上 下
114 / 246
呪吸の義

後悔と前進

しおりを挟む
「ひゃ、百目!!!」

 しまった、百目が俺を守るために刀を放ってしまったから、百目は武器を失い触手を躱す事が出来なくなったんだ。

 あ、百目の札が燃える。百目が、消える。

『間に合った、見たいです。よかった』

 ま、間に合った? 何が…………。

 百目が呟き優しく笑うと、そのまま燃えるように消えてしまった。手に握りられていた札が、一緒に燃えて消える。

 百目が最後に言い残した言葉。何が、間に合ったんだ。

 触手がまた生成される、俺に狙いを定めてくる。これを操っているであろう弥来さんは、無表情で何も感じない瞳で見てくる。切っても切っても意味はない触手。

 駄目だ、動揺するな。何のために百目は俺を守ってくれたんだ。

「闇命君! 早くさっきの続き!」
『いや、その必要はないみたい』

 え、何を言って―――

「『水妖 悪なるモノを全て包みこめ、急急如律令』」

 襖から、人の声が聞こえた。それに、水妖って──まさか!! 

 振り向くと、襖に険しい顔を浮かべている水分さんと紅音。間に合ったって、こういう事か!!!

「水分さん!! 紅音!!」

 まだ完治していないのか、紅音が水分さんの腕を担いでいる。

「今、楽にしてやるからな。行け、水妖」

 水分さんの式神、水妖が右手をゆっくり上にあげる。


 ――――――――バシャン!!!!


 後から水が弾ける音。もしかして、水妖の攻撃で触手が何かダメージ、って。

「触手の動きを止めたのか。触手一本一本に水が付いてる、あれって…………」
『ただの水じゃないね。おそらく体を痺れさせる成分が入っているんだと思う』
「痺れさせる? 倒すんじゃなくて、動きを封じたって事?」
『おそらくね』

 紅音から離れ、水分さんが弥来さんに近付いて行く。さすがに危険じゃないのか? 今、相手が動き出したら水分さんは何も出来ない。せめて、少しでも距離をおかないと。

『ぐっ、が、っくまりさま。ころ、し…………』
「あぁ、安心しろ、お前は十分頑張った。今までご苦労だった」

 え、何その言葉。まるで、今ここで、弥来さんが死んでしまうような。

 まさか、殺す気なのか? 

「…………」

 水分さんが懐から小刀を取り出した。振り上げ、刃を下にいる弥来さんに──……

「ま、待って!!!!!!!」

 手を伸ばし、止めようとしたが、俺が間に合う訳がなかった。

 ☆

 何が起きたのかわからない。なぜ、弥来さんがあんな化け物みたいな容姿になってしまったのか、なんで俺達を襲ってきたの。

 今は大広場でみんな円になり座っている。怪我をした人は、しっかりと手当てを終わらせている。
 俺は周りの人が守ってくれたから、そこまで大きな怪我はない。

「弥来さんは大丈夫なんですか?」
「今は動かないように拘束し、地下牢に閉じ込めている。何かあったとしても、地下なら何とか対処出来るだろう。それより琴平とやら、咄嗟に出て来たとはいえ、腕を刺してしまって済まない」
「いえ、さすがに判断を下すには早すぎかと思ったまでだ」
「そうか」

 琴平は俺の声に答えるように、水分さんが振り下ろした小刀を受け止めようとしてくれたんだ。だが、うまく止める事が出来ず、腕に刃先が刺さってしまった。

「琴平、あの時は結界を張ってくれてありがとう。助かったよ」
「闇命様を守るのが俺の役割だからな、当たり前の事をしたまでだ。と言っても、今回は何も出来なかった。それくらいしか、出来なかった。動揺してしまった、これは反省点だ」

 え、琴平が反省するの? 俺の方が何も出来なかったんだけど。何とか解決しようと動いたりしたけど、結局式神を三体も殺させてしまった。

 結局俺は、何も出来なかった。

『…………。今回のは、一体何か。原因はわかっているの?」
「ここまで大きな騒動を起こした理由はわからんが、起こした奴ならわかる。前に話した、氷鬼家からいなくなった陰陽師だろう」
『今までこんな力を使う陰陽師なんて聞いてこなかったけど。隠されていたの?』
「俺も知らなかった。まさか、ここまでの力を隠し持っていたなんて」

 水分さんも頭を抱えている様子だ。今だと何を話してもわからない状態が続きそうだな。
 まず、今回の件含め調べて、何でこんな事をし始めたのか。何が絡んでいるのか、知らないと。こっちがいつまでも先手を打つ事が出来ない。

 …………落ち込んでいても意味はない。早く、今の事態を解決させないと。何とかしないと。

 また、大きな被害が出る前に。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

京都式神様のおでん屋さん 弐

西門 檀
キャラ文芸
路地の奥にある『おでん料理 結(むすび)』ではイケメン二体(式神)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※一巻は第六回キャラクター文芸賞、 奨励賞を受賞し、2024年2月15日に刊行されました。皆様のおかげです、ありがとうございます✨😊

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...