憑依転生した先はクソ生意気な安倍晴明の子孫

桜桃-サクランボ-

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出会い

希望と後悔

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「では、私達はこれで失礼するよ。体を大事にね」
「ありがとうございます」
「あ、そうそう。この子は置いていくね。目が覚めたら大変だと思うけど、頑張って」

 それだけ言い残すと、紫苑さんと琴平はそのまま部屋を出ていき、紅音と夏楓は心配そうに俺を見下ろしている。気まずいって……。

「……大丈夫だよ」

 声が上手く出なかったけど、二人は頷き、琴平達の背中を追うように部屋を出た。

 ――――はぁ。疲れた。
 お腹の痛みは刺されたから、頭痛やだるみ、関節痛は熱のせい。疲労もあるだろうなぁ。

 お腹に手を添えてみたけど、痛みが増すとかはない。傷は本当に塞がっているらしい。

「はぁ……」

 頭が覚醒してきたから、あの夜の事も思い出してきた。
 ついでに夢の話も……。


 蘆屋道満あしやどうまんと安倍晴明。
 この二人、簡単に言えば敵同士。蘆屋道満の裏切り行為で、安倍晴明は貶められた──みたいな感じなのかな。

 それで、子孫である闇命君の体は、道満の呪いによって短命になった
 もしかして、最後に聞こえた低音の声。あれが蘆屋道満? 安倍晴明は、俺がもう蘆屋道満に出会っていると言ってたし。

 となると、靖弥は今、蘆屋道満に捕まっているで間違いない……のか?
 それなら、俺を刺したことにも納得がいく。

 あの目、確実に靖弥ではなかった。
 俺の知っている靖弥はもっと温かくて、俺より馬鹿で、能天気。

 でも、優しくて、一緒にいて楽しい。
 そんな靖弥だから、一緒に居たいと思っていた。助けたかったと、後悔した。

「俺がここに転生した理由は、安倍晴明に聞いたからもういいんだけど。今回会ったのが俺の知る静弥だとしたら、蘆屋道満が安倍晴明と同じようにこの世界に引き寄せたってことで、いいのかな」

 …………考えるだけ無駄か、証拠がないし。

「――――でも、どうにかするしかない。俺は、決めたんだから」

 あの夢の中で、俺は誓った。
 この世界に革命を起こすって、この陰陽寮を変えるって。安倍晴明の前で誓ったんだ。

 天井を見上げ、何も無い空間に手を伸ばしてみる。けど、その小さな手は何も掴めない。何も掴めず、下ろされる。

 …………外は今、穏やかみたいだな。
 風の音、鳥のさえずり、葉の重なる音。優しい音が聞こえる。

 とりあえず、今は休もう。
 考えるなら、頭をスッキリさせてからの方が捗る。

『やっと、回復してきた?』
「あ、闇命君。目が覚めたみたいだね、良かったよ」

 俺の腹の上で、鼻をヒクヒクと動かしながら寝ていた闇命君が目を覚ました。
 それでもまだ眠いのか、背中を伸ばし大きな欠伸をしている。

 鼠と考えると非常に可愛いんだけどなぁ。
 中身は、くそ生意気な天才陰陽師少年なんだよ。

『目が覚めたのなら、僕の体にそんな大怪我させた理由を話してもらうよ』

 あ、プチ怒だ。
 そりゃそうか。大怪我したんだから、怒られても仕方がない。
 でも、思っていたより冷静だな。もっと怒鳴ってくると思っていたよ。

 言われた通り、俺はあの村であった出来事と、闇命君には知っていてもらわないとと思い、夢の中で話した内容も一緒に伝える。

 その際、闇命君は相槌すらしないで、ずっと静かに聞いてくれた。
 でも、まだ俺の覚悟は話していない。話しても今の俺では言いくるめられて終わりのはずだから。

 この覚悟は、段取りがしっかりと俺の中でわかってから話す事にする。

『ふーん。なるほどね。僕に隠し事なんていい度胸じゃん』
「え、な、ななななな、なんの事??」
『今は無理やり聞かないよ。聞いても無駄だろうし、話せると思った時にでも話して』

 あれ、そこは素直に身を引くのか。絶対に吐かせてくるかと思った。

「……いつもの半透明にはならないの?」
『君が無駄に怪我をしてくれたおかげで力が安定していないの。それに、集中力も全くない。そんな状態で姿を現せる訳ないだろ。少しくらい考えて』

 くそっ、生意気は健在らしいな。

『安倍晴明か。話では聞いていたけど、まさか魂が僕の体に入っていたなんてね。なんか複雑だよ。せめて守護霊として背後にいてくれててもいいのに』
「それは確かにそう。最強の守護霊だ」
『とりあえず、今は何も出来ないから寝て体力を回復するしかない。そのあとに君の友人について話そう』
「うん」

 いろんなことがあったけど、今はすっきりしている。
 今やるべきことがわかったからかな。不安がなくなったわけではないけど、迷いは無くなった。

 今は、闇命君の言う通り体を休めよう。

 ※

 寝たかな、この馬鹿。
 まったく、何を考えているんだ、何をしようとしているんだよ。

 まさか、この世界に革命を起こそうとしているなんて。
 僕が君だってこと忘れていないよね。思考が駄々洩れなんだよ。

『…………』

 自由。この言葉に手を伸ばしたことは、何度もある。
 何度も何度も手を伸ばし続けた。でも、伸ばした手で掴めるものなど、なんもなかった。

 いつもなにも掴めず、心に靄がかかるだけ。次第に手を伸ばすのが億劫になり、途中から諦めた。

 僕が出来なかった事が、何もできないこいつに出来るはずがない。
 何も知らないくせに、何もわからないくせに。そんな事を言うな、考えるな、頼むから。

 頼むから僕に、希望を持たせないで。
 もう、なにも掴めないなんて、嫌だから……。

 ※

「セイヤ。今日は君らしくなかったねぇ。どうしたんだ。何か、珍しいモノでも見たかい?」

 低い声で口にしたのは、黒い着物に藍色の羽織り、腰には刀。鋭く光る眼光は黒く、口ひげが頬骨から飛び出るほど外ハネしている男性だった。

「特に何もありません。

 返事したのは、優夏が何度も友人と口にしていた、靖弥と呼ばれていた青年。

 二人は今、太陽の光すら差し込まない森の中を歩いていた。
 風の音や鳥の声、自然が奏でる音は一切聞こえない。静かな空間には、二人が歩いている足音だけが聞こえる。

「そうかい、それなら良かった。だが、今回のような失態だけは二度と、起こさないようにしておくれよ」
「分かっております。次は必ず、仕留めます」
「それなら良い」

 靖弥の抑揚のない声と、道満の楽しげに笑う声が響く。
 そんな中、羽織りで隠れている靖弥の顔は酷く歪んでおり、後悔の色を滲み出していた。
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