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三人修行
飲み仲間だけではない
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「うっ、うっ。申し訳ありません、水分様。私は最低な陰陽助です。私など、殺してくれても良かったというのに。なぜ私はこのように生きてしまっているのでしょうか。あぁ、早く誰か、私を殺してください」
牢屋の中には体を丸め蹲り、涙をこぼしている弥来の姿。眼鏡を手で握っているけど、力が込められているみたい。
そんな高級な物を乱暴な扱い方してもいいの? 壊れても知らないからね。
「やぁ、久しぶりだよ弥来。俺の事は覚えているか?」
「っ! この声、もしかして月花様でしょうか。私を殺してくださいお願いします。貴方なら、私を殺せるでしょう。今だけは、私が女性でなかったことを酷く安堵しております」
「ひとまず落ち着いてくれると助かるよ。俺は、確かに自分に不都合がある人間はことごとく捨ててきたけど、今回は別。俺だって。今ままで仲良く話していた人を捨てるのには勇気がいるんだよ? そこはわかってほしいな」
土下座してくる弥来に、琴葉は「まぁまぁ」と落ち着かせるように諭す。それでも弥来は土下座をやめる事はせず、「うっうっ」と嗚咽を零していた。
これは確実に記憶が残っているな。それがわかったのは良かったけど、ここまで反省するの? 別に、ここまで気にしなくていいと思うんだけど。
「反省もしっかりしたみたいだし、今は顔を上げて? 話したい事があるんだ」
琴葉は片膝を付き、手を差し伸べるように弥来を起き上がらせようとした。少しだけ顔を上げた弥来、涙の痕が顔についてるよ、汚い。
ド真面目な性格からは想像できない表情をしているから、なんとなく笑ってしまう。琴葉も笑いを堪えているのか、さっきから肩が震えてる。僕が肩に乗っているんだから振動はやめてよ、落ちそうになるじゃん。
「残念な顔になっているよ弥来。せっかく整った顔をしているのに台無しじゃないか」
「うるさいですよ、私に触らないでください。今すぐ私を殺してください。私は重い罪を犯してしまいました。自身の主やお客人にあのような事をしてしまうなんて、私は生きていてはいけないのです」
ド真面目だからこその思考だな。そこまで思いつめてしまった人間を説得するのは骨が折れそうだけど、どうするのだろうか。琴葉は言葉の使い方が上手い印象だし、感情を隠すのも得意。上手くこの場を切り抜けそうだから僕はこのまま寛がせてもらうよ。
「そうかぁ。でも、それは俺的にも困るだよ、お前に死なれると」
「なぜだ」
「当たり前だろ、酒飲み仲間が一人減るという事だ。俺は悲しいぞ」
「今すぐ俺を殺せ」
「おい、俺の哀しさは無視かよ」
「無視しているわけではないです。ただ、貴方には飲み仲間と呼べる友人は他に沢山いると言いたいのです。貴方は人との距離を考えず、いつの間にか懐にいるような人です。なので、私一人が居なくなったところで、何か困るのですか?」
冷たいはずの床に正座をし、膝の上に置いている拳を強く握る。悔しげな声が聞こえ、琴葉も思わず口を閉ざしてしまった。ここまで意志が固いと、いくら言葉が上手い琴葉でも難しいのかな。
「なるほどな。まぁ、俺は人気者だからな、お前一人が居なくなったところで他の奴に付き合ってもらえばいい」
「そうだろう。だから、今すぐ俺を――……」
「だが、それは俺の話であって、他の奴はどう考えるだろうな」
腕を組み、気にならせるような言葉を吐く。
弥来は俯かせていた顔を上げ、今にも泣き出しそうな顔を俺達に向けてきた。
「飲み仲間はお前の他にも沢山いるが、お前の変わりは誰もいない。俺にとってお前は飲み仲間だから、他に変わりを見つければ特に俺自身は問題ないと考えている。だが、お前は俺以外の奴からも、ただの飲み仲間だと思われていると思うか?」
「どういうことだ。もっとわかりやすく説明しろ」
「そうだなぁ。人それぞれ、他人に対する思いや期待は違うという事だ。俺がお前を飲み仲間だと思っているからと言って、肩にいるこいつもお前の事を飲み仲間と思っているとは限らない。こいつは、お前の事をまた違った目線で見ている」
横目で僕を見ながら説明を続けている。めんどくさいからなにも言わないけどさ、巻き込まないでよ。意見とかを求められても、僕は黙秘を貫くよ。
「俺にとってはお前は飲み仲間、こいつにとってはただの顔見知りの可能性があるな。出会ったばかりだろうから仕方がないが」
分かっているじゃん、そうだよ。さすがに少ししか話していないのだから、感情移入しろとか無理。優夏ならしそうだけど。
「俺達だけではなく、戻れば他に沢山の奴がいるだろう。皆が皆、お前の事を顔見知りだの飲み仲間だのと思っているとは限らない。そんな中で、お前は他の奴らの気持ちや意見を聞かず、自己満で殺されるつもりか? それでも殺されたいのなら、俺は喜んでお前を殺すぞ、喜んでな」
鼻を鳴らし、それっきり口を閉ざした。もう言い切ったっていう顔を浮かべているけど、弥来は全てを理解していないみたいだよ。上げた顔を俯かせて、思い悩んでいるような空気を醸し出している。
正直、僕も何を言いたいのかわかっ――……
『あ、もしかして』
琴葉の言葉に反応してしまい、思わず口から出てしまった。すぐに、なぜか僕の口を押え、人差し指を口にあて、秘密とでもいうように僕に訴えてくる。これは、自身で解決しないといけないやつか。
今も弥来は「うーん」と首を傾げ、頭を悩ませている。これ以上の答えへの手掛かりは絶対に与えないというように、琴葉は口を閉ざしたまま。自分で考えさせ、自分なりの答えを出させようとしている。
……優夏なら一瞬でわかるだろうけど、多分この人には難しいだろな。視野も狭くなっているみたいだし、僕もわかるのに時間がかかった。
でも、思いつかない限り、今の現状を変えることはできないみたいだし、頑張れ。
牢屋の中には体を丸め蹲り、涙をこぼしている弥来の姿。眼鏡を手で握っているけど、力が込められているみたい。
そんな高級な物を乱暴な扱い方してもいいの? 壊れても知らないからね。
「やぁ、久しぶりだよ弥来。俺の事は覚えているか?」
「っ! この声、もしかして月花様でしょうか。私を殺してくださいお願いします。貴方なら、私を殺せるでしょう。今だけは、私が女性でなかったことを酷く安堵しております」
「ひとまず落ち着いてくれると助かるよ。俺は、確かに自分に不都合がある人間はことごとく捨ててきたけど、今回は別。俺だって。今ままで仲良く話していた人を捨てるのには勇気がいるんだよ? そこはわかってほしいな」
土下座してくる弥来に、琴葉は「まぁまぁ」と落ち着かせるように諭す。それでも弥来は土下座をやめる事はせず、「うっうっ」と嗚咽を零していた。
これは確実に記憶が残っているな。それがわかったのは良かったけど、ここまで反省するの? 別に、ここまで気にしなくていいと思うんだけど。
「反省もしっかりしたみたいだし、今は顔を上げて? 話したい事があるんだ」
琴葉は片膝を付き、手を差し伸べるように弥来を起き上がらせようとした。少しだけ顔を上げた弥来、涙の痕が顔についてるよ、汚い。
ド真面目な性格からは想像できない表情をしているから、なんとなく笑ってしまう。琴葉も笑いを堪えているのか、さっきから肩が震えてる。僕が肩に乗っているんだから振動はやめてよ、落ちそうになるじゃん。
「残念な顔になっているよ弥来。せっかく整った顔をしているのに台無しじゃないか」
「うるさいですよ、私に触らないでください。今すぐ私を殺してください。私は重い罪を犯してしまいました。自身の主やお客人にあのような事をしてしまうなんて、私は生きていてはいけないのです」
ド真面目だからこその思考だな。そこまで思いつめてしまった人間を説得するのは骨が折れそうだけど、どうするのだろうか。琴葉は言葉の使い方が上手い印象だし、感情を隠すのも得意。上手くこの場を切り抜けそうだから僕はこのまま寛がせてもらうよ。
「そうかぁ。でも、それは俺的にも困るだよ、お前に死なれると」
「なぜだ」
「当たり前だろ、酒飲み仲間が一人減るという事だ。俺は悲しいぞ」
「今すぐ俺を殺せ」
「おい、俺の哀しさは無視かよ」
「無視しているわけではないです。ただ、貴方には飲み仲間と呼べる友人は他に沢山いると言いたいのです。貴方は人との距離を考えず、いつの間にか懐にいるような人です。なので、私一人が居なくなったところで、何か困るのですか?」
冷たいはずの床に正座をし、膝の上に置いている拳を強く握る。悔しげな声が聞こえ、琴葉も思わず口を閉ざしてしまった。ここまで意志が固いと、いくら言葉が上手い琴葉でも難しいのかな。
「なるほどな。まぁ、俺は人気者だからな、お前一人が居なくなったところで他の奴に付き合ってもらえばいい」
「そうだろう。だから、今すぐ俺を――……」
「だが、それは俺の話であって、他の奴はどう考えるだろうな」
腕を組み、気にならせるような言葉を吐く。
弥来は俯かせていた顔を上げ、今にも泣き出しそうな顔を俺達に向けてきた。
「飲み仲間はお前の他にも沢山いるが、お前の変わりは誰もいない。俺にとってお前は飲み仲間だから、他に変わりを見つければ特に俺自身は問題ないと考えている。だが、お前は俺以外の奴からも、ただの飲み仲間だと思われていると思うか?」
「どういうことだ。もっとわかりやすく説明しろ」
「そうだなぁ。人それぞれ、他人に対する思いや期待は違うという事だ。俺がお前を飲み仲間だと思っているからと言って、肩にいるこいつもお前の事を飲み仲間と思っているとは限らない。こいつは、お前の事をまた違った目線で見ている」
横目で僕を見ながら説明を続けている。めんどくさいからなにも言わないけどさ、巻き込まないでよ。意見とかを求められても、僕は黙秘を貫くよ。
「俺にとってはお前は飲み仲間、こいつにとってはただの顔見知りの可能性があるな。出会ったばかりだろうから仕方がないが」
分かっているじゃん、そうだよ。さすがに少ししか話していないのだから、感情移入しろとか無理。優夏ならしそうだけど。
「俺達だけではなく、戻れば他に沢山の奴がいるだろう。皆が皆、お前の事を顔見知りだの飲み仲間だのと思っているとは限らない。そんな中で、お前は他の奴らの気持ちや意見を聞かず、自己満で殺されるつもりか? それでも殺されたいのなら、俺は喜んでお前を殺すぞ、喜んでな」
鼻を鳴らし、それっきり口を閉ざした。もう言い切ったっていう顔を浮かべているけど、弥来は全てを理解していないみたいだよ。上げた顔を俯かせて、思い悩んでいるような空気を醸し出している。
正直、僕も何を言いたいのかわかっ――……
『あ、もしかして』
琴葉の言葉に反応してしまい、思わず口から出てしまった。すぐに、なぜか僕の口を押え、人差し指を口にあて、秘密とでもいうように僕に訴えてくる。これは、自身で解決しないといけないやつか。
今も弥来は「うーん」と首を傾げ、頭を悩ませている。これ以上の答えへの手掛かりは絶対に与えないというように、琴葉は口を閉ざしたまま。自分で考えさせ、自分なりの答えを出させようとしている。
……優夏なら一瞬でわかるだろうけど、多分この人には難しいだろな。視野も狭くなっているみたいだし、僕もわかるのに時間がかかった。
でも、思いつかない限り、今の現状を変えることはできないみたいだし、頑張れ。
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