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安倍晴明

怪我

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 …………何が起きたのか分からない。

 靖弥と蘆屋道満が闇に溶け込むように消えてしまった。手を伸ばす暇すらなったぞ。それと、なぜ蘆屋道満は俺に名前を聞いた?

 質問が質問を呼ぶ。今の俺は何者だ、ここはどこで俺は誰? 一体どうなってんだぁぁあああああ!!!!!

『僕の顔で百面相浮かべないでくれる? 不愉快なんだけど。いい加減落ち着きなよ』
「闇命君の変わらない態度に落ち着きを取り戻したよ。アリガトウ」
『どういたしまして。一人で落ち着けないとか、君も大変だね。今までの人生、人の字のごとく生きてきたんじゃないの?』
「どういう意味さ……」
『他人に負担ばかりかけて、自分は何もしてこなかっただらけた人間なんじゃないのって聞いてるの』
「んなわけないだろ!!!」

 本当に失礼極まりないな。人の心はしっかりあるの? 

 はぁ。とりあえず、体がものすごくだるいし、瞼は重いし、項は痛いし……。体がボロボロだ。本当に何が起きてたんだろう。

 うんと……。たしか俺は、靖弥を見つけて、話しかけようとしたら闇命君に止められて、気配を消して隠れていたんだよね。すると、後ろから何かされて気絶させられたんだっけ。この後、俺は俺ではない何かに体を扱われていたような気がするけど、闇命君ではなさそう。一体、何?

「体の方は大丈夫なのか、優夏」
「あ、うん。体はだい――

 あ、琴平。って、え?

「俺より、何倍も琴平の方が酷い怪我してると思う」
「俺はなんの問題もない」
「いや、俺が心配だから……」
「気にするな」
「無理だって……」

 だって、琴平の右肩、止血しているけど血が出ているんじゃない? 赤く染っているんだが。痛くないの?

「ん?」
「あ、紅音ありがとう」

 紅音が琴平の肩口を治し始めた。
 眉を下げ心配そうに傷口を見ている。相当心配なんだね。

「紅音、まずは自分の傷を治せ。俺は問題ない」
「やだ」
「やだって……。お前も足を怪我しているだろ」
「問題ない」
「問題あるんだが」

 少しだけ傷が塞がったところで、琴平は紅音の手首を優しく掴み「自分のを治せ」と伝えている。

 いやぁ、顔が近いですねぇ。見てください紅音の顔。イケメンが目の前にあるからか頬を染めていますよ。いや、琴平が近いからか。

 ────いちゃついてんじゃねぇよおめぇらぁぁぁあああああ!!!!!!!

 くそっ、くそが。なんだよ、なんだよ!!
 やっぱりイケメンか、イケメンだからか。イケメンに女性は集まるのか!! くそぉぉぉおおおお!!!!!

 紅音は琴平の傷を気にしながら離し「わ、分かった」と、自身の足を治し始めた。
 しっかり治しているのか琴平は心配に見続けている。

 …………もう、ここに居たくない。自分が惨めになるよ。

 血の涙を頭の中で流していると、後ろから凄い圧が……。
 い、嫌だ。振り向きたくない。冷や汗が額からにじみでてくるよ。口が震えて上手く離せん。

「貴様」
「………………あい」

 ドスの効いた素敵な低い声が呼んでる、俺を。嫌だ、振り向きたくない。見たくないです。

 そのままの状態で固まっていると、隣に立っている闇命君がすぐに振り向き、後ろに立っているであろう雨燕さんを見上げてる。

 ──って、あれ?
 なんで闇命君、鼠の姿にならないの? 見つかったらやばいじゃん。というか、なに。これ。

 思わず振り向くと、雨燕さんと闇命君がお互い睨み合っていた。普通に怖い。

 交互に二人を見ていると、雨燕さんが重苦しい口を開き、問いかけてくる。

「詳しく聞かせてもらうぞ闇命よ。これは、どういう事だ」
『僕の体には、別の人格が宿っている。さっきの晴明は知らなかったけど、今のこいつは僕が違う世界から口寄せした』
「何故だ」
『僕の勘がそう言ったから』

 お互いバチバチと視線をぶつけ合いながら、淡々と自分の主張を口にしている。
 その雰囲気だけで足が竦むって。怖いって!!! やめて! こんな光景見るなら、さっきのカレカノ会話を見ていた方が何倍もマシだったよ!! 胸焼け上等です!!!!

「え、えっと……。ひとまず落ち着いっ──ひぇ! す、すいませんすいません!! こんな部外者が話しかけては駄目でしたねごめんなさい!!!!」

 話しかけた瞬間、二人に鋭い目付きを向けられた。話しかけただけなのに殺気を向けられた感覚になったよ!! めっちゃ怖い!!

『ちょっと、変な顔浮かべないで。僕の体って事を忘れないでよ。馬鹿は頭の中だけにしてくれない?』
「…………すいませんでしたね?!?!」

 そんな馬鹿面を晒させたのは、闇命君のせいでもあるんだけどね?!!
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