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暴走と涙

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 闇の奥、光る何かが見えたような気がした。でも、今はもう何も見えない。一瞬、きらりとしたものが見えたな。

「靖弥、何があってもいいように準備をしていてくれる?」
「大丈夫だが、刀は俺が一度預かるか?」
「…………お、俺が持つ」

 哀れみの目で見て来るな!!! どうせ今の俺は刀をまともに持つ事すら出来ないか弱い少年だよ!!! 引きずりながら歩く事しか出来ないただの少年だよこんちくしょう!!!!

 歩き進めていると、光が徐々に大きくなってきた。やっぱり、こっちに何かがあるのは間違いなかったんだ。

 進めていると、何かが置かれているのが見えてきた。
 近くまで行き、目の前で立ち止まりまじまじと、目の前に置かれている物を靖弥と共に見る。

「これって…………」
「卵か?」

 目の前には俺くらいの大きさはある、卵の形をした球体。もしかして、これが媒体とか言わないよね? こんな、卵が…………。しかも、無防備に置かれている。
この状況に、靖弥もいぶかし気に卵を見ていた。

「これ、壊してみるか?」
「…………しか、ないかな」

 指を差しながらこっちに質問してきているけど、正直俺もわからん状況なんだよなぁ。
 壊すだけ壊して、何かやばそうになれば逃げればいいか。幸い、この空間は広い。無限ループしているけど、考える時間くらいは与えてくれるだろう。

「それじゃ、輪入道。卵を壊してくれ」

 もう卵と断言しているんだけどこいつ、中から何かが産まれそうで怖いんだけど。
 俺達に有利になるものが産まれてくれればいいけど、絶対にそんなことはないし。

 それにしてもさっきから輪入道大活躍だな、縛りプレイを食らっている俺達の最後の命綱だから仕方がない。

 輪入道が炎の玉を一つ、作りだした。それを卵に向けて放つ。
 飛び火してもいいように俺達は少し離れているから、何が産まれても大丈夫。

 なんでもこーーーーーーい!!!


 ――――――――――パアン


 炎の玉が卵に当たる、さっきと同じ音。やっぱり、微かに聞こえた音は炎の玉がこれに当たった音だったんだ。

「…………まぁ、壊れる訳がないのか」
「そうかもしれないけど、こんな近距離で輪入道の炎を受けて傷一つないのは、さすがに俺の心に傷がつくんだが…………」

 あ、靖弥が肩を落としながら落ち込んでいる。輪入道の頭を優しく撫でてんな。

「い、威力を抑えていたんだよね? 仕方がないよ」
「そうだが…………はぁ…………」

 うわぁ、落ち込んでいる。輪入道も落ち込んでいるなぁ。式神にも感情があるし、自分の力が通じなかったとあれば落ち込むのも仕方がない。

「なら、これも駄目かなぁ」

 まだ手に持っている刀に目を向ける。今は何も纏っていない普通の刀。銀色に輝き、斬れ味の良さを物語っている。

「はぁぁぁああ」
「……………………どんまい!」
「殺意が芽生えたわ、今すぐ焼いてやろうか?」
「スイマセンデシタ」

 靖弥の肩に手が届かなかったから袖を引いて笑顔を向けたら、悲しみの視線を向けられた。
 今の言葉、マジで冗談に聞こえないからな? 今なら俺、簡単に燃やされる。

「ひとまず、次は俺の番。闇の属性って結構強いイメージがあるから切れるんじゃねぇか?」
「切れたら切れたで、俺的には複雑だけどな」
「素直に喜んでくれよ。ここから出られるかもしねぇんだぞ」
「……………………複雑なんだよ」
「なんでだ」

 ここから出られるかもしれないのに、複雑とか言うな。これから頑張る俺に応援の一言すらないのか、泣くぞ。

 そういえば、こんな会話も久しぶりな気がするな。この世界では俺が一番下の存在というか、何もわからない役立たずだったから。

「…………? やらないのか?」
「…………ごめん、やるよ」

 今は感傷に浸っている場合ではない、急いでこの空間から出なければ。
 外では闇命君や琴平が道満を相手にしているはず。闇命君の身体はここにあるから作戦を立てるしか出来ていないだろうし、早く戻って助けないと。

 目を閉じ、さっきと同じように精神力に集中。高まる感覚が体を走ると、今回は直ぐに一技之長いちぎのちょうを発動する事が出来た。

 闇が凝縮されているようなモヤが、刀の周りに集まり始める。銀色に光っていた刃は黒く染まり黒刀に変化、精神力が安定してきたことが感覚的に分かり、目を開け卵の前に移動。

 重たい刀を腕に力を込め持ち、右足を前に、左足を後ろに。抜刀するように刀は左の腰辺りに持っていく。姿勢を低くするため腰を落とし、膝を折る。


 …………―――――っ。
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