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呪吸の義

呪吸の儀

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 法力を送り続けていると、光が徐々に大きくなる。だが、札から何か出てくる気配はない。まだ時間がかかるのか。


 バチ バチ


 なんだ、札からいきなり火花が弾き始めた。もしかして――……

『やっとか、優夏、行くよ』
「うん!!」


 準備が、整った。


「『呪吸しゅうきゅうの儀 遂行』」

 札の光が勢いよく増していく。目が眩むほどのまばゆい光。徐々に大きくなり、札から放たれた。

 苦しんでいる女性の元に行き、手前で止まる。

 光は女性の鏡写しのような形に変わり、両手のような細い腕が伸ばされ女性の身体を抱き留める。苦しんでいる女性は跳ね返そうとのたうち回るが、抱き留めている光はまったく離す気配を見せない。

 すると、女性の肌に染みついていた黒い痣のようなものが浮き上がり始めた。女性の肌から上へと剝がれ、宙を舞う。

「あれは…………」

 黒い液状のモノは、何かを拒むように暴れようとするが、何かによってその場から動けない。

 全ての痣がなくなった女性は布団に倒れ込んでしまう。抱き留めていた光は顔らしき部分を上へと向かせ、宙で暴れようとしている黒い液状のものを見上げた。

 右手を上に伸ばし、液状のものを掴む。すると、吸い込まれるように光の中に消える。
 全てを吸い込み終えた光は、俺に一礼すると、その場から姿を消した。

「…………終わった…………のか?」
『みたいだね』

 女性に近づいてみるけど、今は疲れて眠っていた。体についていた痣も完全に無くなっている、もう大丈夫だろう。

 良かった、良かった…………けど。

「闇命君…………」
『気づいたんだ、外から

 やばい、外から気配を感じているのはわかる。でも、体がだるい、睡魔が酷い。
 確か、呪吸しゅうきゅうの儀は膨大な法力を使うと言っていた気がする。体が疲れ、休ませようとしてきていた。

「優夏」
「琴平、気づいたんだね」
「あぁ」

 琴平と紅音が中に入ってきた。でも、険しい顔。この気配に気づいたのは確実。

「優夏、大丈夫か?」
「睡魔が襲ってきているだけだよ、大丈夫。ひとまず、外に行こうか。魔魅ちゃん、少しの間だけ女性をお願いしてもいい?」
「……………………うん」
「ありがとう」

 少し納得していないような魔魅ちゃんの頭を撫で、琴平達と外に向かう。
 夜だから誰ともすれ違う事なく外に出る事ができ、気配の強い場所にすぐ向かう事が出来た。

 女性がいる部屋付近、気配が一番強い場に辿り着くことが出来た。
 森に囲まれた陰陽寮だから、周りを見回しても特に変わった個所を見つける事が出来ない。木が沢山立ち並び、月が俺達を照らしているのみ。

 まだ気配を感じる。でも、さっきより遠い。離れてしまっているのか? それなら、追いかけないと。この気配は絶対に、あの妖だ。

『目を閉じて集中して、気配が強い所を感じる事が出来るはずだよ』
「わかった」

 言われた通り目を閉じ、周りの気配を探る。

 静かな湖に立たされているような、静寂な時間が進む。でも、必ず波紋が広がっている箇所があるはずだ。
 何か違和感が、どこかに。この静寂なら、微かな動きも感じる事が出来るはず。

「―――――っ。見つけた」

 波紋、まだ小さいけど感じた。森の中、今は歩いているのかゆっくり移動しているみたい。これなら、走れば追い付くことが可能だ。

 地面を蹴り、森の中に走り出す。琴平達も俺の後ろを着いてくる。

 複数の足音が森の中に響き、風が木の葉を揺らし音を奏でていた。
 周りが暗いから足元とか気を付けないと転んでしまうし、最悪道に迷う可能性がある。

 気配だけは見失うな、集中し続けろ。

「おわ!!」
「闇命様!!」

 重たい体にムチ打って走っていたからか、足が上がらなくて石か何かに躓いてしまった。咄嗟に紅音が手を伸ばし、俺の腕を掴んでくれたから転ばずに済んだ。助かったよ、紅音。

「ありがとう、あかっ――……」

 紅音が俺の後ろに目線を向けている。他の人も一点を見て固まっていた。気配も、後ろが一番強い。

 ゆっくり振り向くと、そこには俺達が探していた妖が手に持った錫杖を片手に見つめてきていた。
 笠で顔が見えにくく、唯一見えている口元は閉じられ動かない。目を見る事が出来ないのに、目線を感じる。気持が悪い。

『ここでこいつらを封じるよ』
「そうだね。これ以上被害を増やす事がないように。ここで俺達がどうにかしないといけないんだ」

 七人の悪霊、見た物を殺し、自身の列に並ばせる妖。

「ここで封印してあげるよ、七人ミサキ!!」
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