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修行

休憩の取り方

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 服を頂き、そのまま陰陽寮に戻った。その間も、さっきの人物が頭を過る。

 一体、誰だったんだろう? 闇命君の事を知っていたし、親の事も知っていた。知り合いだったのは確実、やっぱりどこかの陰陽寮の陰陽師か?
 それに、また会うようなことがわかっているような物言い。なんか、怪しいなぁ。

「優夏」
「ん? どうしたの、靖弥」
「この後、お前はどうするんだ?」
「あぁ、どうしよう。ゲームは出来ないし…………ゲームも出来ないし」
「ゲームしかないのかお前」
「うるさいよ。こっちでは色々あり過ぎて、本当に休む時間がなかったんだよ。だから、何をすればいいのかわからない」

 んー…………。

『何をして休むかわからないのなら、普通に寝て過ごせば? 体には確実に疲労が蓄積されているんだから、横になるだけでもいいと思うけど?』
「確かにそうだね、横になって過ごすかぁ?? なんか、それはそれでもったいない気がするんだよなぁ」
『それなら、体を横にしながらセイヤと思い出話に花を咲かせたら?』

 え、闇命君?? 何を言っているの? まさか、闇命君がそんな事を言うなんて。もしかして熱ある?? 俺が無理をし過ぎているから、闇命君の依代にも影響されているとか?

『その話の間に情報を抜き取れれば最高だね』
「やっぱり、闇命君は闇命君だったわ」

 廊下を歩き部屋に戻るけど、当たり前のように紅音達も同じ部屋に入ってきた。これじゃ、寝る事も出来ないんだけど…………。

 ……………………普通に楽しい話でもして心を休めようかな。

 ☆

 数日間、しっかりと体を休める事が出来た。最初は俺が何とか明るい話をしようとしても、すぐに話が終わってぎこちなかったなぁ。後半からは、自ら話をしてくれたり、魔魅ちゃんも笑うようになってきて、本当によかった。

 ずっと闇命君は鼠姿のまま過ごしていたみたいだけど、力を蓄えていたのかな。どっちでもいいけど。

 そういえば、水分さんと琴葉さんはずっといなかったけど、どこに?

「あ、紅音」
「? なんだ」
「今から朝の習慣をするんだよね?」
「あぁ、腹筋千回。腕立て二千回、今からやってくる」

 今は朝の三時。早寝早起きが習慣ついているから今は苦ではない。
 靖弥もこんな時間なのに、普通に起きているし、健康体になったなぁ。元の世界では、遅刻をするかしないかのギリギリまで寝ていたとは思えない。

「僕も行こうかなって思っているんだけど、着いて行ってもいい?」
「……………………腹筋千回、腕立て伏せ二千回か?」
「そんなに出来るのは紅音ぐらいだよ…………。最初は少しだけでお願いします」
「闇命様の体を鍛えると言う事か? そんなことをしなくても、闇命様は十分に強い。必要はないだろう」

 疑いのない目だな。確かに、この体自体は強いだろう。闇命君の意識が中に入っていたらと、何回も思っているよ。でも、それはないものねだりだ。そんなことをしても意味はない、今この体を扱っているのは俺だ。俺が強くならないといけない。

「俺が強くならないと、闇命君の身体だろうと意味はないからね。だから、少しでも体を鍛えたり、もっと動けるようにしないといけないなって思ってさ。俺自身が、強くなりたいんだよ。駄目かな」
「駄目ではないが…………」

 まだ布団の中にいる鼠姿の闇命君を見ている。さすがに体の持ち主の許可は必要だと思っているな。うん、正しいよ、それ。

『やりたいならやればいいと思うよ』
「あ、いいんだ」
『今後に繋がるのならやってみてもいいと思うよ、繋がるのならね』

 うわぁ、めっちゃ念を押してくるやないですか。次に続くように気を付けるよ…………。


 ――――――――ガラッ


「それなら、俺達が付き合ってあげるよぉ~。その方が効率がいいと思うよ?」

 闇命君と話していたら、襖が開く音が聞こえた。
 そちらに目を向けると、琴葉さんがニコニコと微笑みながら入ってきて――なんで水分さん、死にかけているの? 顔が真っ青だし、一人で立てないのか肩を借りている。吐きそうなのかな、口を手で抑えているんだけど、気持ち悪いのか? 

 なんか、あの光景、現代で見た事があるぞ? お父さんが仕事場の人に無理やり飲まされて、謝罪されながら家に帰ってきた時と同じだ。

「布団借りてもいい? 飲ませすぎてしまってねぇ~」
「……………………もしかして、ずっと飲んでいたの? 数日も?? え??」
「いやぁ、何日も跨いで飲むお酒は最高だったねぇ~~って、そんなわけないでしょうよ」

 ノリツッコミ、さすがです。

「飲んだのは、昨日の夜からだよ。それまでは、色々話す事が溜まっていてねぇ」

 なるほどぉ、確かに二人とも役職持ちだもんな。情報交換とか、今抱えている仕事の話とか沢山ありそう。

「いい女は見つかったかとか、女の集まる場所とかを見つける事が出来たとか、狙っている女はいるかとか。沢山話す事が沢山あったんだよぉ」
「馬鹿なの?」
「酷い!!」
「あ」

 思わず心の声が漏れてしまった。だって、どれも女性に関わる事なんだもん。役職持ちなんだから、もっとためになるような話をしなよ。まったく…………。

「それで、俺達が見てやるが、どうするんだ??」
「え? 見てくれるって?」

 水分さんを布団に寝かせながら、琴葉さんが聞いて来た。

「修行、相手になってやるぞ。と、言っている。どうする?」
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