憑依転生した先はクソ生意気な安倍晴明の子孫

桜桃-サクランボ-

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呪吸の義

未回復

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「ん、…………っ。あれ、ここって…………」

 俺はあの空間から目を覚ましたみたいだ。薄く目を開けると、暗い光景。

 和室で布団の上に横へとなっている。壁には琴平が背中を付け、目を閉じている。俺のすぐ隣には、紅音が横になって眠っていた。反対側に夏楓が舟をこぎながら座り寝ている。
 頭の上にはおそらく鼠姿の闇命君。視界に入らないけど、なんかか当たる感覚。

 …………どうしようこれ、動くと起こしてしまいそうだし。かといって、このまま同じ体勢は正直きつい。仰向けだからまだ耐えることは出来るけど、みんなが起きるまでこのままはさすがに勘弁してほしい。

「起きたか、優夏」
「あ、琴平。もしかして起こしちゃった?」
「いや、紅音から聞いていると思うが、俺は人がいる場所では深く夢の中に入ることが出来ないんだ」
「あぁ、確かに言っていたな」

 琴平が俺に近づき、紅音を起こさないように体を起こしてくれた。一瞬唸っていたが、すぐに夢の中に入ってくれた。気持ちよさそうでよかったよ。

「ここでは周りに迷惑がかかるな。まだ深夜だが、外で話すか?」
「それだと助かるかな。何が起きたのかも聞きたいし」
「了解だ」

 琴平が俺を下ろし、二人で襖に向かおうとしたんだけど…………。

「あ、闇命君も起こしてしまったのかな、ごめんね」
『早く』
「…………はい」

 ズボンの裾を噛まれて足を動かす事が出来なくなった。足元を確認すると、そこには鼠姿の闇命君。手を差し出して、肩に乗せた。

 そのまま周りの人を起こさないように気を付けながら襖を開け、廊下に出た。

 ☆

 外に出ると、まだ日が昇る気配は無い。代わりに月が夜空に浮かび、煌々と輝いていた。
 心が洗われるような光景に、思わず息が洩れる。この光景や空気は、都会では絶対に味わう事が出来ないだろう。

「座れそうな箇所がないか探そうか」
「確かにそうだね、ずっと立っていると疲れるし」

 どこかに座れそうな大きな岩や、木の根っこなどはないだろうか。

「…………ふわあぁ……」
「もしかして、まだ眠いか? まだ寝ていてよかったんだが…………」
「いや、眠くはない。なんか、起きたばかりって、眠くなくても欠伸が出るんだよね」
「そういうものなのか?」
「琴平はないの? 一人で寝ている時とか」
「特にないな」
「ないのか…………」
「なんか、すまない」

 思わず肩を落としてしまったから、琴平が謝罪してくれた。いや、謝罪が欲しかったわけではないんだけど。

 え、あるよね、あるよね。俺だけじゃないよね、なんか自然と欠伸が出る時あるよね?

「あそこなら座れそうな岩があるぞ」
「あ、はい」

 琴平が指さした方には、人が一人座れそうな岩がある。でも、周りにはないぞ、一つだけしかない。一人しか座れないんだけど。

「優夏」
「え、でも琴平が疲れるでしょ?」

 琴平が俺を座らせようと手を添えている。でも、なんか俺だけだと申し訳ないような気がする。一緒に座れる大きな椅子になりそうなところを探そうよ。

「俺の事なら気にするな。立っている方が個人としては楽なところもある、慣れているからな」
「そ、それなら…………」

 その言葉が本当なのかはわからないけど、琴平が言うのなら遠慮なく座らせてもらおうかな。

 俺が岩に座ると、琴平が横に立ち、闇命君が姿を現した。半透明だから、こんな薄暗い場所だと見えにくいな。

「おや、その姿になるのですね」
『嬉しそうな顔しないで。琴平の前ならもう結構姿を現しているでしょ』
「それでも、嬉しいものは嬉しいのですよ、これだけはお許しください」
『別にいいけどさ』

 闇命君が琴平から顔を逸らして腕を組む。これは照れている時の仕草だ、素直じゃないんだから。

「優夏、本当に体の方はもう大丈夫なんだよな?」
「うん、心配かけてごめん。結構寝てた?」

 確か、俺は呪いの跳ね返りを浄化するため。闇命君が生み出した式神を使い、呪吸しゅうきゅうの儀を実行。でも、これには膨大な法力を使用するため、流石の闇命君の身体でも耐える事が出来ず、長い間寝る事となってしまうと聞いたな。
 今回はそれに加え、七人ミサキを式神にしたんだ。結構な日にち寝ていてもおかしくないだろう。

「いや、一日しか寝ていないぞ」
「…………え? 一日? でも、確か闇命君が式神を使った時は、三日間寝込んでいたんじゃないの?」
「あぁ、だから何度も聞いている。大丈夫かと」

 なるほど。闇命君の身体が本気で心配で聞いているのかと思ったんだけど、しっかりとした理由があったのか。

 なんでこんなに早く体が回復したんだろう。いや、体が回復しただけで、力は回復していないのかもしれない。
 法力は回復しているのだろうか。ゲームのようにパラメーターを開くことが出来れば簡単に確認できるんだけど、残念ながらそんな機能はない。

『体の内に秘める力に集中して。液体のようなものを感じる事が出来るはずだから』
「わ、わかった」

 法力を使う時と同じように集中して、液体を意識。

 ……………………まったく感じないけど…………。

「どうだ、優夏」
「何も感じない…………。これって、回復していないのか、俺が単純にうまく集中出来ていないのか判断できない」
『確かにどちらもあり得るけど、さすがに力の使い方はわかってきたでしょ。今回のはおそらく、法力までは回復していないんだろうね』

 なんとなく闇命君の言い方に引っかかりがあるけど、そこを追求するのはやめておこうか。話が絶対に進まないし、俺も慣れてきたのか怒りメーターが上がらなくなってきた。これは感覚が鈍ってきているな、修正しないと。

「それは、大丈夫なのでしょうか。闇命様の体に疲れが溜まっていたり、無理に動かされていたりはありませんか?」
『大丈夫だと思うよ。何で起きる事が出来たのかはわからないけど、半透明の僕を生成できるほどの力はあるみたいだし、心配しなくていいと思うよ』
「それなら、いいんですが…………」

 闇命君が説得しても、完全に納得は出来なかったみたいだな。琴平は心配そうに眉を下げてる。

 琴平を不安にさせたいわけじゃないから俺も大丈夫なことを表現したいんだけど。
 法力を感じなかったのは事実。でも、体には異常なし。どうやって表現しろと。

「…………ところで、闇命君、琴平。俺が倒れてしまったあと、どうなったのか教えてもらってもいい? 水分さんにはしっかり報告したのかも聞きたい」
「確かにそうだな」

 琴平がわかりやすく、俺が倒れてしまった後の事を教えてくれた。闇命君はその間、何かを考えるように顎に手を当てたり、夜空を見上げていた。
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