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三人修行
たんこぶ
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『僕は法力に集中するから、一技之長は任せたよ』
「うん」
『…………ところで、僕の一技之長の属性はなに』
……………………え。
☆
『絶対に許さない』
「見ればわかるから…………ね?」
闇命君は、今まで自身の法力の強さを知っていたから、一技之長を使うという思考すら頭の片隅になかったみたい。だから、使うための練習をしてこなかったし属性も知らない。
それを教えてもらって、俺も簡単に説明しようかなとも思ったけど、うまく説明が出来ないなとすぐに断念。見ればわかるし、それで勘弁してくれ。
『…………早くやるよ。仕方がないから』
「あ、はい」
良かった、闇命君が折れてくれた。まだふてくされてるけど。
「これって、闇命君と完璧に息を合わせないといけないのかな」
『だと思うよ。遅れないでね』
「うっ、気を付けます」
闇命君と合わせるのは正直自信ないけど、やるしかない。
不安で鼓動が早くなる心臓を落ち着かせるため、息を大きく吸って、吐いた。もう一回、同じく息を吸い、吐く。
『準備、出来た?』
「うん」
『なら、行くよ』
お互い目線を交わし、息を合わせる。手に握られているお札に集中し、法力は闇命君に任せ、俺は精神力に集中。
二人の静かな息遣いが耳に響く。鼓膜を揺らしている息遣いに合わせ、精神力をお札に纏わせるイメージを頭に浮かべた。
右の手の指先に、二つの力を感じる。これが、精神力と法力か。この二つをお札に纏わせ、百目に送り込む。
意識し始めて数秒、百目に変化が訪れた。
「あ、あれって…………」
『成功した――って、ことでいいのかな』
俺達は精神力、法力を切らさないように気を付けながらも、百目を見る。水分さんと水妖も、いきなり姿を変え始めた百目に驚き目を開いていた。
俺の目の前に立っていた百目に、黒い霧のようなものがまとわりつき始める。それと同時に、体中に隠されていた目が開き始めた。
腕や足などは服で隠れて見えないが、手の甲や足首にも目が開かれ、前髪で隠されていた黒い瞳までもが、目の前に立っている水妖を睨みつけていた。
前髪で隠されていた二つの双眸に、一瞬たじろぐ水妖。他にも額や左の頬にも黒い瞳が現れ、今までより遥かに力が増幅しているのが見て取れた。
もしかして、これも妙技の効果? 元々の力も増幅させ、且つ属性を纏わせる。これは、確かにチート級の力かもしれない。だからこそ、陰陽師なら誰にでも扱える代物ではないという訳か。
それと、もう一つ。
「体から、勢いよく精神力と法力が吸い取られているような気がするんだけど、これって…………」
『すごい汗だね、まだ力の制御は出来ていないみたい。でも、もう少しだけ頑張ってほしい、ここまで何もしないで終わらせるなんて嫌だよ』
「わかってる!!」
ここで終わらせるわけない、終わらせるわけにはいかない。ここまでせっかく出来たんだから、水の泡にしてたまるか。
力が抜ける体を必死に倒れないように堪え、膝に手を置く。汗が頬を伝い、地面に落ち濡らしていた。
体も震えてきたし、限界が近い。早く、百目に動いてもらわないと!
「百目、水妖を倒せ!!!」
回らない頭で、短い指示を出す。すると、百目は刀を握り直し、構えた。
『主の、仰せのままに』
今まで聞いたことがないような低い声、お腹が震えるような感覚に、違う意味で体が震えてきた。
今の百目が、全力の百目なのか?
百目は、腰を落とし抜刀するかのような体勢を作る。水妖は何が来てもいいように口元に手を置き、鋭い瞳を百目に向けていた。
水分さんも、一粒の汗が頬を伝い、これから何が起きるのか見届けようとしている。
『――――参る』
百目の声と共に、抜刀。瞬間、いきなり水妖の身体が上下に腹部から真っ二つになった。水しぶきが舞い、地面に落ちる。
何が起きたのかわからないまま、水妖の体が透明の水になり、地面に落ち姿を消した。
同時に、何が起きたのかわからない顔を浮かべている水分さん。それもそのはず、今この場で何が起きたのかわかっているのは、技を繰り出した百目のみ。
隣に立っている闇命君も、何が起きたのかわからないのかぽかんとしている。そんな顔を浮かべる事、出来るんだ。
「えぇぇぇえっと?? 何が起きたんだ?」
『…………百目、説明』
『刀に纏わせた闇を、抜刀と共に放ったのです。頭の中に浮かんだため、試してみた結果、このような現象が起きました』
百目は立ち直し、俺達の法に向き直り冷静に説明してくれた。
「ここまでの威力を出す事が出来るんだ……。俺が放った時は、ここまでの威力はなかったと思うんだけど」
『もしかして、僕の属性って闇?』
「”闇命君”なだけに、属性は”闇”だよ! やってね!! 名は艇を表す、だよ!!」
出来る限り可愛く、舌を出しウインク。元の俺がやったら一瞬で殺されるような行動だけど、闇命君の顔面偏差値なら周りの人を一発で落ちるだろ!! おら、俺の可愛さに跪け!!
『…………水分、僕に遠慮はいらない。気持ちをぶつけてほしい。百目は戻っていいよ、さすがに優夏の身体も限界、特に脳が』
闇命君の言葉に合わせ、百目は頷き静かに札に戻った。水分さんは、何故か指を鳴らしながら俺の元に――え。
「え、な、何っ――……」
――――――ごっちぃぃぃぃいいいいいいん!!!!!!
「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああい!!!!!!!」
頭に特大たんこぶが出来ました。
「うん」
『…………ところで、僕の一技之長の属性はなに』
……………………え。
☆
『絶対に許さない』
「見ればわかるから…………ね?」
闇命君は、今まで自身の法力の強さを知っていたから、一技之長を使うという思考すら頭の片隅になかったみたい。だから、使うための練習をしてこなかったし属性も知らない。
それを教えてもらって、俺も簡単に説明しようかなとも思ったけど、うまく説明が出来ないなとすぐに断念。見ればわかるし、それで勘弁してくれ。
『…………早くやるよ。仕方がないから』
「あ、はい」
良かった、闇命君が折れてくれた。まだふてくされてるけど。
「これって、闇命君と完璧に息を合わせないといけないのかな」
『だと思うよ。遅れないでね』
「うっ、気を付けます」
闇命君と合わせるのは正直自信ないけど、やるしかない。
不安で鼓動が早くなる心臓を落ち着かせるため、息を大きく吸って、吐いた。もう一回、同じく息を吸い、吐く。
『準備、出来た?』
「うん」
『なら、行くよ』
お互い目線を交わし、息を合わせる。手に握られているお札に集中し、法力は闇命君に任せ、俺は精神力に集中。
二人の静かな息遣いが耳に響く。鼓膜を揺らしている息遣いに合わせ、精神力をお札に纏わせるイメージを頭に浮かべた。
右の手の指先に、二つの力を感じる。これが、精神力と法力か。この二つをお札に纏わせ、百目に送り込む。
意識し始めて数秒、百目に変化が訪れた。
「あ、あれって…………」
『成功した――って、ことでいいのかな』
俺達は精神力、法力を切らさないように気を付けながらも、百目を見る。水分さんと水妖も、いきなり姿を変え始めた百目に驚き目を開いていた。
俺の目の前に立っていた百目に、黒い霧のようなものがまとわりつき始める。それと同時に、体中に隠されていた目が開き始めた。
腕や足などは服で隠れて見えないが、手の甲や足首にも目が開かれ、前髪で隠されていた黒い瞳までもが、目の前に立っている水妖を睨みつけていた。
前髪で隠されていた二つの双眸に、一瞬たじろぐ水妖。他にも額や左の頬にも黒い瞳が現れ、今までより遥かに力が増幅しているのが見て取れた。
もしかして、これも妙技の効果? 元々の力も増幅させ、且つ属性を纏わせる。これは、確かにチート級の力かもしれない。だからこそ、陰陽師なら誰にでも扱える代物ではないという訳か。
それと、もう一つ。
「体から、勢いよく精神力と法力が吸い取られているような気がするんだけど、これって…………」
『すごい汗だね、まだ力の制御は出来ていないみたい。でも、もう少しだけ頑張ってほしい、ここまで何もしないで終わらせるなんて嫌だよ』
「わかってる!!」
ここで終わらせるわけない、終わらせるわけにはいかない。ここまでせっかく出来たんだから、水の泡にしてたまるか。
力が抜ける体を必死に倒れないように堪え、膝に手を置く。汗が頬を伝い、地面に落ち濡らしていた。
体も震えてきたし、限界が近い。早く、百目に動いてもらわないと!
「百目、水妖を倒せ!!!」
回らない頭で、短い指示を出す。すると、百目は刀を握り直し、構えた。
『主の、仰せのままに』
今まで聞いたことがないような低い声、お腹が震えるような感覚に、違う意味で体が震えてきた。
今の百目が、全力の百目なのか?
百目は、腰を落とし抜刀するかのような体勢を作る。水妖は何が来てもいいように口元に手を置き、鋭い瞳を百目に向けていた。
水分さんも、一粒の汗が頬を伝い、これから何が起きるのか見届けようとしている。
『――――参る』
百目の声と共に、抜刀。瞬間、いきなり水妖の身体が上下に腹部から真っ二つになった。水しぶきが舞い、地面に落ちる。
何が起きたのかわからないまま、水妖の体が透明の水になり、地面に落ち姿を消した。
同時に、何が起きたのかわからない顔を浮かべている水分さん。それもそのはず、今この場で何が起きたのかわかっているのは、技を繰り出した百目のみ。
隣に立っている闇命君も、何が起きたのかわからないのかぽかんとしている。そんな顔を浮かべる事、出来るんだ。
「えぇぇぇえっと?? 何が起きたんだ?」
『…………百目、説明』
『刀に纏わせた闇を、抜刀と共に放ったのです。頭の中に浮かんだため、試してみた結果、このような現象が起きました』
百目は立ち直し、俺達の法に向き直り冷静に説明してくれた。
「ここまでの威力を出す事が出来るんだ……。俺が放った時は、ここまでの威力はなかったと思うんだけど」
『もしかして、僕の属性って闇?』
「”闇命君”なだけに、属性は”闇”だよ! やってね!! 名は艇を表す、だよ!!」
出来る限り可愛く、舌を出しウインク。元の俺がやったら一瞬で殺されるような行動だけど、闇命君の顔面偏差値なら周りの人を一発で落ちるだろ!! おら、俺の可愛さに跪け!!
『…………水分、僕に遠慮はいらない。気持ちをぶつけてほしい。百目は戻っていいよ、さすがに優夏の身体も限界、特に脳が』
闇命君の言葉に合わせ、百目は頷き静かに札に戻った。水分さんは、何故か指を鳴らしながら俺の元に――え。
「え、な、何っ――……」
――――――ごっちぃぃぃぃいいいいいいん!!!!!!
「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああい!!!!!!!」
頭に特大たんこぶが出来ました。
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