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暴走と涙
兄
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水仙家の一室に集まる僕達。
部屋の端に布団を敷いて、そこに冷たくなって目を閉じている琴平を横にし。その近くには、紅音が膝に顔を埋めて座っている。
部屋の中心にも布団を敷いて優夏を寝かせ、僕はまだ保てている半透明の姿で横に座っていた。
僕達が戻ってきたことがわかった夏楓と魔魅は、すぐに待機していた部屋から飛び出し俺達の元に。水分が冷静に先ほどの出来事を話すと、魔魅は声を出さずに泣き、夏楓は運ばれている琴平の姿を目に、静かに魔魅を抱きしめていた。
「そいつは、どうするつもりだ?」
この場で唯一、冷静に物事を考えている水分が、壁側に腕を縛られ座らされているセイヤを見ながら聞いて来た。
『そいつはしばらくそのままでいいんじゃない? 自由にさせる訳にもいかないし、今は何を聞いても答えてくれないと思うよ』
顔を俯かせ、何も言おうとしないセイヤ。何を考えているのかわからないけど、おそらくは何を言っても無駄。僕達の会話が耳に入っているのかもわからない。
「…………これからどうするつもりだ」
『さぁね。まずは優夏が目を覚まさなければどうする事も出来ないよ。冷静に話が出来るとは思っていないけど』
「おめぇは何も考えてないのか?」
『考えたところで、こいつが反対すればその思考は無駄となる。無駄に体力は使わない主義なんでね』
「ふーん」
興味ないじゃん、なら聞かないでよ。
…………空気が重たい。水分が口を閉じると、この部屋に静寂が訪れる。誰も何も話そうとせず、息遣いしか聞こえない。
誰も、何かを考える余裕や、発する言葉がないのだろう。
僕も、同じだ。
何も考えられない。今後の動きや、道満について。セイヤをどうするかなど、色々考えなければならないというのに、思考が回らない。
思考を止めるなと言いつけられていたのに、一向に回ってくれない。
頭がぼぉっとする、体に圧力がかけられているかのように動かない。
そんな、重苦しい空気が流れる部屋に、似つかわしくない軽い声色で鼻歌を歌いながら、一人の青年が襖を開け入ってきた。
「おーおー。空気がおもてぇなぁ、いきなり体に重りが乗っかったような感覚だぞ。なんだこの空気、今すぐ氷で流してやろう」
「氷ではなく水で流した方がいいだろ。つーか、流すな。なぜこんな所にいる、漆家の陰陽助、月花琴葉よ」
「いででででで!! 俺の耳を引っ張るなぁ!!」
────月花? 月花って、琴平の苗字。
顔を上げて襖の方を見ると、水分が呆れたように、琴葉と呼んだ人物の耳を掴み引っ張っていた。
琴平と同じ色の髪、藍色の両目。袖なしインナーに、着物を着ている男性。
そういえば、琴平には血の繋がった兄が一人いると聞いたことがあったはず。つまり、あいつが例の?
「なぁなぁ、水分。ここには酒はないのか? 今日も酒を飲みかわそうぜぇ~。それか、巫女さんを紹介してくれよ」
「今はそんな事をしている暇はねぇんだよ、状況をしっかりと見ろ。周りを見やがれ、肩を組むな」
「いいじゃねぇかよぉ。ふぅ~」
「~~~~~~~煙を吹きかけんじゃねょ!!!!」
「ぶっ!!!! 腹を殴る事…………ない、だろ…………」
「いいお灸にはなっただろ」
「俺とお前の仲なのに…………」
「俺はお前とは赤の他人だ、この恥さらし」
「それは本当に酷い、やめて」
………………………………ないな、うん。ありえない、あの人が琴平の兄とか。血の繋がりがある実の兄なんて、僕は認めない。
今も片手に煙管を持ちながら水分のすり寄っているけど、またしても腹を殴られ撃沈。何がやりたいのか本当にわからない。
夏楓も目を丸くし、膝で泣き疲れ寝ている魔魅の頭をなでながら二人の行動を見ていた。紅音は今も、膝に顔を埋めている。
紅音は確か、琴平の兄に会ったことがあったはず。でも、反応はないのか。もしかして、そこまで仲が良い――わけがないか。
元々、琴平とも仲は悪かったと聞いている。紅音とは仲が良かったとかは絶対にないだろう。
「んでぇ、これは一体何があったんだ? お?」
部屋を見回した琴葉が、何かを見つけ歩き出した。
やっと自分から離れた琴葉に安堵した水分は、腕を組み眉間に皺を刻んでいる。相当嫌だったみたい、ここまで嫌われているのも哀れに見えるな。
「紅音ちゃん、久しぶり~。お兄ちゃんの事は覚えているかなぁ?」
「…………誰だ」
「え、それ本当に言っているの? それはさすがにお兄ちゃん、悲しいよ?」
「知るか、何の用だ」
一瞬だけ顔を上げた紅音は、目の前で気が抜けるような笑みを浮かべている琴葉を見て、またしても膝に顔を埋めてしまう。ぼそぼそと、小さな声でやっと会話をしているみたい、無理はさせないでよ。
『ねぇ、空気が読めないのは今の会話で理解したけど、せめて黙っておくことくらいはできないわけ? 今はみんな、静かに考えたいんだけど』
「相変わらず毒舌みたいだねぇ、煌命の息子よ」
『っ、なんで』
「なんでお前の父親の事を知っているって? 決まっているだろ? 少しだけとはいえ、世話になったんだよ。俺、記憶力はいいからなぁ??」
『そこまで詳しく聞いてない、聞かれたことだけ答えてよ。心底気持ち悪い』
「酷いなぁ、おにいちゃんは悲しいよぉ」
『お前の弟になった覚えはないよ』
なにあいつ、本当に気が抜けるというか、なんで実の弟が死んだのに笑っていられるんだ? その、へらへらとしたにやけ面をこっちに向けるな殺意がわく。
というか、もしかして気づいてない? 死体が見えていないのか?
部屋の端に布団を敷いて、そこに冷たくなって目を閉じている琴平を横にし。その近くには、紅音が膝に顔を埋めて座っている。
部屋の中心にも布団を敷いて優夏を寝かせ、僕はまだ保てている半透明の姿で横に座っていた。
僕達が戻ってきたことがわかった夏楓と魔魅は、すぐに待機していた部屋から飛び出し俺達の元に。水分が冷静に先ほどの出来事を話すと、魔魅は声を出さずに泣き、夏楓は運ばれている琴平の姿を目に、静かに魔魅を抱きしめていた。
「そいつは、どうするつもりだ?」
この場で唯一、冷静に物事を考えている水分が、壁側に腕を縛られ座らされているセイヤを見ながら聞いて来た。
『そいつはしばらくそのままでいいんじゃない? 自由にさせる訳にもいかないし、今は何を聞いても答えてくれないと思うよ』
顔を俯かせ、何も言おうとしないセイヤ。何を考えているのかわからないけど、おそらくは何を言っても無駄。僕達の会話が耳に入っているのかもわからない。
「…………これからどうするつもりだ」
『さぁね。まずは優夏が目を覚まさなければどうする事も出来ないよ。冷静に話が出来るとは思っていないけど』
「おめぇは何も考えてないのか?」
『考えたところで、こいつが反対すればその思考は無駄となる。無駄に体力は使わない主義なんでね』
「ふーん」
興味ないじゃん、なら聞かないでよ。
…………空気が重たい。水分が口を閉じると、この部屋に静寂が訪れる。誰も何も話そうとせず、息遣いしか聞こえない。
誰も、何かを考える余裕や、発する言葉がないのだろう。
僕も、同じだ。
何も考えられない。今後の動きや、道満について。セイヤをどうするかなど、色々考えなければならないというのに、思考が回らない。
思考を止めるなと言いつけられていたのに、一向に回ってくれない。
頭がぼぉっとする、体に圧力がかけられているかのように動かない。
そんな、重苦しい空気が流れる部屋に、似つかわしくない軽い声色で鼻歌を歌いながら、一人の青年が襖を開け入ってきた。
「おーおー。空気がおもてぇなぁ、いきなり体に重りが乗っかったような感覚だぞ。なんだこの空気、今すぐ氷で流してやろう」
「氷ではなく水で流した方がいいだろ。つーか、流すな。なぜこんな所にいる、漆家の陰陽助、月花琴葉よ」
「いででででで!! 俺の耳を引っ張るなぁ!!」
────月花? 月花って、琴平の苗字。
顔を上げて襖の方を見ると、水分が呆れたように、琴葉と呼んだ人物の耳を掴み引っ張っていた。
琴平と同じ色の髪、藍色の両目。袖なしインナーに、着物を着ている男性。
そういえば、琴平には血の繋がった兄が一人いると聞いたことがあったはず。つまり、あいつが例の?
「なぁなぁ、水分。ここには酒はないのか? 今日も酒を飲みかわそうぜぇ~。それか、巫女さんを紹介してくれよ」
「今はそんな事をしている暇はねぇんだよ、状況をしっかりと見ろ。周りを見やがれ、肩を組むな」
「いいじゃねぇかよぉ。ふぅ~」
「~~~~~~~煙を吹きかけんじゃねょ!!!!」
「ぶっ!!!! 腹を殴る事…………ない、だろ…………」
「いいお灸にはなっただろ」
「俺とお前の仲なのに…………」
「俺はお前とは赤の他人だ、この恥さらし」
「それは本当に酷い、やめて」
………………………………ないな、うん。ありえない、あの人が琴平の兄とか。血の繋がりがある実の兄なんて、僕は認めない。
今も片手に煙管を持ちながら水分のすり寄っているけど、またしても腹を殴られ撃沈。何がやりたいのか本当にわからない。
夏楓も目を丸くし、膝で泣き疲れ寝ている魔魅の頭をなでながら二人の行動を見ていた。紅音は今も、膝に顔を埋めている。
紅音は確か、琴平の兄に会ったことがあったはず。でも、反応はないのか。もしかして、そこまで仲が良い――わけがないか。
元々、琴平とも仲は悪かったと聞いている。紅音とは仲が良かったとかは絶対にないだろう。
「んでぇ、これは一体何があったんだ? お?」
部屋を見回した琴葉が、何かを見つけ歩き出した。
やっと自分から離れた琴葉に安堵した水分は、腕を組み眉間に皺を刻んでいる。相当嫌だったみたい、ここまで嫌われているのも哀れに見えるな。
「紅音ちゃん、久しぶり~。お兄ちゃんの事は覚えているかなぁ?」
「…………誰だ」
「え、それ本当に言っているの? それはさすがにお兄ちゃん、悲しいよ?」
「知るか、何の用だ」
一瞬だけ顔を上げた紅音は、目の前で気が抜けるような笑みを浮かべている琴葉を見て、またしても膝に顔を埋めてしまう。ぼそぼそと、小さな声でやっと会話をしているみたい、無理はさせないでよ。
『ねぇ、空気が読めないのは今の会話で理解したけど、せめて黙っておくことくらいはできないわけ? 今はみんな、静かに考えたいんだけど』
「相変わらず毒舌みたいだねぇ、煌命の息子よ」
『っ、なんで』
「なんでお前の父親の事を知っているって? 決まっているだろ? 少しだけとはいえ、世話になったんだよ。俺、記憶力はいいからなぁ??」
『そこまで詳しく聞いてない、聞かれたことだけ答えてよ。心底気持ち悪い』
「酷いなぁ、おにいちゃんは悲しいよぉ」
『お前の弟になった覚えはないよ』
なにあいつ、本当に気が抜けるというか、なんで実の弟が死んだのに笑っていられるんだ? その、へらへらとしたにやけ面をこっちに向けるな殺意がわく。
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