上 下
123 / 246
呪吸の義

一人の時間

しおりを挟む
 次の日、目を覚ますと琴平に「数日は体を休めることに集中しよう。酷使しすぎてきたからな」と、半分強制的に休み期間が設けられた。

 闇命君は納得いかなかったのか反抗していたけど、今回は琴平も引かず。結局、闇命君が折れる形となった。

 説得している時の琴平は本当に怖かった。なんか、般若の面が見えたよ。いや、般若というより、怒りで拳を鳴らしている紅音が見えた気がした。絶対に気のせいなのはわかるけど、なんか怖かった。

「どうする、闇命君」
『知らない』
「ふてくされないでよ、仕方がないじゃん。闇命君だって言い返せていなかったし」
『そんなことないし、言い返せていたし』
「はいはい」

 肩の上に乗っている鼠姿の闇命君が、鼻を鳴らして顔を逸らす。これでふてくされていないのか、どっちでもいいんだけどさ。

 暇だから廊下を目的なしに歩いている。人通りが無いから普通に寂しいな。誰ともすれ違わないし、人の気配すら感じない。
 巫女さんや他の陰陽師は今どこで何をしているのだろうか。避難所にいるのかな、それならここに居ないのも納得できる。

「闇命君」
『なに』
「羽織の少女なんだけど、靖弥とかかわりがあるような気がする。いや、靖弥というより、蘆屋道満と関わっているような気がする」
『それだと、水仙家を狙った理由が納得できない。蘆屋道満の狙いは僕の命。水仙家は僕達が来る前に襲われていた。蘆屋道満が関わっているのなら、そのような行動を起こした理由がわからない』
「水神様を狙っている……とか」
『まぁ、それなら一理あるか。もしかしたら、水神を手の内に引き込もうと下にかもしれない。これが羽織の少女単独でやっているのか、そう命令されてやっているのか。本人に聞かないとわからないことだらけだね』
「うーん…………」

 今考えても答えは出てこないか。今は点と点が繋がらない。もっと、多くの点を集めないといけないか。


 ……………………あれ、そういえば、俺達を説得した後、琴平はどこかに行ってしまった。

 いや、待って? 琴平が一人で行動は確実に死亡フラグ立っているじゃん!! 一人で行動はしないでと言っているのに!!!
 それに、俺達には休めと言っているのに、自分は動き回るとか、そんなの絶対に駄目でしょ。人に休めというのなら、まず自分が休まないと!!

「あ、夏楓!!」
「優夏さん。闇命様も、お疲れ様です」
「お疲れ様、こんな所で何しているの? しかも一人でなんて、めずらしいね」

 何故か夏楓が一人で廊下を歩いていた。どこかに移動予定だったのだろうか。

「紅音が魔魅ちゃんと一緒に外に出て、お花を積んでいそうなので、私も混ぜていただこうかなと移動しておりまた」
「外に出て大丈夫なの? それに花なんて、ある?」

 外を見た感じだと、枯れていたり雑草が多かったりと。花なんてないような気がしたんだけど。

「村の方にはないみたいですが、陰陽寮の裏手には綺麗に咲いているみたいですよ」
「そうなんだ。もしかして、琴平もそっちにいるのかな?」
「それはわかりません。って、そういえば、一緒じゃないんですね、それこそ珍しい」

 確かに珍しいよな、というか。本当にどこ行ったんだよ琴平、次会ったら怒ってやる。

「心配ですね、今は何が起きるかわからないのに、琴平さんが一人なのは」
『確かにそうだけど、琴平の事だよ。何か考えがあるんだと思うし、今は一人にした方がいいかもしれないね。なにかあればすぐに知らせてくれるだろうし』
「そうですね、流石に琴平様もずっと誰かと一緒にいるのには疲れてしまいます。一人の時間も大事ですよね」
『うん。まぁ、一つ気がかりなのが。琴平は自分の命を軽く見ているところかな。いつも他人優先だから、そこは本当に考え直してほしいよ』
「ふふっ、琴平さんらしいですけどね。これに関しては闇命様が何度言っても考え直してはくれなかったですよね」
『まったく…………』

 闇命君が言っても駄目なら誰が言っても駄目だな、諦めよう。まぁ、闇命君も自分の事を二の次にしている節があるし、お互い様だよね。

「それなら、俺達が琴平を守らないといけないね。守り守られる関係って、かっこいいし」

 なんか、アニメの世界とかのそういう関係って実は少し憧れていたんだよねぇ。俺自身が体験できるなんて思っていなかったけど。

『…………君、いつ琴平を守ったの?』
「お願いだからさ、哀れみの目を向けながら言わないでくれる? せめていつもの嫌味を込めて言ってきてよ。その方が慣れているから心的に楽」
『自分で言って悲しくならない?』
「……………………うるさい」
しおりを挟む

処理中です...