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死絡村

ありえない

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 俺達は宿屋で一泊し、朝を迎えた。
 朝起きた時、紅音に昨晩あった出来事を話すと、頬を膨らませ怒ってしまった。おぅふ……。

「なぜ起こさなかった」
「き、気持ちよさそうだったからつい……」
「次は起こせ」
「アイ」

 圧が凄い。おそらく、闇命君の体だからそれだけで済ましているんだろうな。もし、闇命君じゃなかったら一発食らってそう。

 目線を逸らすと、壁の方に男性二人が布団に包まり、足に顔を埋めて座っていた。
 体の震えとかは落ち着いたみたいだけど、話してくれるまでには至らないな。今話しかけたところで意味なさそう。

 これはどうすればいいのだろうか。落ち着くまで待っていたいけど、俺達には時間がない。少しでも早く情報を聞き、次の行動に移りたい。

「っ、誰かが近づいて来ている」
「え、宿屋の人?」
『そんな生易しい人ではないことは確かだね』

 え、どういう事だろう。一体誰が来ているの? 

 足音、荒いな、しかも複数人分聞こえる、何人いるんだろうか。どんどん近づいて来ている。

 あ、襖の前で足を止めた。

 ――――――ガラッ

 無言で襖を開けられた!!

「え、誰?」

 部屋にドスドスと入ってきた女性は俺達に一切見向きもしない。まるで、俺達の存在などないような振る舞いだ。

 シンプルな袴、肩につくくらいの長さはある透き通るような銀髪。目が吊り上がっていて、紅音と若干雰囲気が似ている。

 俺達を無視し向かった先には、震えている男性二人。な、なんだ。

「す、すいません、すいません」
「ど、どうか。お許しください!!」

 二人がさっきより大きく体を震わせ始めた? 一体、何が……。

「どのように謝られたとしても、怒ってしまった事態は変わりません。貴方達にhあそれ相応の罰を下します」

 ば、罰?

「なっ、何をしているんですか!?」

 女性がいきなり男性二人を持ち上げ窓から落そうとし始めた。何を考えているんだ。ここは二階、しかも頭から落す気満々じゃないか。足からだけでも骨折する可能性があると言うのに!!

「や、やめてください!! 危ないですよ!!」

 女性が着ている袴の裾を掴み止めるけど、体格差がある分力で負ける。相手は女性と言えど大人、男性から手を離してくれない。

「誰ですか。今は邪魔をしないで頂きたい」
「いや、これは邪魔するだろ。何考えてんだよ!!」
「そうか。なら──」

 ────ドカッ

「ぐっ!!」

 は、腹を蹴られた。くそ、お腹が痛い。

「闇命様!!」
「き、貴様!!!!」

 琴平が俺を支え、紅音は守るように前に立ち拳を握る。いや、普通逆だろ。

「邪魔をする方が悪いのですよ。また同じ事をすれば、次は蹴るだけでは済まされません」

 言うと、女性は男性二人を、頭から窓の外へと落としてしまった。

「やめっ――…………」
「死絡村の規定により、罰を与える」

 男性二人の悲鳴が聞こえる。は、早く助けないと!!

「らいっ──」

 雷火を出そうと袖に手を入れたのと同時、前に立っていた紅音が勢いよく走り出す。そのまま窓の縁に手を置き、飛び出してしまった。

「っ、紅音!!!!!」

 女性を無視し、窓へと走り下をのぞき込むと──え、紅音?

「あ、闇命様。今、上に戻ります」
「え、あ、はい。ヨロシクオネガイシマス」

 え、ピンピンしてる、嘘だろ。男性二人を脇に抱えているとは思えない元気さ。何事も無かったかのように、紅音が俺達のいる部屋へと戻ってくる。

「紅音を一般的な女性と同じに考えない方がいい」
「え、どういう事?」
「紅音は女性と言うだけで前線に立てていないが、戦闘に出れば俺より強いぞ。腕力、脚力など。俺は勝てん」
「まじか」

 琴平でも勝てないの? 嘘やろ。

「ほぅ。あの女性、面白いですね」
「あ、いや、面白いとかではなく……。なぜこんな事をしたんだ。二人の男性の命が危なかったんだぞ」

 確実に殺す気だっただろ。なんで、そんな事をしたんだこの女性は……。

「この村の規定です。あのお二人は規定を破った。それは死に値します。ここからでは確実性はありませんでしたが、まぁ良いでしょう」
「良くない! どんな規定があるかなんて俺達は知らないけど、人の命を奪う権利なんてあんたには無いはずだ!!!」
「僕はこの村の村長です。この村の者は皆、僕の為に動き、僕の為に働き、僕の為に命を使う。当たり前の事を聞かないでいただきたいのですが」

 何を言っているんだこいつ。頭おかしいんじゃないのか? 全ては村長である僕のため? 命すら他人のあんたに預けろという事か?

「貴方達はこの村へ何しに来たのですか? もう見られているようなので名前を出しますが。件の予言を聞きに来たのでしょうか?」
「件の予言なんてどうでもいいよ。この村の規定について考え直した方がいい」
「そのようなお話なのでしたらお帰りください。余所者に何か言われる筋合いはありません」
「村長なのなら、村の人達を一番に考えるのは当然じゃないのか! なぜ自分を優先する」
「話になりませんね。これ以上何かを言うのなら出て行ってもらいます」
「話にならないのはお前だろ!!!!」

 叫んだ瞬間、村長が溜息を吐きやがった。なんだこいつ、頭沸いているんじゃないのか。

「やりなさい」

 ん? やりなさい?

 あれ、さっきから動かなかったガタイの良い人達が女性の声により動き出した。指を鳴らしたり、首を鳴らしたり。もう、人を何人も殺していそうな風貌。

 え、なんで俺達の方に向かって――……

 ☆

「なんでこうなるんだよくそがぁぁあああああ!!!!!!」

 あのまま俺達は、なんの対抗も出来ずに地下の牢屋へと突っ込まれた。いや、唯一紅音がめっちゃ男をぶん投げてたけど、さすがに数が数、無理だったみたい。

 今は牢屋に押し込まれ、看守に監視されている状態。
 なんんとか外に手を伸ばしたり、ガタガタと音を鳴らしたりするけど、看守に人睨みされて終わり。こっわ。

「どうしよう……」

 頭を抱えその場に項垂れていると、闇命君が奥の方に移動し、琴平と紅音の間で半透明の姿になった。
 奥の方は薄暗いから、看守からは見えにくいのか、半透明だし。

「まずは看守をどうにかする必要がありそうですね」
『そうだね。どうやって気絶させるか』
「一発、ぶん殴りましょう」
『それは前提の話だから。その前に、どうやってぶん殴るかだよ紅音』

 …………物騒すぎる!!!!
 いや、確実性はあるかもしれないけど、なんでそんな事を普通に考えられるの。普通は気付かれずにどうやって逃げ出すかじゃないの? なぜ、ぶん殴る事を前提にする。

 え、なんですか。なんか、闇命君に手招きされてる。

『式神なら札の時に牢屋の外に出せば自由に動かす事が出来る。少しでも自分で動いてもらう為、百目にお願いしよう。一発で仕留めさせる』
「確かに百目なら大丈夫そう……。だけど、殴る前に仲間を呼ばれたら終わりじゃない?」
『それなんだよね。だから、次に考えるのは連絡手段の遮断。まずは看守が何を持っているかだな』

 …………わかりやすいな。この話し合い。
 俺がいた世界での話し合いって、ただの雑談だったり、意見を言っても却下されたり、先に進まない感じが多かったけど。闇命君の場合は、まずゴールから考えるのか。確かにその方が何をすべきか頭の中で構成しやすいな。

「何を話している」

 あ、看守に感づかれた。なんて言い訳をしよう。

「この状況に納得していないからな。どうすればいいのか話している」

 琴平が素直に言ってしまった?! 紅音が言うかと思って口を塞ぐ準備していたのに、まさかの琴平?! 待て待て待て!!!!

「ふん。無駄なあがきを。ここから抜け出す事など不可能だ」
「みたいだな。さて、どうするか」

 これで話は終わった。ある意味、一番怪しまれないのか?

「なんで素直に言ったの?」
「自信過剰な人物そうだったからな。こう言えば馬鹿にしてくると思ったんだ。それに頷けば、俺達を舐めている看守は必ず、隙を作る」

 今の会話でも考えていたって事か。これが大人の駆け引き。学生である俺には無理そうだなぁ……。

「ひとまず、外に出る手段を考えるぞ。陰陽助と合流しないとならんからな」

 あ、すっかり忘れていたよ。雨燕さん……。
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