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水仙家

前進

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 男性が村の中、胸に刀が刺さり、死ぬ。この場で男性と呼ばれる人は一人。

「…………琴平ことひ

 紅音が顔を青くし、震える唇で御者席から中を覗きこんでいる琴平の名前を呼ぶ。
 本人は、先程から表情を一つ変えずに顎に手を当て考え込んでいるみたい。え、余裕?

「で、でも。琴平と決まったわけではないよね? これから誰かと出会う可能性だってある訳だし」
『気が動転しているのは分かるけど、一度落ち着いたら? 先ず、かでは無い。。それを考えた方がいいと思うけど? それに、確実に琴平だと思う。だよね、件』
『…………はい』
「うそっ………」

 琴平が、死ぬ? 刀……?? 刀と、言う事は──……

「…………靖弥」
『決めつけは良くない。それこそ、足元すくわれるよ。刀を扱う者は恐らくまだいる。それに、百目も刀を使うでしょ。他の妖の可能性もある』
「そ、うだね……」

 思わず琴平を見ると、先程と変わらない表情。眉を顰める事も無く、落ち込む事も無い。冷静を貫いている。

「琴平、大丈夫?」
「問題ないと言えば嘘にはなる。まさか、そのような予言をされるとは思っていなかったからな」

 琴平が顔を上げ、一拍置き件に問いかけた。

「件、周りの状況とかは分かるか?」
『周り?』
「俺の周りの状況だ。紅音や夏楓、おそらく戦闘を行っていると思われる。式神がどのような状態で、戦況はどちらに傾いているか。闇命様は無事かどうか」

 そうか、確かに戦況を知る事が出来れば、件の予言を覆す事が出来るかもしれない。必ず当たると恐れられているけど、百パーセントでは無いはず。
 どこかに必ず穴はあるだろうし、あって欲しい。

『ちょっと。待ってください……』
「あぁ」

 件はまたしても俺を見てくる。いや、もうこれ以上の情報は怖いんだけど……。琴平の事だけで精一杯だよ。

『…………分からない』
「……え?」
『分からない。いえ、見えない? 周りの状況を見る事が出来ません。真っ暗で、まるで闇の中に放り込まれているような……』

 件ですら見る事が出来ないの? いや、周りが暗闇。琴平は、一人でどこかに行くという事か? 別行動?

『あ、み、えた……。けど、これは少し……口にするのは、怖いです』

 件が自分の体を両手で抱き、カタカタと震えてしまった。

「く、件? どうしたの?」

 両肩に手を置き問いかけるけど、震わせるだけで何も話さない。顔を俯かせてしまったから表情も見る事が出来ない。

 え、まじで。俺達に何が待っていると言うのか……。

「…………怖いんだが」
『それは琴平だろ。とりあえず、琴平はこれから絶対に一人にならないで。僕か紅音の傍にいる事。別行動なんてもってのほか。良い?』
「はい、気をつけます」

 震えている件をひとまず御札へと戻し、馬車を出発させる。
 
「…………」

 誰かが死んでしまう、大事な仲間が死んでしまう。また、友人を助けられなくて。何も出来ないまま、失うのか。

 怖い、怖いよ。また、あれを経験するのか? また、俺は助けられないのか。

「…………靖弥…………」
『……っ、しっかりしろ!』
「っ!」

 闇命君の怒りの声、いきなり何?

『今弱気になってどうするつもりなんだい? 今考えた所で助かるものでもないと思うがね。今考える事は、でない。。そちらを考える方が、今の私達にとって良いと思うのだけれど?!』

 口調が……。そうか、闇命君もものすごく不安なんだ。今までずっと一緒にいた人が居なくなる恐怖。それに、闇命君にとって数少ない心を許せる人。

 俺より年下の闇命君がここまで頑張っているのに、俺は何を考えていたんだ。不安になるだけで、何も考えようとしなかった。

「…………そうだね、闇命君。そもそも、件の予言だって外れる可能性もあるし、未来は変わる。いや、俺達で変えていかなければならない。他の陰陽寮も変えていかなければならないし、ここで立ち止まる訳にはいかないよね」
『当たり前の事を言わないでくれる? ウザイ』
「一度埋めてやろうか」
「その前にワタシが貴様を埋めてやる」
「大変誠に申し訳ございませんでした」

 やっべ、紅音の前で言うとか。俺はなんて命知らずなんだ。
 夏楓はクスクスと笑っているし……。いや、笑うところじゃないんだよ助けて。めっちゃ鋭く光っている瞳を向けられてて怖いんだよ!! え、まさか殺気まで含まれてる? やめてやめて! めっちゃ怖いわ!!!

『…………ばーか』
「……スイマセンデシタ」

 こんの、クソガキがぁぁぁあああ!!!!!
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