189 / 246
三人修行
頼ってばかりでは
しおりを挟む
眉を顰め考えに考えるが、弥来は琴葉の言いたいことがわからず答えを導き出す事が出来ない。
数分は経ったが、琴葉も口を閉ざし続けている。答えへの道しるべなどもなしなのか、ここまで来たら手がかり程度は言ってあげてもいいと思うんだけど。
「…………水分様…………」
っ、今、こいつ。自分の主の名前を口にした。琴葉も気づき目を細める。あと、もう少し、もう少しで答えを導き出す事が出来る。
諦めるなよ、それがわかれば、おそらくこいつも見る世界が変わるかもしれない。
今まで見ていた世界が全てではなく、他にも様々な人の世界がこの現実には転がっている。視野を広げる事で戦略や今後の行動の幅を広げるだけではなく、他の人の人生も知る事が出来る。
僕は自分の世界しか見る事が出来ていなかったけど、今は違う。ある奴のおかげで目が覚めた。人の世界を見る方法を。
こいつはわかるだろうか、お前の主である水分が、今までどのような人生を送ってきたのか。理解出来るだろうか、水分がお前をどう思っているのか。
あの、もう助からないであろう村人達ですら見捨て、切り捨てる事が出来なかった、心優しい人物の心情が。
「…………水分様は今、何をしておられるのでしょうか。やはり、私の事を憎んでおられるのでしょうか。私を、許してはいないでしょうか」
「それは本人に聞いてほしいものだが、まぁいい。それは事前に聞き出しているから」
え、聞き出している?
「あいつは全く怒っていなかったぞ。それより、何故あのようになってしまったのかを考え、答えを導き出そうとしていた。お前の事は被害者の一人で、守るべき村人の一人と考えている。じゃなければ、今頃お前はここにいない。あいつの性格上、いらなくなった危険な奴を放置することはない。必ず、すぐに処分するだろう。危険な人物は排除、予め村への危険はなくす。それがあいつだろ? それがわかった今、最初と意見は変わらないか?」
淡々と、抑揚がない。感情をあえて乗せないようにしているのか、声質ではわからないな。表情もなく、感じ取れない。
こういう所が、琴葉の怖い所だ。感情を相手に悟らせない。それは、自分の手の内を晒さないともとれる。
琴葉の言葉に、弥来は目をゆっくりと開き、琴葉を見上げる。やっと、この人が何を言いたいのかわかったみたい。
「水分さんは、俺の事をまだ…………」
「だと思うぞ。じゃなかったら、今頃お前はここに居ない。俺が殺してるっつーの」
つまり、琴葉は水分の気持ちを一番に考え行動していたという事か。こういう所は琴平の兄なんだなと痛感する。
やっぱり、大事な者とそうでない者。見極める力はすごいみたいだな。
「んで、お前はそこから出るか? 出ないか? 牢屋の中に居てもいいが、俺はこの後もまだやる事はある。どちらにしろ、他の奴と変わる事になる、答えを出すのは早くしてあげろよ」
「え、それって――……」
後ろから、人の気配と足音。この流れで来る人って――……
「まったく、もう少し早く説得してくれ。あと、あまり余計な事まで言うな、約束が違うだろう」
「なんの事かわからんな。俺が頼まれたのは、こいつが落ち着いて話が出来るまで宥める事。何を話すかまでは指定されていない」
「屁理屈言うな」
「へいへい」
奥から来たのは、呆れ顔を浮かべている水分。今の会話から察するに、前もってこの状況を作り出す事を話しあっていたな。いつ話していたんだよ、いつも修行の相手で昼間は離れているし、それ以外でも僕達は一緒に居た。話し合う時間なんてなかったはず。
もしかしてこの人達、夜寝てないの? 話せるのは夜しかないと思うけど、まさか睡眠を削ってまでこんなことを? この人達、馬鹿なの?
「ここからはお前の番だ。俺は予想外に行動を起こしたこいつの話を聞かんと行けない。人気者は辛いねぇ」
『いいから早く。寝る時間が無くなる』
「はいはい」
そのまま琴葉は、水分を地下牢に置いて上に歩いて行く。後ろから話し声が聞こえないけど、今の弥来なら大丈夫だろう。気持ち的には落ち着いていたし、人の話もしっかりと届いていた。
後は、水分がなんと声をかけるのか。結果は明日分かると思うし、これからは僕のやりたい事をこいつを利用してやって行う。
僕だって、もう、自分の身体に頼ってばかりではいられない。
数分は経ったが、琴葉も口を閉ざし続けている。答えへの道しるべなどもなしなのか、ここまで来たら手がかり程度は言ってあげてもいいと思うんだけど。
「…………水分様…………」
っ、今、こいつ。自分の主の名前を口にした。琴葉も気づき目を細める。あと、もう少し、もう少しで答えを導き出す事が出来る。
諦めるなよ、それがわかれば、おそらくこいつも見る世界が変わるかもしれない。
今まで見ていた世界が全てではなく、他にも様々な人の世界がこの現実には転がっている。視野を広げる事で戦略や今後の行動の幅を広げるだけではなく、他の人の人生も知る事が出来る。
僕は自分の世界しか見る事が出来ていなかったけど、今は違う。ある奴のおかげで目が覚めた。人の世界を見る方法を。
こいつはわかるだろうか、お前の主である水分が、今までどのような人生を送ってきたのか。理解出来るだろうか、水分がお前をどう思っているのか。
あの、もう助からないであろう村人達ですら見捨て、切り捨てる事が出来なかった、心優しい人物の心情が。
「…………水分様は今、何をしておられるのでしょうか。やはり、私の事を憎んでおられるのでしょうか。私を、許してはいないでしょうか」
「それは本人に聞いてほしいものだが、まぁいい。それは事前に聞き出しているから」
え、聞き出している?
「あいつは全く怒っていなかったぞ。それより、何故あのようになってしまったのかを考え、答えを導き出そうとしていた。お前の事は被害者の一人で、守るべき村人の一人と考えている。じゃなければ、今頃お前はここにいない。あいつの性格上、いらなくなった危険な奴を放置することはない。必ず、すぐに処分するだろう。危険な人物は排除、予め村への危険はなくす。それがあいつだろ? それがわかった今、最初と意見は変わらないか?」
淡々と、抑揚がない。感情をあえて乗せないようにしているのか、声質ではわからないな。表情もなく、感じ取れない。
こういう所が、琴葉の怖い所だ。感情を相手に悟らせない。それは、自分の手の内を晒さないともとれる。
琴葉の言葉に、弥来は目をゆっくりと開き、琴葉を見上げる。やっと、この人が何を言いたいのかわかったみたい。
「水分さんは、俺の事をまだ…………」
「だと思うぞ。じゃなかったら、今頃お前はここに居ない。俺が殺してるっつーの」
つまり、琴葉は水分の気持ちを一番に考え行動していたという事か。こういう所は琴平の兄なんだなと痛感する。
やっぱり、大事な者とそうでない者。見極める力はすごいみたいだな。
「んで、お前はそこから出るか? 出ないか? 牢屋の中に居てもいいが、俺はこの後もまだやる事はある。どちらにしろ、他の奴と変わる事になる、答えを出すのは早くしてあげろよ」
「え、それって――……」
後ろから、人の気配と足音。この流れで来る人って――……
「まったく、もう少し早く説得してくれ。あと、あまり余計な事まで言うな、約束が違うだろう」
「なんの事かわからんな。俺が頼まれたのは、こいつが落ち着いて話が出来るまで宥める事。何を話すかまでは指定されていない」
「屁理屈言うな」
「へいへい」
奥から来たのは、呆れ顔を浮かべている水分。今の会話から察するに、前もってこの状況を作り出す事を話しあっていたな。いつ話していたんだよ、いつも修行の相手で昼間は離れているし、それ以外でも僕達は一緒に居た。話し合う時間なんてなかったはず。
もしかしてこの人達、夜寝てないの? 話せるのは夜しかないと思うけど、まさか睡眠を削ってまでこんなことを? この人達、馬鹿なの?
「ここからはお前の番だ。俺は予想外に行動を起こしたこいつの話を聞かんと行けない。人気者は辛いねぇ」
『いいから早く。寝る時間が無くなる』
「はいはい」
そのまま琴葉は、水分を地下牢に置いて上に歩いて行く。後ろから話し声が聞こえないけど、今の弥来なら大丈夫だろう。気持ち的には落ち着いていたし、人の話もしっかりと届いていた。
後は、水分がなんと声をかけるのか。結果は明日分かると思うし、これからは僕のやりたい事をこいつを利用してやって行う。
僕だって、もう、自分の身体に頼ってばかりではいられない。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる