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安倍晴明

座敷童子

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 小刀がおでこに触れると、息苦しそうだった魔魅ちゃんの様子が、ほんの少しだけ落ち着いてきた気がする。それでもまだ、息は荒いままだけど。

 熱を下げる為には──

「解熱剤とか? 薬とかないかな?」
『これは力の副作用みたいなものだから、薬とかは意味ないよ』
「だよね。なら、どうにか楽にしてあげられないかな……あ」

 そういえば、こういう時ってアニメとかだと、ヒーラーの力とかあったよね。式神にそんな回復系の奴とか無いかな。

『よくわかんない事考えているみたいだけど、傷を治したり、熱を下げられる式神は使役していないよ』
「えぇ、そんなぁ……」

 ご都合主義という訳では無いのか……。なら、他に何か……。

「闇命様、座敷童子は駄目でしょうか?」
『座敷童子? さすがに傷とかは治せないよ? それに、熱を下げる事も出来ないと思うけど』

 紅音が控えめに問い掛け、闇命君が優しく返答している。もう一回言おう、返答している。

「幸運をもたらす妖怪、座敷童子……。その幸運で、漆家の陰陽頭を助ける事は出来ませんか? 完全に呪いを浄化など……」
『……なるほど。試してみてもいいかもしれないね。座敷童子なら言葉は通じるし、法力をいつもより多く注いであげればやってくれるか』

 座敷童子まで使役しているんだ、闇命君。怒りに触れたら不幸が自分に降りかかると思わなかったのかなぁ。
 確か座敷童子は、一つの家に住み着き幸運を与えるけど、その家から出ていってしまうと、不幸がその家の住人を襲うんじゃなかったっけ……。

『優夏、座敷童子を出して』
「簡単に言わないで……」

 出さないと駄目なのは分かっているから、素直に従うけど。

 懐から御札を一枚取り出し、いつものように集中。

「『座敷童子、布団に眠る少女に降り注いでいる不幸を、幸運へと転じよ。急急如律令』」

 闇命君の言葉をそのまま口にし、座敷童子を出す。

 御札から淡い光、どんどん人の形を作っていく。
 光が徐々に薄れ、現れた人物を見る事が出来るようになってきた。

 闇命君より小さい? か弱そうな、赤い着物を身にまとうおかっぱの黒髪の少女。口元には笑み、両目はぱっちり二重で可愛い。

 この子が座敷童子か。本当に子供のような外見だなぁ。

『わぁい! お兄ちゃん!!』
「え、わっ。え??」

 いきなり座敷童子が笑顔で俺に抱きついてきた。な、なんだ?
 とりあえず抱き締め返しながら闇命君を見ると、分かっていたのか少し眉を下げるのみ。いつもの暴言は来なかった。
 もしかして出す度、抱きつかれてるの?

 まぁ、こんなに可愛い少女に抱きつかれるのって、気分悪いわけじゃないし。むしろ、嬉しいから逆に何も言わないのかなぁ。

 今俺、犯罪的な言葉を口にしなかった? 大丈夫かな……。

「えっと。座敷童子、あの子の熱や呪いをどうにかする事は出来る?」
『あるじしゃまのおおせのまぁに!!』

 たどたどしく頑張って言う座敷童子。めっちゃ可愛い!!! これが少女か。
 俺は元の世界でも子供と話すの苦手だったから、関わってこなかっんだよなぁ。もう少し関わっても良かったかもぉ。

『キモイ顔晒すな』
「あい」

 闇命君に本気で怒られたんで、緩む頬を戻し、座敷童子を見届ける。

『やります!!!!』

 気合いを入れた座敷童子は、小さな白い手を赤い着物の袖から出す。
 今だ顔を赤くし、苦しげに呼吸を繰り返している魔魅ちゃんにその手を向けた。

 集中するようにピンク色の瞳を閉じ、呼吸を一定にする。すると、前に出していた手の平から淡い光が現 出始め、魔魅ちゃんを優しく包み込む。

 ……何も変化が無かった。息は荒いままで、赤い顔も治まらない。やはり、幸運を与えるとかでは、熱などを下げる事は出来ないのか。

 琴平は、小刀が熱くならないように冷やし続けている。

「やっぱり、駄目なのかなぁ……」
『熱を下げるのはあまり目的としていないから別にいいよ』
「え、そうなの?」

 なら、何を目的に?

『──できたぁぁあ!!』

 座敷童子の甲高く、明るい声が部屋の中に響く。さ、さすがに驚いた。一体、何が出来たんだ??

『そっか、それなら良かった。あとはもう心配いらないよ。熱が下がるのを待てば元気になる』
「何を幸運にしたの?」
『残っていた呪いを浄化したんだよ。道満は無理やり抜き取ったみたいだからこんな風になってしまったけど。まぁ、そのおかげで、座敷童子の幸運の力が漆家の呪いの力を上回る事に成功したんだ。今はもうただの女だよ。力を使う事が出来ない──ただの女』

 …………え。力を使う事が出来ない? なんで。

 いや、その方がいいのかもしれない。でも、漆家側で考えてしまったら、安易に受け止められる問題では無いだろう。
 陰陽頭が力を使えない普通の少女。何も思わないわけが無い。今後、どうなってしまうのか分からない。

『今後については、こいつが目を覚ましてからにしよう』
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