上 下
76 / 246
心からの安らぎ

無駄

しおりを挟む
『ち、からが欲しいか? 君は……?』
『私の名前は安倍闇命あべのあんめい。安倍家の者だよ。多分、父さんに会った事あるんじゃないかな』
『と、うさん? も、もしかして、煌命さん?』
『そう、私の父さん。君、まだ現実を受け止められていないように見えるけど、このまま同じ生活を続けていきたい?』

 その言葉は、俺の心を覗いているように感じ、闇命様の目も全てを見透かしているように光っているように見えた。だから、直ぐに頷く事が出来ず、後ろにいる紅音をチラッと見ると、同じく不安そうに顔を青くしていた。

『…………現実を受け止められていないという言葉はよく分からないが、最初の言葉はどういう事だ? 力が欲しいかって』
『私達の元で陰陽師になってみない? 君達のような存在が欲しい』

 力が込められている言葉、目がすごく輝いていたんだ。それを見ると、嘘をついているようにはどうしても思えず、紅音も気になったのか俺の隣まで移動し、不安げに闇命様を見下ろしている。

『まぁ、もっと簡単に言えば、安倍家に入らないかという誘いだよ。もちろん無理強いはしない。でも、今の君達は見るに堪えないんだよ。だから、来てくれると嬉しい』

 素直に言われると、断るのも戸惑われてしまい、咄嗟に頷いてしまった。その反応を見た闇命様は、満面な笑みを浮かべて子供らしく「やったね!」と二本の指を立て喜んでくれたんだ。

 その顔を見て最初はさすがに戸惑ったが、俺ももうそろそろ変わらなければとも思い始めた。

 それから俺達は安倍家に入り、闇命様と、父である煌命様の元で陰陽術を習得し、力を得る事が出来た。
 紅音は巫女の力を手に入れ、それと同時に筋力を鍛え始め、少しでも力になろうと努力を続けてくれる。それが、どれだけ俺達の支えになっていたか……。

 何度も逃げたくなった。この、胸糞悪い空間に、いたくなかった。それでも、闇命様と煌命様のため。尽くす事を心に決めたから、やりきる事にしたんだ。だが、呪いについて聞いた時、煌命様は言った。

『私の命は、もう長くない。次の陰陽頭は闇命にしようと思っている』
『で、ですが、闇命様はまだ……』
『そうだね。まだ、闇命にこの立場は早い。周りも認めないだろう。だから、闇命が大きくなるまで、他の人に頼むつもりだよ。そもそも、この安倍家では、立場はただの名前のみ。正直、誰がなろうと関係がない。だから、今のこの陰陽寮を変えて欲しい。私が出来なかった事を、して欲しい』

 その言葉を最後に、煌命様は目を閉じた。

 それから、変えようと努力した。闇命様と、努力したんだ。
 その時、夏楓も新しく入り、闇命様が事情を話し、協力をお願いした。

 それでも、全く意味はなく、諦めるしか無かったんだ。

 そして、今のように、闇命様は周りから遠巻きにされ、世界が狭くなり、自由な行動できない、そんな環境になってしまった。
 様々な理由を付けて、闇命様の行動範囲を狭くした。

 何も出来なかったんだ、俺達は。煌命様の気持ちを、受け継ぐ事を、諦めてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

いつもからかってくる人に喘ぎ声を出させた

サドラ
大衆娯楽
「僕」は大学生。彼女はいない。しかし、高校からの同級生に密かに思いを寄せていた。そんな彼女の弱点を握った彼は…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...