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三人修行

信頼と温かさ

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 今の、琴平の声だ。頭の中に直接届いたような、優しく安心する声。

 ――――――――琴平が言うのなら、俺は出来る。大丈夫だ、自分を信じろ、闇命君の力を信じろ。このまま、集中を続けるんだ。

「……――うそだろ。さすがに早すぎるだろ」

 水分さんの驚きの声、信じられないというような口調だ。

 体が楽になってきた。錘もなくなり、気持ちや指先に集まっている法力も安定して来た。
 目の前に広がる湖には、何もない。いや、何もないわけではないか、茶色の光景が広がっている。つまり、土が丸出し、今まで美しい光景を作りだしていた水がなくなっていた。

 上を見ると、空を覆い隠すように水が浮かび上がっていた。うようよと揺らめき、光を反射している。

「これって、成功?」
『みたいだね。今は安定しているみたいだし、成功なんじゃない?』

 俺と闇命君の視線が、後で空を見上げている水分さんに集中する。そんな視線など気にならないようで、空中にある水を見上げ目を見開いている。口をあんぐりとさせ、目を輝かせていた。

「あの、水分さん。これは、成功でいいんですよね?」
「あ、あぁ。まさか、ここまで早く出来るとは思っていなかった。普通なら一、二年はかかるぞ。それが、たった一か月少しでなんて…………」
「いや、待って? さすがに一、二年もかけてって。というか、これって。奇跡に近いのでは?」
「近いというか、奇跡だぞ。いや、おめぇの身体の主の力もあるだろうが、それにしても…………」

 確かに、闇命君の身体だからこそっていうのはあるのかもしれない。天才の身体だから繋がりがなくても、少しは俺を助けてくれたのかもしれない。
 今回の成功は、闇命君だけではないんだけど。

「それじゃ、もう湖を下ろしていい。この後、俺と勝負してもらう」
「なんて?」
「水を下ろして、すぐに俺と模擬戦。今の感覚を扱えるようになっているのか、安定しているのか。お前が一番信頼している且つ、強い式神で勝負しろ。感覚を忘れないうちに、式神の使い方を手に入れろ」

 なるほど、今のこの感覚。体から湧き上がる力が指先に集まる感覚。この感覚を忘れないうちに、式神を扱った方がいいか。また、式神に法力を送り過ぎないように気を付け、一番戦いやすくする。
 俺が安定していれば、式神達も安心して戦えるだろうし、今まで以上に自由に戦えるはず。

「わかりました、お願いします!!」
「なら、早く水を下ろせ。すぐに勝負するぞ」
「はい!!」

 って、水を下ろす? えっと、このまま力を抜いたら、やばい事になるよね。水浸しになるだけでは済まないはずでも、ならどうやって?

『普通に、雨を降らせる感覚か、逆竜巻を起こせばいいんじゃないの?』
「簡単に言いやがる…………」
『ここまで安定していれば、僕は出来る。僕なら、簡単』
「だろうな!!!!」

 ひとまず、雨を降らす感覚で戻そう。イメージをホースから、雨に切り替え、湖の水を元通りに――……


 ――――――バッシャァァァァァァアアアン


『…………本当に、もう許さない』
「ごめんてば!!!!」

 途中まではうまくいっていたのに、残り半分のところで俺の集中力が切れました。またしても、水浸し。今回はさすがに嫌な予感が走る余裕がなかったみたいで、水分さんも俺達と一緒に仲良く水を受けていました。

 結局俺は、水も滴るいい男を見る事に…………。

 こんちくしょぉぉぉぉおおおおおおお!!!!

 ☆

「では、始めようか」
「よろしくお願いします」

 タオルで体や髪を拭き、乾いたところで模擬戦に。場所は靖弥とは違う第二の訓練所、見た目や広さは同じ。竹刀とかも置かれているけど、俺達は式神で戦うから使わない。

 お互い見合わせる形で待機、手には長方形の紙。

「俺はいつも通り、こいつで行く。来い、水妖」

 いつものように、水分さんは綺麗なローレライのような姿をした女性、水妖を出した。

『主様の仰せのままに』
「今回は模擬線だ。いたぶってほしい」
『仰せのままに、了解しました』

 指示を出すと、水妖は中心まで移動して準備完了。

 俺も式神を出さなければ…………。でも、やっぱり不安は残る。
 今までの失敗などが脳裏を過り、同じことを繰り替えしたらと思うと体が震える。またしても、式神を殺してしまわないか不安が胸を埋めてしまう。

『優夏』
「っ、な、なに? 大丈夫、やるよ、大丈夫だから」

 肩にいる闇命君の声に、思わず言葉を返す。なんか、自分に言い聞かせるように言ってしまったけど、また文句を言われる予感が走ってしまったから仕方がない。

『式神は、主の心中を察する。今、君の心を埋めつくしている不安が、これから出す式神に悟られてしまうよ。そうなれば、式神自身も不安定になり、本来の力を出す事が出来ない。法力の制御ももちろん大事だけど、式神を扱ううえで一番大事なのは、自分の力と式神を信じる事。それが出来れば、式神も君の想いに答えてくれるよ。僕の式神達はみんな、優秀だからね』

 言いながら闇命君は半透明の姿になり、俺の前に立つ。式神が握られている右手に闇命君の手が伸びた。
 触れることは出来ないはずだけど、なぜか触れられている感覚はある。俺の緊張で冷たくなった手が、温かくなっていくような。そんな、優しいぬくもりが闇命君から俺に移る。

 早い鼓動を鳴らしていた心臓は落ち着き、正常の速さに。息も整える事ができ、頭の中を駆け巡っていた不安も消えた。

「――――ありがとう、闇命君。本当に、大丈夫になったよ」
『ふん、勘違いしないでよ。不安定なまま式神を出されて、またしても僕の式神を傷つけられたら溜まったもんじゃないだけ。君の為じゃない、式神の為だから』
「はいはい」

 手をぱっと離し、端の方に向かう。少しだけ耳が赤いけど、そこは突っ込まない様にしようかな。慣れないことをしたもんね、闇命君。本当に、ありがとう。

「準備は出来たか? なら、早く始めてほしい」
「わかった」

 今なら、安心して出せる。まだ、俺を信じてくれるなら、お願い。また、俺の力を貸してほしい。

 もう、同じ失敗は繰り返さないから。

「――――お願い、俺を信じてくれ。今まで一番、俺達に力を貸してくれた式神、百目!!!」

 一枚の長方形の紙を投げ、いつも頑張ってくれている百目を出す。法力の制御はしっかりと出来たみたいで、うまく出す事が出来た。

 閉じていた目を、スッと。ゆっくりと開けた。

『主の、仰せのままに』
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