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水仙家

意外な怖さ

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「あ、危ない!!!」

 ゾンビがあの人に向かって走って行く、止めないと!!

『待て、何かある』
「え、何かって?」

 闇命君は何かを感じているのか? でも、ゆっくり考えていたら、あの男が危ないんじゃないの!?

「……………………舐めんじゃねぇぞ」

 っ、今の声は、あの男の声か? 低くて、怒りの込められた声。一気に体が重たくなった。

 ……………………っ。下から、何か来る!!


 ――――――――バシャ!!!


「はぁ?! 地面から水が噴射!?」

 水が地面から噴射、ゾンビを吹き飛ばした?! 
 空中に投げだされたゾンビが次々に地面に叩き落とされる。生々しい音……。でも、すぐに立ち上がってるな。

「どうやったら倒せるの」
『屍人は基本、術者を倒さないと永遠に追いかけ続けたはず。死霊魔術師は数が少ないから情報すらないんだけど、大体は術者が倒されれば全て済むはずだよ』

 なら、俺達が術者であるあの子供を何とかしないと。子供だからって手加減する訳にはいかない。

『主、ここは私が』
「百目? わかった、お願い」
『仰せのままに』

 刀に手を添え、少女に向かって行く。百目がやられる事はないと思うけど、逆に殺さないか不安だよ。

『参ります』

 地面を蹴り、百目が術者の死角を取る。

 目がこっちに、気づいたのか。でも、百目の方が早い!!

「――――っ!?」

 百目が切り払おうとしたら、いきなり姿を消した。何があったんだ、どこに。視界から外れただけとか?  

 周りを見ても誰もいない、男が膝を付いているだけ。さっきの少女はどこに。

「気配が、消えたな」
「判断力の速さ、異常ですね」
『今回はそれのおかげで助かったけどね。ひとまず、あいつが水仙家の陰陽頭のはず。行こうか』
「う、うん」

 男は荒い息を整えながら、前を見てる。そういえば、さっきの水はなんだったんだ。もしかして、あれも式神か?

「あの、すいません」
「…………あぁ?!」
「申し訳ございません!!!!」

 え、あ、え? 咄嗟に謝ってしまった。いや、この人。顔こわ!!! いや、怖くはない。どっちかというと、優しい印象。

 水色の短い髪。でも、横髪は顎くらいまで長い。なぜか釣り目で俺を睨みつけてくるんだが、口悪いし。

 本当にこの人陰陽頭? 口調がここまで荒い人には今まで会った事ないぞ。

「貴様!! 今闇命様を睨んだだろう!! そのような無礼をするなどゆるさっ」
「落ち着くんだ紅音。拳より凍らした方が早い」
『二人とも下がって』
「「はい」」

 …………紅音はいいとして、琴平は本当に落ち着いて。闇命君が絡むと馬鹿になるの本当にやめて。

「えっと。傷酷いし、治した方が…………」
「いらねぇよ、これくらい問題ない」
「問題ない訳ないじゃん。こんなに深いんだから、後が辛いよ?」
「問題ねぇ」
「駄目だって」
「しつけぇ」
「治させてくれるまでしつこいよ?」
「…………餓鬼が」

 結構痛々しい、早く治療しないと。後ろからの殺気が体に刺さるんだけど、闇命君がいるから大丈夫だろう。殺気を向けられている本人陰陽頭は全く気付いていないみたいだけど。

「…………夏楓か紅音、この人の怪我を治す事出来る?」
「絶対に断る」
「では、私がやりますね」

 夏楓が率先して前に出てきてくれた。紅音は腕を組んで絶対に治さないと訴えてくる。まぁ、治してくれるのならどちらでも…………。

「余計な事をしてんじゃねぇぞ」
「私の主からの命なので諦めてください」
「ふざけるな、俺に近づくな」
「警戒しないで大丈夫なので、酷い箇所を見せてください」
「断る」
「見せてください」
「断る」
「…………」

 やっぱり嫌がるかぁ。でも、今も腕や足。顔にも切り傷が付いて血が流れてる。殴られもしたのか、頬は赤く腫れあがっているし、見ているだけで痛そうなんだけど。なんで、治させてくれないんだろう。

『…………優夏』
「んえ!? な、に?」

 俺の名前を呼んだ? いきなりどうしたんだよ闇命君。何かあったの?

『言っておく。紅音と夏楓だけは絶対に怒らせたら駄目だからね』
「え? それはどういう事?」
「見ていれば分かる」
「え?」

 琴平まで何を言っているんだ? 確かに紅音を怒らせるのはまずいかもしれないけど、楓夏も? 怒ると怖そうではあるけど、そこまで警戒する必要はっ──……

「いっってぇぇぇえええええ!!!!!! は、離せ!!!!」

 さっきの男の叫び声!? なにっ――――え?

「大人しくしていてくださいねぇ。闇命様の命なので我慢してくださぁい」
「わかったわかった!!! 大人しくしてやるから離しやがれぇ!!!!!」

 ……………………夏楓ももしかして、体術出来るん?
 男がいつの間にか地面にうつぶせに倒されている。腕を背中に付けられ、背中に夏楓。体を固定させ、無理やり治してる。しかも、黒い笑顔を浮かべながら。

 こっわ!!!!

 ☆

「あの、大丈夫ですか?」
「お前、これは一体どういう事だ…………」
「ごめんなさい。俺も予想外でした」
「はぁ?」

 やっと解放された男は、肩を押されながら地面に座っている。しっかりと傷は治っているな。そこは抜け目ないな、さすが夏楓。

「…………はぁぁぁあ。出てこい、水妖《すいよう》」

 ん? 水妖? もしかして、この人の式神かな。

『はい、主様』
「どぁぁぁあ!! って、びじぃぃぃぃぃんん!!!!!」  

 なにあれちょっと!! 川天狗みたいな見た目だな。アニメとかによく出てくるローレライやウンディーネ的な、綺麗なお姉さん。白いローブと呼ばれそうな服を身にまとってる。
 水色の長い髪、同じ色の両目。絶対に学校とかに居たらモテるタイプ。でも、話しかける事が出来なくて、高根の花扱いされるタイプ。

「さっきは助かった、戻れ」
『御意。また、お呼びください』

 光り出すと、そのまま消えてしまった。札に戻ったのか。今のが水妖と呼ばれる妖。水属性だよな、確実に。この人の式神なんだろうな。

『主、我も』
「あ、そうだね百目。ありがとう」
『最後、お役に立てなくて申し訳ございません』
「全然大丈夫だよ、気にしないで。今はゆっくり休んで」
『はい。失礼します』

 百目も札に戻り、今回の出来事は一段落。まさか、着いてすぐにこんな事になっているなんて思ってもみなかった。
 あの子は一体、何者なんだろう。

「さて、お前らは何でここに居る?」

 あ、男の人が俺達の方に怖い顔向けて聞いてきた。あの、もう少し優しく問いかけてください。ものすごく怖いです。
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