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安倍晴明

本気

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 俺が革命を起こそうと言い切った時、闇命君は当たり前だけど否定してきた。

『無理だよ。本当に無理、馬鹿だよ。君は本当に馬鹿。無理に決まっているじゃん、しっかり考えてから発言してよ馬鹿』
「馬鹿馬鹿うるさないなぁ。でも、闇命君だってこの世界を変えたくないの? 世界と言わなくても、この陰陽寮の制度や暗黙の規則とかを、変えたいと思わない?」
『言っておくけど、この陰陽寮の規則は、もう何十、何百と続いているんだ。ぽっと出の君が変えられるほど軽いものじゃないんだよ。それぐらいはいくら馬鹿でも分かるよね』
「確かにわかるよ。俺なんかが変えられるわけが無い。だって、元の世界では凡人の中の凡人なんだから」
『なら諦めなよ。無理なんだから』
「でも、今の俺の体は誰? 俺ではないよね」

 問いかけると、闇命君はすぐに答えず、舌打ちをし視線を逸らす。
 まぁ、そういう反応だよね。だって、闇命君は自分の事を天才と言っている。俺を説得するためとはいえ、自身を貶事なんて口にはしないでしょ。

「今の俺は、安倍闇命の体だ。それに、この体の中には、最強の陰陽師、安倍晴明もいる。もし、何か命に関わる事が起きたとしても、問題は無いと思わない?」
『言いきれる訳が無いと思うけどね。今後、どうなっていくかなんて分からないし、陰陽寮がいくつあると思っているわけ? 十個二十個な訳が無いでしょ。正確な数なんて僕も把握していないんだ。君なんかが分かるの?』
「分からないよ。それに、全ての陰陽寮に行く必要はないと思ってる」

 全て行くとしたら、長旅というか、冒険になりそうだし、俺はインドア派なんだよ。無理無理、めんどくさい。

『どういう事?』
「陰陽寮の情報は、横繋がりで共有されるんだよね?」

 闇命君は何かを察したのか眉間に深くシワを刻み、ゲンナリしたような顔を浮かべた。わぁお、まさか闇命君自らそんな顔をするなんて思わなかったよ。そんな顔、できるんだね。

『…………それでも、数は補えきれないよ。そこはどうするつもり?』
「まずはそこまで大きくない陰陽寮を調べようと思う。そこから信頼を得て、安倍家みたいな大きな陰陽寮に行く。最初から大きい所に行っても追い出されるだけだろうしね」

 一つ二つでもいい。大きな陰陽寮の信頼を得る事が出来れば、横繋がりで情報は共有される。俺達が全ての陰陽寮に回る必要はない。

 人が人に繋ぎ、大きなグループを作る。有名企業とかはそうやって大きくしているんじゃないのかなぁ。関わった事ないからわからないけど。

 よく、会議とかして、お互いの利点や繋がった時のメリットなどを話し合い、同盟を組むみたいな流れを動画とかで見た事があった気がする。

『それはお前が一人でもやるの?』
「やる」
『僕、協力しないよ?』
「否定されているからね。でも、一定の距離は離れられないし、鼠の姿でも傍に居てくれると助かるんだけど。助言とかも要らない。俺がやりたいからやるだけ。駄目?」
『駄目と言って、辞める気ある? あるならやめなよ。賭けみたいなものでしょ、君が今やろうとしているのは』
「確かに確実なものは言えない。でも、闇命君も少しだけ光が見えてきたんじゃない? いつもより、口数が少なくなってるよ?」

 言い切ると、闇命君が俯いてしまった。あぁ、本当に呆れられたかな。
 闇命君にとってのデメリットはもちろんあるけど、メリットもしっかりとある。

 あんな、がんじがらめな生活から抜け出せる可能性。もっと、自由になれる可能性。
 これから産まれてくる子供達が、闇命君や魔魅ちゃんみたいに、何かを背負わなければならない生活を送らないように。
 元の俺の世界みたいに、公園で遊んだり、友達とお話をしたり、親に甘えたり──……

 それが当たり前の世界を作りたい。陰陽師だからといって、実力があるからといって、それに振り回される人生を送らせたくない。

『本気、みたいだね』
「うん」

 それだけを呟くと、俯いていた顔を上げ、闇命君は天井を仰ぐ。その表情は、何か、吹っ切れたような……。どうしたんだろう。
 思わず眉を顰め闇命君を見ていると、急に笑みを浮かべ笑いだした。

 んんん???? え、どうしたの? 何があった? とうとう壊れた?

『あっはははは!!! ほんっとうに、ばっかだよね。優夏の頭がどうなっているのか、本当に気になるよ』
「ここまで来て悪口?! ひっどい!!!」
『事実を口にしているだけだよ。馬鹿には何を言っても意味は無い。今、その言葉を痛感したよ』

 やっぱり馬鹿にしてんじゃねぇか!!!!
 久しぶりに怒りが芽生えてきたよ。殴っても意味は無いし、結局殴れないんだけどさ!!

 拳を握っていると、目に浮かんだ涙を指で拭きながら、闇命君はしたり顔を浮かべ俺と目を合わせる。

『いいかもしれないね。博打を仕掛けるの』
「────え」

 それって、もしかして──……

『乗った。あんたの博打に、付き合ってあげる』

 嘘だろ。マジか、まじかよ。は、はは。

「嘘、じゃ、ないんだよな……?」
『僕が今まで嘘ついた事ある?』
「…………ないね」
『でしょ』

 したり顔の闇命君はすごく頼もしい。思わず俺まで笑みがこぼれるよ。

 なら、話はまとまったし、作戦を立てよう。

 他の人を、説得させる作戦を──

『もう一回──……』
「ん? もう一回? え、なんて言ったの闇命君」
『幻聴でも聞こえたの? 今からそれじゃ、先が思いやられるね』
「なんでそうなるのさ!!!!」
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