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安倍晴明
無力
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「何をしているセイヤ」
「申し訳ありません。捕まえたと同時に噛まれてしまい、少し取り乱しました」
いや、確かに噛んだけど。大袈裟によろけなかった? わざと鈴を鳴らしたように感じるんだけど。何なのこいつ。
…………目が、道満とは違う。黒く濁ってはいるけど、その中には強い何かを感じる。使命や忠誠心とは違う。まるで、後悔の念のような物が、今のこいつを雁字搦めにしているように見える。
この違和感は、なんだ?
「まぁ、良い。ひとまず、晴明の子孫を──」
『や、やめろ!! 僕に触れるな!!!』
僕の体にその汚い手を近付けるな。やめろ!!
――――ガシッ
「見つけたぞ闇命よ。貴様がやられるとはな」
「どこから湧いて出てきた。安倍家の者よ」
…………ちっ、おっそいな。鈴がなってからどのくらい時間が経ったと思うのさ。陰陽助の名が可哀想だよ。
雨燕が僕の体に伸ばされた道満の手首を掴み、動きを止め、睨み付けている。その瞳は鋭く、射抜かれそうになりそうな眼光。そこだけは認めてあげるよ。
それでも、道満の余裕そうな笑みは消えない。雨燕の様子を見て楽しんでいるようにも見える。何がそんなに面白いんだ。気持ち悪く口角を上げるな、吐き気がする。
とりあえず、これで僕の体はひとまず大丈夫だろう。嫌いだろうと、雨燕は僕の体を守るはずだ。不愉快だけど、今は仕方がない。こっちはこっちで行動するか。
『お前、何を考えているんだ』
「なんの話しだ」
『とぼけるな。さっきの行動と言い、今も。なぜ殺そうとしない』
「殺したところで、他の憑依対象に移るだけだとわかっているからだ。意味の無い事はしない」
『そんなの分からないだろ』
「殺して欲しければ殺す。今ここから地面に叩き落とせば、鼠といえどタダでは済まないだろう」
ち、今はこいつに主導権握られている。変に挑発するとまずいか。セイヤが木から落ちるように降りた。
「セイヤ。早くこいつを殺れ」
「承知しました」
『わっ!!』
いたた…………。地面に叩きつけるなんて、僕が体に戻ったら絶対に復讐してあげるからね。
僕から目を離したセイヤが、刀を雨燕に向けて構えだす。夕暮れの光を反射し、鋭く光っている。掠っただけでも簡単に肉がえぐれそう。
「若造に任せるとはな」
雨燕の武器、小刀を懐から取り出しセイヤへと構えた。それを出したという事は、割と本気だな。こいつなら問題ないだろうし、なぜかセイヤは僕を解放したし。
今の僕は解放されたとしても何も出来ない。とりあえず衝撃を与えて優夏に起きてもらおうか。
あの二人はあいつに任せた。陰陽助なんだからいけるだろ。
まだ気絶している優夏の耳を傷が付かない程度にガブガブと噛むが、起きる気配がない。どうすればいいんだよ。
『おい、早く起きろ! このままじゃまずいぞ! 起きろって!!』
くそっ、起きる気配がないな。今ここで姿を現す訳にもいかないし。半透明じゃんどっちにしろどうする事も出来ない。僕は、今の僕は、本当に、何もできない。ただの、役立たず…………。
『くっ、くそ…………なんでさ、なんでなのさ』
…………早く起きてよ、優夏。
『優夏、早く起きっ──え』
風を切る音、上を向くと何故か小刀が回転しながら落ちてき……なっ!?
カツン────
あ、っぶな。あともう少し横にずれていたら、僕の顔に傷がついていたよ。いや、それでは済まされなかったかもしれない。というか、小刀って──
『っ、おいおい。どういう事だよ。なんで、あんたが押されてるんだよ……』
やっぱり二人を相手にするのは、いくら雨燕でも無理があったという事か。
近距離はセイヤに任せ、道満は中距離。式神の鬼熊を出して雨燕は何とか防いでいるけれど、時間の問題みたいだな。
道満の式神は陰摩羅鬼か。確か、新しい死体から生じた気が化けたものだったかな。充分な供養がされなかったとか。
見た目は鳥だけど、人のような顔。くすんだ濃い緑色の羽を大きく羽ばたかせ、雨燕の式神に突進している。
力なら鬼熊もすごいけどね。見た目は雨燕の倍の背丈の熊。太く頑丈そうな爪に、きらりと口の隙間から覗く牙。黒く丸い目から放たれているのは、鋭い眼光。
鬼熊も決して弱くない。いや、むしろ強いだろう。それでも、押されている。雨燕が集中出来ていないからも原因であるな。
陰摩羅鬼だけなら互角かそれ以上で戦えるだろうけど、そこにセイヤが加わっている。
セイヤが雨燕の集中力を切らせているため、鬼熊が本来の力を出す事が出来ていない。
武器を失った雨燕は、ただセイヤの刀を避け続けるのみ。何とかして、武器をあいつに渡さないと。
でも、どうやって。
半透明の姿になれば持てるかもしれない。でも、その後は? あいつは必ず聞いてくる。そうなると、優夏が罰を与えられるだろう。部外者判定される。そうなれば、何をされるかわかったものじゃない。
『────紅音、琴平。早く、来てよ』
陰陽師の力がない僕はこんなにも、無力なんだな。
「申し訳ありません。捕まえたと同時に噛まれてしまい、少し取り乱しました」
いや、確かに噛んだけど。大袈裟によろけなかった? わざと鈴を鳴らしたように感じるんだけど。何なのこいつ。
…………目が、道満とは違う。黒く濁ってはいるけど、その中には強い何かを感じる。使命や忠誠心とは違う。まるで、後悔の念のような物が、今のこいつを雁字搦めにしているように見える。
この違和感は、なんだ?
「まぁ、良い。ひとまず、晴明の子孫を──」
『や、やめろ!! 僕に触れるな!!!』
僕の体にその汚い手を近付けるな。やめろ!!
――――ガシッ
「見つけたぞ闇命よ。貴様がやられるとはな」
「どこから湧いて出てきた。安倍家の者よ」
…………ちっ、おっそいな。鈴がなってからどのくらい時間が経ったと思うのさ。陰陽助の名が可哀想だよ。
雨燕が僕の体に伸ばされた道満の手首を掴み、動きを止め、睨み付けている。その瞳は鋭く、射抜かれそうになりそうな眼光。そこだけは認めてあげるよ。
それでも、道満の余裕そうな笑みは消えない。雨燕の様子を見て楽しんでいるようにも見える。何がそんなに面白いんだ。気持ち悪く口角を上げるな、吐き気がする。
とりあえず、これで僕の体はひとまず大丈夫だろう。嫌いだろうと、雨燕は僕の体を守るはずだ。不愉快だけど、今は仕方がない。こっちはこっちで行動するか。
『お前、何を考えているんだ』
「なんの話しだ」
『とぼけるな。さっきの行動と言い、今も。なぜ殺そうとしない』
「殺したところで、他の憑依対象に移るだけだとわかっているからだ。意味の無い事はしない」
『そんなの分からないだろ』
「殺して欲しければ殺す。今ここから地面に叩き落とせば、鼠といえどタダでは済まないだろう」
ち、今はこいつに主導権握られている。変に挑発するとまずいか。セイヤが木から落ちるように降りた。
「セイヤ。早くこいつを殺れ」
「承知しました」
『わっ!!』
いたた…………。地面に叩きつけるなんて、僕が体に戻ったら絶対に復讐してあげるからね。
僕から目を離したセイヤが、刀を雨燕に向けて構えだす。夕暮れの光を反射し、鋭く光っている。掠っただけでも簡単に肉がえぐれそう。
「若造に任せるとはな」
雨燕の武器、小刀を懐から取り出しセイヤへと構えた。それを出したという事は、割と本気だな。こいつなら問題ないだろうし、なぜかセイヤは僕を解放したし。
今の僕は解放されたとしても何も出来ない。とりあえず衝撃を与えて優夏に起きてもらおうか。
あの二人はあいつに任せた。陰陽助なんだからいけるだろ。
まだ気絶している優夏の耳を傷が付かない程度にガブガブと噛むが、起きる気配がない。どうすればいいんだよ。
『おい、早く起きろ! このままじゃまずいぞ! 起きろって!!』
くそっ、起きる気配がないな。今ここで姿を現す訳にもいかないし。半透明じゃんどっちにしろどうする事も出来ない。僕は、今の僕は、本当に、何もできない。ただの、役立たず…………。
『くっ、くそ…………なんでさ、なんでなのさ』
…………早く起きてよ、優夏。
『優夏、早く起きっ──え』
風を切る音、上を向くと何故か小刀が回転しながら落ちてき……なっ!?
カツン────
あ、っぶな。あともう少し横にずれていたら、僕の顔に傷がついていたよ。いや、それでは済まされなかったかもしれない。というか、小刀って──
『っ、おいおい。どういう事だよ。なんで、あんたが押されてるんだよ……』
やっぱり二人を相手にするのは、いくら雨燕でも無理があったという事か。
近距離はセイヤに任せ、道満は中距離。式神の鬼熊を出して雨燕は何とか防いでいるけれど、時間の問題みたいだな。
道満の式神は陰摩羅鬼か。確か、新しい死体から生じた気が化けたものだったかな。充分な供養がされなかったとか。
見た目は鳥だけど、人のような顔。くすんだ濃い緑色の羽を大きく羽ばたかせ、雨燕の式神に突進している。
力なら鬼熊もすごいけどね。見た目は雨燕の倍の背丈の熊。太く頑丈そうな爪に、きらりと口の隙間から覗く牙。黒く丸い目から放たれているのは、鋭い眼光。
鬼熊も決して弱くない。いや、むしろ強いだろう。それでも、押されている。雨燕が集中出来ていないからも原因であるな。
陰摩羅鬼だけなら互角かそれ以上で戦えるだろうけど、そこにセイヤが加わっている。
セイヤが雨燕の集中力を切らせているため、鬼熊が本来の力を出す事が出来ていない。
武器を失った雨燕は、ただセイヤの刀を避け続けるのみ。何とかして、武器をあいつに渡さないと。
でも、どうやって。
半透明の姿になれば持てるかもしれない。でも、その後は? あいつは必ず聞いてくる。そうなると、優夏が罰を与えられるだろう。部外者判定される。そうなれば、何をされるかわかったものじゃない。
『────紅音、琴平。早く、来てよ』
陰陽師の力がない僕はこんなにも、無力なんだな。
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