上 下
195 / 246
三人修行

絶対に負けない

しおりを挟む
 僕の言葉を無視して蝋燭を見ていた琴葉が急に何を思ったのか、蝋燭を真っ二つに割った……わっ、わ? 割った!?

『…………怒りをぶつけたいのは自由な陰陽助に振り回されている僕なんだけど』
「俺は別に怒ってないぞ。ただ、折っただけ」
『意味は?』
「このくらいの長さならお前でも持てるかと思ったんだが、どうだ?」

 渡してきたのは、真っ二つになっている蝋燭。火は僕が落した時に消えているから問題はないみたいだけど、まさか折って寸法調整するなんて。いいの?

 ……持ってみたけど、意外とちょうどいい。なんか、腹が立つ。

「それじゃん、やってみて」
『わかった』

 もう無理やりやらされるなんて御免だし、それなら自分でやる。

 まだ法力は安定していないけど、やろうと思えばできるはず。だって、僕なんだから。法力さえ使えるようになったら、僕はもう前みたいに何もできない役立たずではない。

「よし、火をつけるからな」
『わかった』

 琴葉が火をつけた、赤く燃える炎。このまま消さないようにすればいいんだよね。そんなのかんたっ――……


 ――――――シュッ


『っ、え?』

 きえ、た?
 
『これ、なんできえっ――ちょっと』

 隣で琴葉がお腹を抱えて笑っているんだけど、なに。その後ろでは水分が腕を組み”当たり前だろ”というように頷いている。二人の反応が本当にむかつく、むかつく!!!

『…………』
「いったい!!! え、なんで?」
『そういえば、蝋燭を持てるようになったから人のことも蹴ることもできるよねと思っただけ。今回、ちょうどよく試せる人がいたから試しただけ、何か文句ある?』
「……イーエ」
『そう、それなら僕を睨まないでくれる? 不愉快』
「酷いなぁ」

 琴葉の脛を試しに蹴ってあげた。もちろん、怒りを込めて。

『どうして消えたの』
「今の俺に聞くの? 君に蹴られて痛がっている俺に聞くの?」
『自分のせい』
「少しは自分の非を認めようよ、ほんの少しでもいいから。自分か蹴ってしまったからとか」
『早く教えて』
「まったくもぉ、単純な話だよ。この火は法力で消えるようになっているんだ。だから、蝋燭を持っている手から法力が火に伝わって、消えてしまったんだよ」

 法力で消えるのなら、確かにさっき消えたのは仕方がないのか。

 そもそも、今の僕は法力そのもの。蝋燭を持てるようにちりばめられている法力を手に出来る限り集中している状態。これだけでも結構疲れるのに、さらに範囲を狭めて火を消さないで蝋燭を持ち続けろってことだよね。

 …………へぇ、なるほどね。

「難しそうかい? できそうにないのならまた段階を踏むから言ってくれて構わないよ」
『何言ってんの、やるに決まってんじゃん』
「ん?」

 こんなやりがいのなる修行、今まで経験してこなかった。難しいし、できる保証なんてない。高度な技術がなければ成功できるはずのない、奇跡など期待できない修行。

『面白いじゃん、やってあげるよ』

 これは、本当に楽しみ。出来るようになった時、必ず成果がわかる。

 あぁ、心臓が高鳴る。面白い、難しいからこそ、楽しいよね。

『優夏になんて負けないから、必ず僕も、役に立ってやる』

 ☆

「ハックション!!」
「っ、なんだ? 寒いのか?」
「いや、特に寒くない。なんか、鼻がムズムズしただけ。気にしないで」

 あー、誰かが俺の噂をしているのかもしれないなぁ。いや、さすがに自意識過剰すぎるか。

「どうしましたか優夏さん、次行きますよ」
「あ、はい!!」

 弥来さんに呼ばれたから行かないと。水分補給はしっかりととれたし、疲労も問題ない。なんか、違和感はあるけど、そこまで気にするほどではないし。もしなんかあれば闇命君が飛び出してくるだろうしなぁ。『僕の体で何をするのさ!』って感じで。

「それじゃ、また模擬戦をお願いします」
「「はい! よろしくお願いします!」」

 今以上に必ず強くなって、今まで僕を馬鹿にしていた闇命君を見返してやるんだから。なんでも闇命君に頼り切りもよくないし、絶対に負けない。

「闇命君に少しでも認められるように強くなる、絶対に負けないから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

いつもからかってくる人に喘ぎ声を出させた

サドラ
大衆娯楽
「僕」は大学生。彼女はいない。しかし、高校からの同級生に密かに思いを寄せていた。そんな彼女の弱点を握った彼は…

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...