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水仙家

調べ物

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 三人がいなくなった部屋に、俺と半透明の闇命君。夏楓と魔魅ちゃんがまだその場から動かず沈黙。誰も話そうとしないだけど、なんか気まずい。

「闇命様。先ほど、やる事があると仰っておられましたが、何か致しますか?」
『うん。こっちはこっちで出来る事をやろうか」
「かしこまりました。何をしましょうか」
『調べ物』

 調べ物? あ、闇命君が鼠に戻ってしまった。俺の肩に登ろうと足をカリカリしてくる。可愛いんだよな、ここだけ。本当にここだけ。

「いってぇぇえ!!! おい!!」
『早く手を伸ばさないのが悪いんでしょ。もううそろそろ瞬時に手を伸ばして欲しいものだけどね、反射神経鈍すぎない?』

 くそっ。それなら、鼠になる時に肩めがけてジャンプしろ。…………あ、それはさすがに危険だからやっぱり俺が拾い上げてあげるよ。でも、噛むのはやめて…………。

「調べ物と致しましたら、調書室でしょうか」
「そうだね、どこにあるのかなぁ。…………歩いている人にでも聞いてみようか」
「そうですね」

 部屋から出て人を探すが、何故か人がいない。小さい陰陽寮だからそんなに人がいないのかな。

「あ、あそこに人がいますよ」
「本当だ、話しかけようか」
「はい」

 前の方に狩衣を着た人がいる。ここの人だろうし、聞いてみよう。

「すいませーん!!」

 振り返ってくれた男性。黒い短髪に眼鏡。きりっとした黒い目に、怖そうな表情。すぐに分かる、この人。くそ真面目で頭が固いタイプの人間だ。
 これで優しくて笑顔を振りまく人だったらそれはそれで嬉しいけど、戸惑う。

「何でしょうか」

 思った通りの真面目ちゃんだった。これは間違えた事を言うと、言葉で刺される可能性。夏楓が暴走しないように気を付けようか。

「あの、俺は安倍家からある理由で旅をしている安倍闇命です。水仙家の陰陽頭に自由に歩き回っても良いと言われている為、少し調べ物をしたく。調書室というものはありますか?」
「…………またあの人は、適当な事を…………」

 頭を抱えてしまった。もしかしてこの人、苦労人だったりする? 結構位の高い人なのかな。じゃないと、こんな反応しないいような気がする。

「いえ、申し訳ありません。私は鏡屋弥来《かがみやみくる》と言います。私でよければご案内します」
「ありがとうございます」
「ですが、私と共にです。言ってしまった以上、ご案内は致しますが。普通なら、他の陰陽寮の方でも調書室に入るのは原則禁止。機密事項がございますので」
「あ、なんか。すいません…………」

 そうか、確かに漏らしてはいけない情報とかあるからそれは仕方がない。でも、そうなると、何故水分さんは自由に動き回ってもいいと言ったのだろうか。
 調書室以外にも入ってはいけない部屋や、触れてはだめな物とかありそうだけど。まぁ、むやみやたらに部屋に入ったり荒したりはしないけどさぁ。

「貴方達は何をお調べになりたいのですか?」
「七人ミサキや短命の呪いについてとか。調べえられる事があれば調べたいなと」
「先ほど安倍家の者と言っておられましたが、自身の所ではお調べ出来ないのですか?」
「訳がありまして、戻る事が出来なくなっているんです…………」
「そうですか、そこは深く聞きません。興味が無いわけではありませんが、今聞くべき段階ではなさそうなので」
「お願いします」

 この人は頭が固そうだけど、結構話が出来る。

「着きましたよ」
「あ、ありがとう」

 少し大きめな襖。上には板が張り付けられ、調書室って書かれている。これくらいわかりやすかったら俺でも一人で行けそう。学校のプレートみたいな感じだな。

「今鍵を開けますので」
「あ、はい」

 南京錠…………。そういえば、周りの雰囲気が少し暗い気がする。蝋燭も少なくなって、太陽の光も入ってこない。なんか、薄気味悪い雰囲気が漂う場所だ。
 光がないだけでここまで人を不安にさせるのか。

「どうぞ、中へ」
「ありがとう」

 中も薄暗い。どうしてこんなに薄暗いんだ、雰囲気を大事にしているのか? いや、いらないよそのこだわり。

「七人ミサキと短命の呪いについて調べたいと言っていましたが、まずはどちらからお調べになりますか?」
「あ、ならたんっ――――七人ミサキでお願いします」
「は、はい」

 肩に乗っている闇命君からの視線で瞬時に理解した。これは七人ミサキを早く片付けろという、無言の圧。瞬時に把握出来るようになってしまった、なんとなく悲しいんだけど仕方がない。

「七人ミサキでしたら、今お持ちしますのでお待ちください」

 あ、行ってしまった。そういえば、今の人はどの位に位置する人なんだろう。琴平達と同じ陰陽師なのだろうか。それか、もっと上の人? もしかして、陰陽助じゃないよね? それだったらさすがに今の俺、失礼が過ぎると思うんだけど。何も言って来ていないからいいと思うけど。

『七人ミサキは全てを成仏させるのは無理だから、ひとまず僕達が把握している物だけをやるよ』
「え、もしかして。七人ミサキって、この村の近くにいるものとまた違う所にも存在する感じ?」
『当たり前でしょ。怨霊や妖。幽霊などはこの世に溢れかえっている。その中で同じ存在の者がいてもなんもおかしくはない』

 確かにそれもそうか。あ、男性が何冊かの本を持って戻ってきてくれた。

「おそらくですが、七人ミサキが乗っているものはこちらだけかと。五冊程度ですが、お役に立てると嬉しいです。」
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