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安倍晴明

不可思議

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 部屋に押し戻され、正座を余儀なくされる。
 横には琴平、目の前には半透明の闇命君。その隣には雨燕さんが腕を組みながら座っている。今ここで正座をしていないのは闇命君だけ。

 膝近くにいる、澄んだ瞳を見上げている鼠が今の俺の安らぎとなっている。

『話聞いてるの?』
「聞いております闇命様」

 いつもはアルトテイストな、子供特有の高めな声なのに、今はドスの効いた低い声。その声から発せられるのは、いつもと変わらない柔らかい口調。

 …………ある意味怖いんだよね!!! こういう怒り方する人って!!! なんなら、ガミガミ怒ってくれた方が何倍もましだったかもしれないよ。
 学校の教師にいたなぁ、ガミガミ怒ってた人。俺に対してじゃなかったけど、あれはあれで怖かった。

 結果:どんな怒られ方も怖いものは怖い

『聞いてないよね?』
「ひっ?! ごごごごごめんなさい!!! 現実逃避してました!!!!」
『へぇ、現実逃避してたんだ。なんのために? 何か理由があるの? ねぇ、僕に教えてよ』

 今まで見た事が無い程素敵な笑顔。顔を寄せられ、逃げられない。

「し、んだ……」

 ☆

『まったく。本当に馬鹿だよね。少し考えれば、これが僕じゃないってわかるよね。寝ぼけていたとか、そういう理由は通じないから。分かった?』
「ウィッス」

 闇命君の代わりに、雨燕さんが俺の頭にげんこつを落としてきた。しかも三回。
 多分、今俺の頭には三段の鏡餅が完成していると思われる。鏡を見ていないからなんとも言えないけど。というか、見るの怖いから見ないんだけどさぁ。
 しかも、このゲンコツを指示したのは、誰でもない闇命君なんだよね。

「闇命様の体にっ……」
「指示を出したのは紛れもない闇命だ」

 琴平が怒りで拳を震わせている。いやぁ、だよね。複雑だろうねぇ。
 一番尊敬している闇命君の指示で、雨燕さんが、闇命君の頭をゲンコツしたのだから。

 ひとまず、闇命君の怒りの鉄槌を食らい、さっきの俺のミスは帳消しとなった。はぁ、怖かった。本当に、怖かった。嵐は去ったぜ。頑張ったな、俺。

「体はもう大丈夫なんだな」
「あ、はい。お陰様で……」
「なら良い」

 あれ、なんか優しい? 体の心配してくれた。
 重症だった俺の体で、無理やり水人と戦わせた人物だとは思えないな。

「えっと。ところで、君達は廊下で何を話していたの?」

 盗み聞いていたから何となく分かるんだけどさ。

「これからについてと、漆家について話していた」
「あ、そうだ。今回の出来事は、漆家に情報が行ってしまったのかな? 白虎を出されたし、大きな話になってしまったと思うんだけど」
『おそらく話は行っているだろうね。でも、この村の態度は変わらない。それが少し不可思議なんだ』

 不可思議? 何で不可思議なんだ?

「もし、漆家に情報が送られてしまった場合、この死絡村の人達が今までと態度が変わらんのはおかしい。少なからず遠目で見られていてもおかしくは無い。だが、こうして宿屋にも泊まれている」

 あぁ、確かにそう考えるとおかしいな。という事は、情報は漆家に届いていないって事か?

「それについても、夜が明けたら調べる予定だ。優夏も、まだ夜は深い。ゆっくり休め」
「ありがとう琴平。でも、さっきまで寝ていたから、正直眠くないんだよね」
「それでも休め。紅音は違う部屋で眠っている」
「あ、そうなんだ。良かった。ところで、琴平の傷はもう大丈夫?」

 見たところ、今の琴平は宿屋から借りたであろう浴衣を来ている。胸元が少し開き、そこから白い包帯と、ちょうどよく鍛えられている胸筋が見えていらっしゃる…………くそっ。
 ここで、普段隠れている所がぷよぷよだったらまだ喜ばしがったのに。隙無しかよ。

「問題は無い。すぐに治る」
「紅音も?」
「問題は無いだろう。だが、俺とは違って、紅音は足首を打撲してしまったらしい。しばらくは安静にしていろという事だ」
「それは琴平もなんじゃ?」
「…………何も言われていない」

 嘘だね。目を逸らしてるもん、口調硬いもん、嘘だね。
 
 琴平は闇命君に嘘が付けないよね、本当に。中身が俺だから、言葉だけギリギリ嘘つけて いる。丸わかりだけど。

「なら、夜が明けた時は、琴平と紅音にはお留守番してもらおうか」
「っ?! な、何故だ」
「怪我をしているからだよ!!!」

 どうせ連れて行くと無理するだろ!!! それがわかっているからお留守番をお願いするの!!!

 まったく……。
 まぁ、ここの村長と看守はものすごく強そうだったしな。流石の琴平達でも一筋縄では行かなかったって事か。

「…………あれ、琴平」
「なんだ?」
「地下にいた看守と村長は、今何してるの? というか、琴平はどうやって俺達と合流したの?」

 気絶させたとか? なら、ちゃんと安全な場所に移動とかしてるよね。まさか、あの場で放置なんて事してないよね?

 問いかけると琴平が再度、罰が悪そうな顔を浮かべ、目線を逸らした。

「────え」
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