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安倍晴明

未来

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『とりあえず、この話は隣に置いておこう。本題に入りたい』
「今までも本題だっただろう」
『この村に来てから、あんたは僕に会うまでどこで何をしていたんだ?』

 もう、雨燕の話をいちいち聞いていると時間が無駄に進むし、無視させてもらうよ。
 僕をじぃっと見てても意味ないから、さっさと質問に答えなよ。

「…………はぁ。この村の周りを調べていた」
『なんで?』
「件についての報告が少ないからだ。何かを隠している可能性もあり、探っていた。ついでに蘆屋家についてもな」
『最初からそれが目的だったの?』
「そうだ。漆家との関わりは最低限にしたいと思っていたが、件についての情報は欲しいからな。今回はいい機会だと思っていた」
『それで、何か見つけたの?』
「そうだな。まだそこまで有力な情報は得ていない。しかし、今回の件で話が進めやすくなった」
『……話?』
「件を、安倍家が預かるという話を持ち出そうと思っている」

 は? 安倍家で預かるだって? 何を言っているんだこいつ。

『は? え、なんで』
「件が同じ地に何度も蘇るなど有り得ん、必ず種がある。その種さえ分かれば、安倍家で保管も可能だ」
『いや、なんで安倍家が預からないのいけないの。嫌なんだけど』
「件についての生態はまだ謎が多い。それを知る為にも、身近に置いておく必要がある」
『予言されたらどうすんのさ。それが死に直結するものだったら』
「怖いのか?」
『怖いわけないでしょ。ただ、気にしながら生活したくないだけ』
「それを怖がっているという」
『言わないし。大体、そんな事する必要なくない? ほっとけばいいでしょ。それか、他の地で生存させ続ければ?』

 僕達が何かする必要性はない。どうせ、祓ったりも出来ないし、寿命ですぐに死ぬ。だったら、安倍家で飼うより────飼う?

「ん? どうした闇命よ」
『…………これなら、どうなんだろう』

 件を安倍家で飼うんじゃなくて、僕が飼ってみようかなぁ。使い所は難しいかもしれないけど、持っていて損は無いし、倒すのは簡単。予言さえされなければ出来るかも。

『わかった。僕がやる』
「そうか。任せた」
『え、任せた?』

 何このジジィ、今まで任せたなんて言わなかったじゃん。どういうこと? 僕がやりたい事分かってんの? それでいて任せた? 意味がわかんない。

「少し席を外す」
『うん』

 そのまま雨燕は部屋を出て行ったけど……。え、気持ち悪いんだけど何。なんなの。さぶいぼが酷い。

『…………もしかして、僕が自ら悪行罰示神《あくぎょうばっししきがみ》をするように、仕向けた?』

 ………………はぁ?

 ☆

 んっ、なんだ、この感覚。この、浮遊感。足が地面につかない。瞼が重い。

「な、この感覚、なんか、デジャブが……」

 夢の中っぽい気がする。前に、安倍晴明と対面した時みたいな感じだ。
 俺は今どこにいるんだ。重たいけど、瞼を開けるか。

「あ、やっぱり…………」

 周りは真っ暗闇な空間。地面、天井、壁がない。当たり前にあるものが無くて、ただただ浮いている。いや、浮いてんのかもわからん。

『目を覚ましましたね』
「あ、安倍晴明……」
『貴方とお話するのは久しぶりですね。覚えていただけて光栄です』

 いや、忘れられるわけが無いでしょ。あの有名な安倍晴明なんだから。

「あの、俺全く記憶が無いんですけど、気絶してしまったあと何があったかご存知でしょうか?」
『そうですね。少し私の子孫の体をお借りし、白虎を出させていただきました』

 え、白虎? 白虎って、なんだっけ。なんか、強かった気がする。神様だっけ?

『白虎とは、東西南北を守護する「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」の一体。西方を守護する十二神です。私は白虎にご協力を仰ぎ、蘆屋道満には引いていただきました』
「引いていただいた? もしかして、元々殺す気はなかったという事ですか?」
『そう簡単に人を殺す事などできませんよ。虫などでしたらなんでもありませんけれど』

 あぁ、まぁそうか。
 ここで正義側の人間だったら「虫も生き物なんだから」とか、何とか言うかもしれないけど。歩いていると地面でミミズが潰れていたり、蟻が歩いていてもわざわざ避ける人とかもそんな居ないよね。俺も出来るだけ踏みたくないとかしか思わなかったなぁ。

『これからもっと大変になりますよ、牧野優夏』
「え、今でも十分大変なんだけど……」
『また、違います。これからは、貴方自身も法力やこの世界で言う一技之長も、使いこなさなければなりません』
「でも、俺は闇命君の体に憑依しているようなもの。一技之長なんて使えないと思いますけど」
『使えます。そもそも、一技之長とはその人自身に元から備わっている力なのです。陰陽師は、陰陽術の方が使い慣れていますので普段、使う事はありませんが、使えない訳ではありませんよ』

 あぁ。そういえば、琴平がそんな事言っていたね。一技之長を使っている人が近くに居ないからつい忘れてしまう。

「でも、なんでそれが分かるんですか?」
『さぁ、なんででしょう』

 あぁ、そういうタイプだったの忘れてた。なんか、もう一人の陰陽助、紫苑《しおん》さんと雰囲気似ているんだよな。もしかして、闇命君が子孫なんじゃなくて、紫苑さんが子孫なんじゃない?

『時間です』
「え、ちょ、まだ聞きたい事が沢山……」

 周りが白くなっていく。目が霞んでいるような。
 薄くなる意識の中、安倍晴明に手を伸ばしていると、口を動かして……? え、何?
 声が聞こえない……。


 ────自分を信じるのですよ、牧野優夏


 自分を、信じる? 何を言っ――――…………
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