう。
「さぁ、これで勝負はついただろ。ここで選択肢だ」
水分が人差し指と中指を立て、頭を掴まれ身動きが取れない司に言い放った。
「選択肢、だと?」
「そうだ。ちなみに、何か余計な事を言うと、後ろの奴が黙っていないからな」
「はぁ? おい、ふざけっ―――……」
水分の態度の言葉にいら立ち、暴言を吐こうとした瞬間、頭に鋭い痛みが走り最後まで言えず顔を歪め唸ってしまった。
「い”っ!!」
「言っただろ。余計なことを言うと、どうなるかわからんよ? 反論しないで話を聞いた方がいいんじゃねぇか?」
苦虫を潰したような顔を浮かべ、司は口を閉ざした。
「いいか、しっかり聞けよ。俺がこれからおめぇに提示する選択肢は二つ。一つは、なぜ俺を襲ったのか、なぜこんな事をしたのか。洗いざらい晒す事。もう一つは、なんも言わずそのまま死ぬ。どっちでも俺はいいぞ」
「なっ、くそ」
何か言いたく口を開くが、頭に乗せられている手に力を込められたため、不服を吐き出し終わる。
「時間を設けるか? 時間切れの場合は、すぐさま殺す。さぁ、どうする?」
上げていた腕でさえ重く感じ、水分は腕を下ろし回答を急かした。
歯をかみしめ、刀を持っている手を震わせる。何を言えばいいのか、どういえばこの手をどいてくれるか。司の頭の中で駆け回る。だが、良い案は浮かばず血走らせた目を水分に向けた。
水分は早く答えさせるべく、舌打ちを零し口を開いた。
「っ、さぁ、早く答えろ!」
緊張が広がる空間に、一人残された靖弥は汗をにじませ二人を見るのみ。体を少しでも動かせば、次の瞬間には目の前に刀の先が自分に向けられる。
そんな錯覚にとらわれ、呼吸すら浅くなる。
お互い、相手の動きを警戒。ほんの少しでも動けば、そこから戦闘が始まる。
――――――ザッ
司がかすかに足を踏みしめた。
刹那――……
「っ、ち」
瞬きをした一瞬で、司は弥来の目の前に。刀を水平に、腹部めがけて突く。
弥来はすぐ体を横に、くるりと司の背後に回る。左足を軸に、地面を強く踏みしめ、右足を蹴り上げた。
姿勢を低くし司は避け、振り向きながら刀を振り上げた。
「っ!? 型も何もないですね」
「元々、俺はこっちの方が性に合っているんでね」
後ろに下がり回避したものの、司の猛攻は止まらない。
すぐに距離を詰められ、弥来は受け流したり横へよけたりと。攻撃を仕掛ける暇を与えてはくれない。
それでも弥来は焦りを見せず、淡々と躱している。
相手が刀というのもあり、うまく避けなければ削られるだけ。そんな状況にもかかわらず、余裕な表情を崩さない弥来に、靖弥は疑問を抱く。
何か企んでいるのか、水分の準備が終わるまでの間だからなのか。だが、靖弥の隣にいる水分は、今だ先ほどから変化はない。
水分の準備が整うのが早いか、弥来が司の攻撃をさばききれなくなるのが早いか。
「これ、どっちが勝つんだ?」
弥来が押されているように見えるが、そう感じない。どっちが勝つかわからない状況に、靖弥は目を輝かせ始めた。
弥来の無駄のない体の動かし方。最小限の動き、相手の動きを見切る洞察力。すべてが靖弥の目にはきれいに映り、目を離させない。
司の動きも彼の目を離させない理由の一つになっている。
隙を見せない刀裁き、相手の動きを制限し、自身の射程距離から離させない猛攻。次から次へと攻撃を仕掛けているのにも関わらず、司自身体力が無限なのか、うまく体力を温存しながら戦っているのか。一切ぶれがなく、息すら切らしていない。
水分は一瞬、隣に目を向ける。
口角を上げ、目を輝かせながら二人の戦闘を見ている靖弥に目を細めた。
「おめぇ、もしかして結構な戦闘狂か?」
「っ、え、な、なんで、な? え?」
前触れもなく声をかけられたため、靖弥は一瞬息を飲み心臓を抑えた。驚きすぎて言葉が口から出ていない。
「あの二人の攻防を笑顔で見ていたからな。戦闘が好きなんじゃいかと思って聞いてみたんだが、今の反応的に図星か?」
「そ、そんなことないですよ。笑ってもいないです…………」
「自覚なしか」
わざとらしく肩を落とし、水分はため息を吐いた。彼の様子にむっとなる靖弥だったが、水分の手に持っているお札を目にして怒りが収まった。
「あの、出来たんですか?」
水分が手にしている札はさっきから変化がない。
淡く光っているが、時間をかけて出すほどの式神だ。もっと光っていたり、何か変化があってもいいはず。
まだ準備段階なのかと、靖弥はじぃっと水分を見つめた。
「あぁ、もう発動した」
「――――――――え?」
水分の言葉を理解出来ず、靖弥はぽかんとしてしまった。
「なんだこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
司の叫び声。すぐに靖弥が声の聞こえた方を向くと、驚愕した顔で固まった。それもそのはず。
司の後ろには黒い肌に、着物。坊主姿の男性が見下ろしながら立っていた。それだけならすぐに刀を向けて倒せばいい。だが、それは出来ない。理由は、男性の身長。
司の倍以上、三メートルはある背丈。司の頭に片手を置き、今にもにぎりつぶそうとしている。
「出す事が出来たんですね、水分さんが持っている中でも強い部類に入る式神、海坊主」
「結構法力吸い取られっから、あんま長くは持たないけどな」
水分は口で言っている通り、怪我も相まって体が震えだし、瞼が今にも落ちそうになっている。もって数分。その間に決着を付けなければ、水分が倒れてしまう。
「さぁ、これで勝負はついただろ。ここで選択肢だ」
水分が人差し指と中指を立て、頭を掴まれ身動きが取れない司に言い放った。
「選択肢、だと?」
「そうだ。ちなみに、何か余計な事を言うと、後ろの奴が黙っていないからな」
「はぁ? おい、ふざけっ―――……」
水分の態度の言葉にいら立ち、暴言を吐こうとした瞬間、頭に鋭い痛みが走り最後まで言えず顔を歪め唸ってしまった。
「い”っ!!」
「言っただろ。余計なことを言うと、どうなるかわからんよ? 反論しないで話を聞いた方がいいんじゃねぇか?」
苦虫を潰したような顔を浮かべ、司は口を閉ざした。
「いいか、しっかり聞けよ。俺がこれからおめぇに提示する選択肢は二つ。一つは、なぜ俺を襲ったのか、なぜこんな事をしたのか。洗いざらい晒す事。もう一つは、なんも言わずそのまま死ぬ。どっちでも俺はいいぞ」
「なっ、くそ」
何か言いたく口を開くが、頭に乗せられている手に力を込められたため、不服を吐き出し終わる。
「時間を設けるか? 時間切れの場合は、すぐさま殺す。さぁ、どうする?」
上げていた腕でさえ重く感じ、水分は腕を下ろし回答を急かした。
歯をかみしめ、刀を持っている手を震わせる。何を言えばいいのか、どういえばこの手をどいてくれるか。司の頭の中で駆け回る。だが、良い案は浮かばず血走らせた目を水分に向けた。
水分は早く答えさせるべく、舌打ちを零し口を開いた。
「っ、さぁ、早く答えろ!」
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