上 下
184 / 246
三人修行

たんこぶ

しおりを挟む
『僕は法力に集中するから、一技之長は任せたよ』
「うん」
『…………ところで、僕の一技之長の属性はなに』

 ……………………え。

 ☆

『絶対に許さない』
「見ればわかるから…………ね?」

 闇命君は、今まで自身の法力の強さを知っていたから、一技之長を使うという思考すら頭の片隅になかったみたい。だから、使うための練習をしてこなかったし属性も知らない。
 それを教えてもらって、俺も簡単に説明しようかなとも思ったけど、うまく説明が出来ないなとすぐに断念。見ればわかるし、それで勘弁してくれ。

『…………早くやるよ。仕方がないから』
「あ、はい」

 良かった、闇命君が折れてくれた。まだふてくされてるけど。

「これって、闇命君と完璧に息を合わせないといけないのかな」
『だと思うよ。遅れないでね』
「うっ、気を付けます」

 闇命君と合わせるのは正直自信ないけど、やるしかない。

 不安で鼓動が早くなる心臓を落ち着かせるため、息を大きく吸って、吐いた。もう一回、同じく息を吸い、吐く。

『準備、出来た?』
「うん」
『なら、行くよ』

 お互い目線を交わし、息を合わせる。手に握られているお札に集中し、法力は闇命君に任せ、俺は精神力に集中。

 二人の静かな息遣いが耳に響く。鼓膜を揺らしている息遣いに合わせ、精神力をお札に纏わせるイメージを頭に浮かべた。
 右の手の指先に、二つの力を感じる。これが、精神力と法力か。この二つをお札に纏わせ、百目に送り込む。

 意識し始めて数秒、百目に変化が訪れた。

「あ、あれって…………」
『成功した――って、ことでいいのかな』

 俺達は精神力、法力を切らさないように気を付けながらも、百目を見る。水分さんと水妖も、いきなり姿を変え始めた百目に驚き目を開いていた。

 俺の目の前に立っていた百目に、黒い霧のようなものがまとわりつき始める。それと同時に、体中に隠されていた目が開き始めた。
 腕や足などは服で隠れて見えないが、手の甲や足首にも目が開かれ、前髪で隠されていた黒い瞳までもが、目の前に立っている水妖を睨みつけていた。

 前髪で隠されていた二つの双眸に、一瞬たじろぐ水妖。他にも額や左の頬にも黒い瞳が現れ、今までより遥かに力が増幅しているのが見て取れた。

 もしかして、これも妙技の効果? 元々の力も増幅させ、且つ属性を纏わせる。これは、確かにチート級の力かもしれない。だからこそ、陰陽師なら誰にでも扱える代物ではないという訳か。

 それと、もう一つ。

「体から、勢いよく精神力と法力が吸い取られているような気がするんだけど、これって…………」
『すごい汗だね、まだ力の制御は出来ていないみたい。でも、もう少しだけ頑張ってほしい、ここまで何もしないで終わらせるなんて嫌だよ』
「わかってる!!」

 ここで終わらせるわけない、終わらせるわけにはいかない。ここまでせっかく出来たんだから、水の泡にしてたまるか。

 力が抜ける体を必死に倒れないように堪え、膝に手を置く。汗が頬を伝い、地面に落ち濡らしていた。
 体も震えてきたし、限界が近い。早く、百目に動いてもらわないと!

「百目、水妖を倒せ!!!」

 回らない頭で、短い指示を出す。すると、百目は刀を握り直し、構えた。

『主の、仰せのままに』

 今まで聞いたことがないような低い声、お腹が震えるような感覚に、違う意味で体が震えてきた。

 今の百目が、全力の百目なのか? 

 百目は、腰を落とし抜刀するかのような体勢を作る。水妖は何が来てもいいように口元に手を置き、鋭い瞳を百目に向けていた。
 水分さんも、一粒の汗が頬を伝い、これから何が起きるのか見届けようとしている。

『――――参る』

 百目の声と共に、抜刀。瞬間、いきなり水妖の身体が上下に腹部から真っ二つになった。水しぶきが舞い、地面に落ちる。
 何が起きたのかわからないまま、水妖の体が透明の水になり、地面に落ち姿を消した。

 同時に、何が起きたのかわからない顔を浮かべている水分さん。それもそのはず、今この場で何が起きたのかわかっているのは、技を繰り出した百目のみ。
 隣に立っている闇命君も、何が起きたのかわからないのかぽかんとしている。そんな顔を浮かべる事、出来るんだ。

「えぇぇぇえっと?? 何が起きたんだ?」
『…………百目、説明』
『刀に纏わせた闇を、抜刀と共に放ったのです。頭の中に浮かんだため、試してみた結果、このような現象が起きました』

 百目は立ち直し、俺達の法に向き直り冷静に説明してくれた。

「ここまでの威力を出す事が出来るんだ……。俺が放った時は、ここまでの威力はなかったと思うんだけど」
『もしかして、僕の属性って闇?』
「”闇命君”なだけに、属性は”闇”だよ! やってね!! 名は艇を表す、だよ!!」

 出来る限り可愛く、舌を出しウインク。元の俺がやったら一瞬で殺されるような行動だけど、闇命君の顔面偏差値なら周りの人を一発で落ちるだろ!! おら、俺の可愛さに跪け!!

『…………水分、僕に遠慮はいらない。気持ちをぶつけてほしい。百目は戻っていいよ、さすがに優夏の身体も限界、特に脳が』

 闇命君の言葉に合わせ、百目は頷き静かに札に戻った。水分さんは、何故か指を鳴らしながら俺の元に――え。

「え、な、何っ――……」

 ――――――ごっちぃぃぃぃいいいいいいん!!!!!!

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああい!!!!!!!」

 頭に特大たんこぶが出来ました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...