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革命

悪業罰示神

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「……──と、こんな感じだ。説明が上手くできずすまない。俺も、当初は気持ちに余裕がなくてな」
「ううん。ありがとう」

 琴平は話している間ずっと、表情を変えず淡々と続けていた。
 感情の昂りを抑えるためなのかは分からないけど、聞く気にもなれないな。多分、思い出したくないだろうし、これ以上しつこく聞くのはやめよう。

「でも、なんか闇命君、変わった?」
「そうだな。変わって、しまわれたよ」

 "しまわれた"……か。環境が悪すぎたんだろう。結局、革命を諦めざるを得なかったし、お父さんの意志を継ぐ事が出来なかった。辛かっただろう。

「とりあえず、三人の関係性はわかったよ。わかったけど、まさか昔の三人が今の俺と同じ事をしようと奮闘していたなんて思わなかったな」
「まぁ、そうだな……。力不足で出来なかったが。今回は、人数が一人だが増えている。可能性は低いが、損はあまりないだろう」
「あまりない?」

 言いきらないんだな。

「最初、革命を起こすため色んな人に対し反発していたからか、今では動きにくい環境となってしまったんだ」

 あぁ。闇命君の性格があんなだからと言うだけではないのか。
 簡単に言えば、信用されていないってだな。また勝手な事をされては困るって感じなんだろう。

「それで、優夏。これからどうするつもりだ。陰陽助はおそらく邪魔して来るぞ」
「なら、もう一人の陰陽助に助けを仰ぐし、邪魔をしてくるなら、今までみたいにこじ開ければいい。闇命君や琴平達がいるなら問題ないよ」

 俺一人でやろうとしていたけど、やっぱり仲間がいる事での安心度が違う。本当に頷いてくれて良かったよ、ありがとう。

「そういえば、琴平はなんで俺をここに?」
「…………いや、ただ確認したかっただけだ。もう、確認は終わった」
「ん? そうか?」

 何を確認したかったんだろう。まぁ、なんか琴平、スッキリしたような顔しているし、納得したのならいいか。

「ここにずっといる訳にもいかない、一度戻るか、体を休めろ。明日また件の確認をしなければならん」
「確かにそうだね。戻ろうか」

 俺達は一度村へと戻り、紅音達と合流。宿屋へ向い、そこで一泊。
 次の日の朝、もう一度件を確認するため、井戸の中へと闇命君と共に入った。

 ☆

『居るみたいだね』
「もう、生き返っているんだ」

 暗闇の奥から、人とは思えない気配を感じる。

 井戸の中なため、雫の落ちる音が反響し、風も冷たく体を震わせる。
 そんな中、奥の方から妖気? といった、何かの気配を感じる事が出来た。なんか、体がゾワゾワするというか、視線があるような気がする……。

『これ以上近づくのは危険みたいだね』
「うん。それで、どうするの?」

 件の退治方法はよく分からないし……。というか、退治しても転生してしまうのなら、意味無いのでは?

『退治して、件が死ぬ前に式神にする。そのためには、まず件に僕の実力を見せつけないといけない。動けないようにするには……』

 闇命君はそのまま自分の思考に没頭してしまった。

 人数が多いと身動き取れにくいという理由で、今は俺と闇命君の二人で行動。
 そのため、闇命君が黙ってしまうと、俺が何もする事がなくなってしまう。

 俺が何か考えたところで意味ないだろうしなぁ。ここは、闇命君にお願いするのが一番な気がする。

 周りを見回して時間を潰そうとしても、特に興味を引くものがない。なにか文字とか、壁画とかがあれば楽しかったと思うんだけど、仕方が無いなぁ。

「…………ん?」

 なんだ? 天井に何か貼ってある。なんだあれ?

 よくよく見ると──あれは、御札か?
 一、二、三………十以上貼ってある。なんだあれ。なんで御札が……。

「あれ?」

 もしかして、あの御札で件の動きを制限していたのか? ここに留めていたのって、漆家の陰陽師達なんだっけ。札で制限していたのか。

 あ、闇命君が顎から手を離し、難しい顔を俺に向けてきた、まとまらなかったのか?

『……対処法は思いついた。でも、僕一人では無理だ』
「え、な、なんで?」
『件の予言は、目の前にいる者を対象とする。それはつまり、視界に入っている者を対象としている事になる』
「つまり、視界に入らないように件を拘束し、背後から封印……と、いうか式神にする感じ?」
『そうだね。式神にするのは優夏だから、やり方は教える。しっかりやってね』
「う、うん……」

 今は俺の体が闇命君の体だから、何とかしないといけないよな。
 式神にするために言葉とかも覚えないといけないのに、視界に入らない工夫とかもしないといけないのか。
 式神で気を逸らす? でも、百目とか座敷童子とかの、人間型はなんとなく良心が………。

「……河童なら」
『…………まず、囮という考えを改めようか』

 うっ、バレた。なら、どうすればいいの?

『……よしっ、その視野と暗闇を利用しよう。雷火を出して』
「え」
『早く』
「あ、あぁ」

 な、なんだよいきなり。前触れもなく雷火を出してって、何を考えてんの?

「『雷火、暗闇を照らす光となれ、急急如律令』」

 多分、周りを照らすためだよな?

 雷火を手のひらサイズの大きさで出し、闇命君に渡そうとする。けど、雷火は自身の羽で飛び、闇命君の周りをぐるぐるとも回って遊んでる。楽しそうだな。というか、件に気づかれるのにその動き?!

『雷火、件の視界を眩ませろ』

 ────キュゥゥウイィィィイイイイイ

 雷火が勢いよく件の方へと向かってしまう。

 眩ませる? あれ? 雷の光が淡い。周りがほぼ暗いままじゃん、どうなってんだ?

 っ、な、眩しい!!! な、なに?!! 何も見えない!!

 思わず手で目元を隠していると、野太い声が井戸の中に反響する。これがもしかして件の声? なんでこんなに叫んでいるんだ。雷火、何をしたんだ?!?!

 目の前が少し暗くなってきたか? 
 目を開いてみると、雷火の光で周りを見る事が出来る状態になっている。
 近づいてみると、件が目を閉じ足を畳んでいる。今のうちじゃねぇか?!?!

「闇命君!!」
『視界の中心で雷火で目を眩ませれた。よし、川天狗を出して!』
「わかった。『川天狗、人の先を見るモノを溺れさせよ、急急如律令』!!」

 黒髪美人さんである川天狗を出し、件を制圧する。

『仰せのままに』

 細く白い手を件の頭に添え、集中するように目を閉じる。
 件は何か焦ったように目を開けだが、俺の方には気をとめず、低い恐怖の声を出していた。

『や、やめろ。やめてくれ』

 何をそんなに脅えているのか。体を後ろに逸らしているが、川天狗が頭を抑えているため、動く事が出来ていない。

『やめろ、やめろぉぉおお!!!!』

 普通の人間のように話している。百目や川天狗も普通に話しているから不思議ではないんだけど、ここまで怯えるなんて……。川天狗は何を見せているんだ?

『や、やめろぉぉぉぉぉおおお!!!!!』

 っ?! 脳にまで響く叫び声!! 耳を塞いでも意味は無い。何を見せているんだ本当に!!!

 耳を塞ぎ何とか耐えていると、徐々に声が小さくなっていく。
 完全に静かになり、耳から手を離し前を見ると。件が意識を失い、川天狗は添えていた手を離していた。

「何を見せたんだろう」
『それを知ったところで、僕達には関係の無い事でしょ。今は時間を無駄にせず、式神にするよ』
「あ、うん」

 闇命君の言う通りだ。とりあえず、件が目を覚ます前に、それか死ぬ前に早く式神にしないと。

『僕の言葉を真似し、法力をいつものように御札に込めて』
「うん」

 御札を手にし、集中するため目を瞑る。
 一定のリズムで息を吸い、吐く。

「『現世を放浪するモノ、名を件。我を主とし、我の下僕となり、屈服せよ。汝の名のもとに──急急如律令』」

 言うと同時、御札が光り、それに同調するように件も眩い光に包まれる。
 集中力を切らさないよう、呼吸のリズムを崩さず、法力を注ぎ込む。

 光は徐々に御札へと吸い込まれ、俺の力になっていくのを感じる。
 水道の水がコップに溜まっていくような感覚があり、確実にものになっているのが分かる。

 それから数秒後、光は完全に御札の中へと吸い込まれ、辺りは暗くなった。

「せ、成功?」
『したと思うよ』
「…………はぁぁぁぁぁああああああああ」

 つっっっっつつ疲れたあぁあぁああああ!!!!
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