上 下
154 / 246
修行

自由

しおりを挟む
 え、なに。もしかして、今の俺の心の声聞こえたのか!? そういえば、闇命君には俺の心の声が駄々洩れだったんだ……死んだ、俺は確実に死んだ。
 琴平、あともう少しで俺もそっちに行くよ。待っていてね……。

「お待たせしました」
『馬鹿なことを考えている暇があるのなら、この時間も活用したらどうなの? 感傷に浸る時間は終わりだよ』

 やっぱり、聞こえているなこれ。少し怒っているし、声色がいつもより気持ちちょい低い。

「えっと、今後って?」
『君の友人とやらをどうするから考えないといけないよ。こいつの処分をね』

 闇命君の視線の先には、顔を俯かせ気まずそうに後ずさっている靖弥。体を震わせ、守るように自身を抱き締めている。

 琴平を刺した時の靖弥は、確実に道満に操られていた。靖弥の意志だけであんなことは絶対にしないと思うし、何より、靖弥自身嫌がっていた。
 涙を流しながらも拒んでいたはず。なのに、道満が無理やり…………。

「…………靖弥」
「なに」

 こっちを見ない。近くに行けば、少しは話してくれるだろうか。

 ……………………待てよ。靖弥は操られて琴平を刺してしまった、それは間違いない。なら、今の靖弥も危ないはず。安易に近付けば、今度は俺が隙をつかれて死んでしまうかもしれない。そうなれば、今までの行動が全ておじゃんとなってしまう。

 道満は、どうやって靖弥を操っていたんだ。何か呪いをかけている可能性はあるが、あそこまで靖弥の意志を無視して、あんなに完璧に操ることが出来るのだろうか。
 いや、呪いだけで操っているのかもしれないにしろ、媒体はあるはず。あの、闇の空間を作りだしたのと同じ媒体が、形を変えて靖弥の身体に埋め込まれているのかもしれない。

 横に立っている闇命君を横目で見ると、小さく頷いた。同じ考えという事か。
 ん-、どうやって探ろう。迂闊に質問も出来ない、もしかしたら道満がここでの会話を聞いているかもしれないし。

 どうすればいいだろうか。口に出さずに靖弥に聞く方法はないか。体の不調や違和感。道満と出会った時、体に何かを埋め込まれたかどうか。
 どうやって、聞けばいい。闇命君みたいに心を読めたらいいのに。

 ……………………心? あ。

 闇命君に目伏せする。すぐに察してくれた闇命君は頷き、何事もなかったかのようにその場から離れた。よし、次は俺が靖弥と話をしようか。時間稼ぎと視線誘導も込めて。

「靖弥」
「…………」
「そんなにビビらなくてもいいって。別に靖弥に対して怒っている訳じゃないよ。だから、顔を上げてほしい」

 諭すように声をかけると、少し悩んだ末にゆっくりと顔を上げてくれた。

 顔が青いな、相当怖がっている。それは俺に対してなのか、それとも道満に対してなのか。
 隣にいる水分さんを怖がっている訳ではないと思うんだよなぁ。だって、今の水分さんは、なんか。どこを見ているのかわからないし、疲れもあるとは思うんだけどぼぉっとしている。今のこの人を怖がる要素がないもんな。

「靖弥、これからどうする?」
「好きにすればいい」
「好きにすればいいって……。靖弥はどうしたいとかないの?」
「俺にそんなことを言う権利はない。好きに使えばいい」

 あぁ、心がもう壊れる一歩手前だ。もしかしたら、もう壊れてしまっているのかもしれない。でも、今ならまだ修復出来るはず。言葉を間違えないようにしないと。

「靖弥はこれから俺達と行動してもらいたいんだけど、そうなると道満が何かを仕掛けてくる恐れがある。靖弥をほっとくとも考えにくいしね。何か情報を零さないか、不安で夜も眠れないんじゃない?」
「それはない」
「何で言い切れるの?」
「俺に自由はないから」
「なんで?」
「答えられない」
「そこは答えないのか」

 顔を横にそらしてしまった。手を強く握っているし、悔しそうに唇をかみしめている。話したいけど、話せない。そんな感じだろうな。

「自由がないは、きついよな。というか、めんどくさい」
「…………」
「なんかさぁ、この体。凄く動きやすいし、法力も莫大で式神とかを複数出せるし、結構いいんだけど。力が強いから周りに行動を制限されていたし、子供だから蔑まされたりさぁ。本当に大変だったんだよぉ、もう勘弁してほしかったなぁ」
「…………」
「周りからの監視って、本当に気持ち悪かったよ」
「…………何が言いたい?」
「自由がないのって、気持ち悪いよなぁって、話がしたいだけ。まぁ、今はもう絶縁したけどな。今は自由だ、楽しいぞ」
「…………だから、なんだ」
「お前も、もうそろそろ自由を手に入れないか?」
「…………え」

 こちらに顔を向け、呆然とする靖弥。後ろを見ると、夏楓と闇命君が俺を見ていた。そして、右の耳たぶを夏楓が指さした。

 ―――――そこか
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...