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呪吸の義

得体の知れない

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 村から陰陽寮までそんなに距離はないはずなのに、なんでかものすごく遠くに感じる。
 早く辿り着かないといけないのに、早く行かないといけないのに。

 早く、早く!!!

「優夏、式神をすぐに出せるようにしておいた方がいい。もし、先手を取られた場合、俺が結界を張る」
「どんな式神を出せばいいの!?」
『なら、雷火を出して。逃げでも攻撃でも、雷火なら対応出来る』
「っ、わかった!!」

 闇命君の言う通り、走りながら雷火を出し、気配の強い所に行ってもらった。

「見えてきた、陰陽寮っ――……」

 なに、この不穏な空気。朝はこんな気配感じなかったのに、どこに潜んでいたの。こんな体に突き刺さり、胃の奥から何かがせり上げてくるような感覚。気づかない方がおかしい

 寮の中に入ると、気持ちの悪い気配が強くなる。この気配は、調書室の近くから? やばくないか、調書室には機密資料とかがあるはず。確かに呪壁が張っていて大丈夫だとは思うけど、あれは呪いの耐性がある人には効かない。
 もしかしたら、今回狙われたのは機密情報かもしれない。それを奪われてしまえば、水仙家の信頼は地に落ち周りからの目は厳しいものになるだろう。陰陽寮の秘密は、絶対にばれてはいけないと何も知らない俺でもわかるし。


 ――――キュィィィィィィイイイイイイイイ


 え、雷火? っ!?

「え、雷火の札が、燃え――――た?」
『足を止めるな!! 走れ!!』
「う、うん!!」

 陰陽寮の中を走っていると、人と沢山すれ違うようになってきた。でも、すれ違う人はみな、何かから逃げるように俺達とは逆の方に走って行く。
 その中には巫女だけではなく、陰陽師も混ざっている。なんで、戦闘をしないで逃げるんだ? 

「あともう少しだ」
「うん」

 あの曲がり角を曲がれば多分いる。この気持ち悪い気配の正体、一体誰なんっ――……



 ――――――――え



「くっ、カハ…………」
「こほ、けほ!!」

 床に魔魅ちゃんがお腹を摩りながら倒れているし、夏楓は何か、変なものに首を絞められている。

 あれはなに、触手? 夏楓の目の前に立っているのは、弥来さん…………? 

 でも、いつもの弥来さんじゃない。
 肌はこげ茶色になっているし、ひび割れているように見える。目は充血しているのか赤くなって、夏楓を掴んでいる手は触手のように伸びて気持ちが悪い。

「何を、しているんですか?」
『………………』

 こっちを見たはずの弥来さん。でも、すぐに目を逸らし、夏楓に向き直してしまう。苦し気に顔を青くしている、早く助けないと首を折られるか、窒息死。

 いや、絶対に殺させない!!!

「『川天狗 忌まわしき魔の手から夏楓を解放し、弥来さんを夢の中へと取り入れろ。急急如律令』」

 懐から一枚の札を出し弥来さんへと投げる。そこから水しぶきを上げ、美しい女性の姿である川天狗が現れた。

『主の仰せのままに』

 川天狗が真っすぐ夏楓の元に飛んでいく。でも、気づかれたっぽい。目だけを動かして川天狗を見ている。何かを仕掛ければ、こっちがやられるかもしれない。

 つーか、雷火をどうやってあんな短時間で倒す事が出来たんだ? なにか、隠し技とかがあるのか? 気配が大きすぎて探る事が出来ない。まるで、あいつ自身に閉じ込められたような、そんな感覚だ。
 周りを探ろうにも、気配が俺を取り囲み探らせてくれない。

「が、は!」
「っ、夏楓!!!!!」

 まずい!! 式神に頼ってばかりじゃ駄目だ、なんとしてでもい一早く夏楓を助けないと!!!

『馬鹿!!! 後ろに下がれ!!!』

 後ろから闇命君の声。いつの間に半透明にっ――……


 ―――――シュッ!!


 え、なにこれ。地面から触手みたいなのが突き出してきた…………?
 体を咄嗟に動かす事が出来ない、触手がスローモーションのように俺を捕まえようとしてくる。足を動かして逃げる事も、手を動かして式神を出す事も出来ない。

 掴まっ──……



『主に何をするんですか、この無礼者』



 ――――――――ザシュ

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