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最終決戦

陰陽助

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「何だって!? どこで、何が始まっているの!?」

 ま、まさか、紅音達の方で動き出しているのか!? 蘆屋道満が動き出したのなら、紅音達にも何か被害が出ているはず。だって、今は蘆屋道満の子孫である蘆屋藍華の元にいるのだから。

『落ち着け、優夏』
「あ、ご、ごめん」

 駄目だ、今取り乱したところで意味はない。冷静に現状を把握して、対応しなければ足元をすくわれる。

「どこで戦闘が行われているかはわかるのか?」
『私が見えた光景をご説明しますと、寂れた村の中、一人の陰陽師が戦っている光景です』

 寂れた村、一人の陰陽師? それに今該当するのって……。

「っ、待って!! 一人は危険ですよ!! 弥来さん!!!」

 やばい、一人で弥来さんが走って行ってしまった。追いかけないと!

「俺が行く、お前は件の予言をもっと深くまで聞いておけ!!」
「え、ちょ!! 靖弥!!」

 二人とも行って、しまった……。大丈夫だろうか。

『今は二人に任せようか』
「い、いいのかなぁ……」
『任せるしかないと思うよ。今慌てて向かった所で、いい結果になるとは限らない。実力は本物だよ。僕達が慌てる必要はない』
「確かに……。靖弥も強いし、弥来さんと水分さんも強い。問題はないか」
『うん、なら僕達がやることはわかるよね?』
「うん」

 俺達のやる事、それは件から情報を聞き、一番の最適な行動を導き出す事。そして、少しでも被害を抑え、誰も死なないようにする。

 絶対に、もう誰も死なせないから。

 ☆

 廊下に飛び出した弥来と靖弥は、お互い前だけを見て必死に走っている。
 向かっている先には、水歌村の人達が避難している一つの村。そこには水分が今、一人で戦っている。それを件は予言した。

「弥来さん!! 避難場所はここから近いんですか!?」

 靖弥の問いかけに答える余裕のない弥来は、汗を流し、拳を強く握りながら走り続ける。

 どんどん走ると森の中に入り、木に囲まれ視界が遮れる。足が取られそうになりながらも靖弥は弥来を見失わないように気を付けながら必死について行った。すると、徐々に周りに立っていた木が少なくなり、開けた場所に。

「水分様!!!」

 弥来が叫ぶと同時に、靖弥は目の前に広がる光景に驚愕。

「これは……」

 地面には赤い血が至る所に点々と付いており、村の人達が生活していたであろう古い布は切り裂かれていた。
 食事中だったのか、中身が残っている土器が転がっている。だが、人は誰もいない。

 倒れている人や、動けない人など。そういう人はおらず、何かがあった跡だけが残されていた。

「これは……」

 靖弥が立ち止まっている弥来の前に出て周りの状況を確認していると、地面が濡れている事に気づく。
 血で赤く染まっている以外の場所、不自然に濡れている。

「水分さんが水妖で戦っているのか?」


 ――――――――バシャン!!


「「っ!」」

 村の奥の方から水の音が聞こえ、二人は再度走り出す。まだ戦闘は終わっていないと直感で感じ取った二人は、自身の式神を取り出し、戦闘態勢に。
 走り続けていると、一人の青年の影が見え始めた。

「水分様!! 助けに――」

 弥来は水分の姿を見て言葉を止める。靖弥ですら言葉を続けることが出来ず、足を止めてしまった。

「あ、来たか……。たすか、た…………」

 ばたんと、水分は二人の姿を確認すると、力なく地面へと倒れ込んでしまった。腹部からは大量の血、地面に広がり赤い絨毯が作り出される。

 水分の近くに立っているのは、一人の青年。
 短い黒髪、大きな丸縁眼鏡から覗くのは、水色の瞳。袴を身に着け、手には赤く染まっている刀が握られていた。

 靖弥はその人物を知っている。知っているからこそ、目を見開き、その場から動けず口も動かない。

「貴様……、水分様に、なんてことを!!!」


 ――――――ダンッ


 地面を強く蹴り、弥来は刀を握る青年に走る。

 顔を上げた青年は無表情のまま向かってくる弥来を見据え、刀を構えた。
 刀の射程内に入ると、振り上げた刀を弥来めがけて下ろす。視界に入った刀を彼は横に一歩ずれるだけで躱した。
 下ろされた右手を掴み、ひねりあげ刀を落とさせた。

「グッ!」
「貴方は私を怒らせました、貴方をここで殺します」

 殺気が放たれている瞳で青年を見つめ、ひねりあげた手首を強く握る。先ほどより顔を歪め、青年は逃れようと弥来に蹴りを食らわせた。

 手首を離し蹴りを躱し、後ろに。掴まれていた手首を支え、よろめきながら青年は弥来を見つめた。

「陰陽師だからと言って、体術が苦手という訳ではありませんよ。舐めないでいただきたい」

 言いながら弥来は構えを取る。右足を前に出し、両手を胸辺りまで上げ、指先までぴんと伸ばす。
 息を吐き、攻めるタイミングを測った。

 靖弥は倒れ込んでいる水分の傷口に布を当て、止血をしながら二人の動向を見ていた。

「あの人って、確か魕さんと一緒に居た、よわよわしかった側近。たしか、司と呼ばれていた。なんで、その人がここに」

 靖弥が呟くと、水分は意識がまだ残っていたらしく、唸るように靖弥の質問に答えた。

「ごほっ、そいつは確か。屍鬼家の、陰陽助である、四里司しりつかさ
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