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死絡村

隠し扉

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魔魅まみ様。件が保管されている村の村長からお話が──」

 一人の女性が話しかけている場所は、板が貼られている大部屋。
 壁側には人が座る為の座布団が寄せられ、奥には仏教や寺院などで最も大切な信仰の対象として安置される仏像──本尊が金色に輝きながら置かれていた。その目の前に座っているのは、物静かな少女。

 黒い腰くらいまで長い髪を下の方で二つに結び、狩衣を着用している。

「そうか。今から行く」

 少女と同じく、狩衣を着た女性が出入口から声をかけると、その場から立ち上がり振り向いた。その際の声は鈴の音のように綺麗で、儚く。今にも消えてしまいそうな声色。

 少女の顔左半分は、黒く変色している。瞳は藍色に光っているが、その中には生気が感じられず、子供のような無邪気さが一切ない。

志美津しみず。件が死んだか」
「そのようです」
「そうか。なら、また蘇るのを待つとしよう」
「ですが、今回は、訳ではなく、と言った感じなのです。如何致しますか」
「死なされた? ……わかった。とりあえず、件を保管している村、死絡しがら村へと行こう」
「かしこまりました。ただいま準備致しておりますので、魔魅様もご準備を」
「わかった」

 志美津と呼ばれた女性と魔魅様と呼ばれた少女は、そんな会話を大部屋に残し、大きな両開きの扉を閉じる。
 女性二人が横並びで歩いていても、幅には余裕がある廊下を進む。すると、目の前に顔を隠した男性二人が突如、姿を現した。まるで、空間を切り裂いたとでもいうような現れ方に志美津は驚き、咄嗟に魔魅を後ろへと回した。

「っ、貴方達。ここへはどのように入ったのですか。お帰りください」
「…………」

 彼女の言葉に返答はない。

「お帰りください」
「…………」

 再度言い放つが、同じく返答はない。
 志美津は彼らの反応に苛立ち始め、一歩前に足を繰り出し。先程より強い口調で言い放つ。

「お帰りくださっ──」

 志美津が苛立ちに身を任せ、荒げた声を出す一歩手前。立ちはだかった二人の男性のうち一人が、どこから出したのか分からない刀を片手に、一瞬で彼女に近づき心臓を貫いた。

 広く、綺麗に掃除されていた壁や床が赤く染まり、血溜まりが出来ていく。
 魔魅の顔にも鮮血が降り注ぎ、赤くなる。その表情は、少しだけ目を開いている程度。だが、動揺しているおり、手を小刻みに震えさせ後ずさった。

「やれやれ、あまり大きな声を出さないでくれよ。今ここにいる事がバレてしまえば、後にめんどくさい事になるじゃないか」

 一人の男性が口角を上げ、楽し気に文句を口にした。

 彼女の胸元からは大量に血が溢れ、目は見開かれる。グラッと体が傾き、重力に逆らう事なく地面に倒れた。
 浅かった息遣いが次第に聞こえなくなり、痙攣を起こしていた体は次第に動きを止め、最後には動かなくなった。

 赤く染った刀を男性はひと舐めし、顔を隠している布から見える黒い瞳が、魔魅を射抜くように見下ろされる。

「さぁ、君の呪いを、ワシにくれるかい?」

 刀を一振し、血を落としながら魔魅に手を差し伸べる。だが、その手に重なるものはなく、少女は顔色を悪くし、後ずさるばかり。

「こ、こなっ──」

 後ろを見ていなかったため、少女は背中を何かにぶつけてしまった。後ろを振り向くと、もう一人の男性が少女を見下ろしている。肩を掴み、動けないようにしていた。

「セイヤ、よくやった。それじゃ、君の呪いを、頂くよ」

 刀を構えた男性が皺がれた声で言い、少女の頭を鷲掴み、ニタリと笑った。

 ☆

 もう何度も来ている調書室。淡く光っている蝋燭とはもう大事な友達、手放す事なんて出来ません。

『早く調べなよ。変な事考えないで』
「毎回同じツッコミをされる俺って一体……」

 とりあえず漆家について調べよう。

 同じ陰陽師だから、横の繋がりとかで情報交換とかしてるよね。してなかったらマジで俺、何もやる事がなくて、時間を持て余すニート化してしまう。

『漆家については厳重に保管されているんだよ。呪いだからね』
「え。なら、調べたくても調べられないんじゃないの?」
『忘れていないと思うけど、僕はこの陰陽寮の中では位が高いんだ。保管場所なんて把握しているに決まっているだろ。僕は闇命様なんだからさ』

 なるほど。闇命は闇命だから、厳重に保管されている資料でも見る事が出来るのか。はいはい、助かったよ。

『件について調べた本棚まで行って』
「あ、うん」

 もうこの道は慣れたから迷わないで進むことが出来る。
 いつものように辺りを照らそうと蝋燭に手を伸ばしかけた時、闇命君が止められた。なぜ止める?

『ここには特に用はないから蝋燭を灯す意味は無い』
「でも、この先は行き止まりなんだけど……。もしかして闇命君、道間違えっ──いだだだだだた!!! 耳を噛むな耳を!!!」

 鼠の歯って固いものを噛まないと伸び続けるとか聞いたことあるけど、俺の……というか闇命君の耳は固いものでは無いから噛むなよ。口元寂しいなら後でひまわりの種あげるからさ。どっかにあるだろ、多分。

『蝋燭が置かれている棚を横に避けて。地下に続く扉が出てくるから』
「何それかっこいい」

 でも、どうやって? さすがに自分より大きな本棚を動かうなんて不可能だよ。

『本棚の側面に雷の印が結んであるでしょ。そこに雷火の札を近づかせて』
「なんで雷火?」
『聞く前にやれ、見ていればすぐに分かる事になるんだから、無駄な質問はしないでほしいんだけど?』
「スイマセンデシタ」

 一言二言が本当に多いな!! 質問くらいいいじゃん、身構えたいんだよ、何が起きるのかわからなくて怖いから!!

「えっと、近づかせるだけでいいの?」
『法力は込めてよね、ただの紙を近付かせたところで意味なんてないから』
「なるほど」

 法力を札に込めながら近づかせると、雷火を出す時みたいに札の周りに火花がパチパチと弾き始めた。それに共鳴するように本棚に結ばれていた印も光り出す。
 徐々にまばゆい光は本棚を包み込み、俺達を照らし出した。

「な、なにこれ」
『見ていればわかるよ』

 と、言われましても。何が起きるのか想像が出来ないよ…………ん?


 ――――――ズズズズズッ


 え、本棚がひとりでに動き出した?
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