上 下
45 / 246
死絡村

死角からの

しおりを挟む
「死絡村は、そこまで大きな村ではないはずです。何度か依頼で行った事がありますが、そこまで気になる物もなかったと思います。活気のある良い村でしたよ」
『表面上だけならいくらでも見せる事は可能。仮面を被れば、悪い奴も良い奴に見える。目だけの判断は大きな見落としを生む』
「そうですね、失礼しました」

 活気のある村か。なら、話を聞いてくれる人も多分いるよな。村長とかに話を聞けたら一番いいと思うんだけど。

「死絡村に行く事自体は可能なんだよね?」
「闇命様がここから出れる事になったからな、道のりや手段などはどうにでもなる。心配するな」
「なら、まず行かないと正面上の村しか分からないという事か。呪いの回避方法とか、浄化とかも。万が一に色々備えた方がいいかな?」
「…………それもそうだな。少し頭が固くなっていた、助かった優夏」
「え、あ、はい」

 これが大人の余裕か。俺もこんぐらいの余裕が欲しい。

 そんな事を話し合い、今日は解散となった。
 紅音は、途中から鼻ちょうちん膨らませ、座りながら目を瞑っている。うん。確実に寝てました。

 ☆

 それから数日後、陰陽助である雨燕さんがやっと準備完了したらしく、俺達三人は死絡村に向かうため馬車に揺られていた。

 自然豊かな道、周りには緑が広がり、太陽の光が隙間を縫って俺達を照らしてくれていた。
 そんな、景色を楽しみたい道を優雅に馬車に揺られているんだけど、体が重たい。

 俺の隣には当たり前のように琴平と紅音が守るように座り、向かいには雨燕さんが腕を組み、目を閉じながら座っている。

 いや、普通は二人ずつで座らない? なぜこんな偏った座り方に……。
 まぁ、隣に座りたくないんだろうなぁ、気持ちはわからなくもない。わからなくもない、けどさぁ。この沈黙、どうにかならない? めっちゃ体が重たいよ!!

 ちょ、誰か喋ろう!! なんでもいい。なんならしりとりでもいいから誰か話さない?!?! 重すぎる沈黙に耐えられないんだけど! 闇命君は俺の肩で寛いで鼻ちょうちん出しているしさ!!! なんで俺がこんなに気まずくならないといけないんだよ!!

 理不尽な怒りを堪えていると、琴平が外を眺めながら眉を顰め始めた。雨燕さんも腕を組みながら難しい顔を浮かべる。
 何も分かっていないのは俺と紅音だけ。なんでそんな顔をしているんだろう。

「…………気づいているな」
「はい。この気配……。近いですね」
「うむ。主も気づいているだろう」
「え、いえ。まった──あんたに気づいて僕が気づかな訳ないだろ。心配無用だよ」

 はぁ、何かに気づいたのね闇命君。せめて、耳を噛む前に止めて。今回は甘噛みだったから叫ばずに済んだけどさ。

「なら、良い」

 あ、これで会話が終わりか。一体何に気づいたんだ。

「妖の気配が近づいている。そこまで強くないが、警戒はしておけ」

 琴平が気を利かして教えてくれた。なるほど。
 …………ん? 近づいてる? え、近づいてるって、まさか、こっちに向かってるって事?


 ――――――――ズドンッ


「────なっ?!」

 体に重い圧が、急になんだこれ!!

 体が重い、座っているのがやっとだ。汗が流れ落ちる。
 横目で琴平達を確認すると、俺と同じく体に圧がかかっているらしく歯を食いしばり、汗を流し耐えていた。紅音も、雨燕さんも。

 なんだこれ、なんなんだよこれ!!


 ────右だよ


 頭の中に突如として聞こえた甘い、優しい声。これは、安倍晴明さんの声だ。

「っ!」

 言われたまま、咄嗟に右に結界を張る。


 ────バンッ!!!


 何かが破裂した音。赤い何かが放たれたのか、結界にぶち当たった。何事だよ?!

 放たれたのって、炎??

 これ、確実に俺達を狙って妖か陰陽師が放った攻撃……だよな……? なんで……。

 御者席に座っている人が事態に気づき、馬車を止めてくれた。そのタイミングで俺達は外に。

『あっちの方に微かな式神の気配を感じる』

 闇命君の視線の先は、道が無い森の中。俺達に気づかれないように、森に囲まれた場所であえて奇襲を仕掛けたな。

『…………行くだけ無駄だね。もう、遠くまで移動している』
「気配は感じるんでしょ? まだ間に合うんじゃ……」
『時間の無駄だよ。何か目的があるのならまた来るでしょ。その時、返り討ちにすればいい』

 こういう時、闇命君はいつも冷静だなぁ。
 琴平も俺達の会話は聞こえていたらしく、雨燕さんを説得し、何事も無かったかのように馬車へと乗り込み、死絡村へと向かい始める。

 何となく気がかりだけど、今はどうする事も出来ない。目的を達成した後に考えるとしようかなぁ。

『………………』
「ん? どうしたの闇命君。鼠の顔でも分かるほど難しい顔を浮かべてるよ?」

 小さな声で問いかけるも、闇命君は顔を逸らし、また寛ぎ始めてしまった。

 な、なんだよぉ……もう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

努力しない人の思考

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

恋愛 / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:3,109

私の婚約者が完璧過ぎて私にばかり批判が来る件について

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,661pt お気に入り:5,615

王子の次は師匠が婚約者!? 最強夫婦になりまして

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:355

男色医師

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

【完結】±Days

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

処理中です...