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出会い

妙技

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「よくわかった。とりあえず、ヒザマは火事を起こす妖なんだね。なら、まずヒザマを見つけつつ火を消さないと」

 村全体を覆う程の大きな火事、どうやって火を消せばいいんだろう。

「『水人、赤く燃え上がる炎を鎮静せよ。急急如律令』」

 後ろから、静かで落ち着いた声が聞こえた。
 今のは、紫苑さんの声?

 火で熱くなっていた空気がどんどん蒸発されていき、涼しくなっていく。
 肌に何かが当たり、手で触れてみると透明な雫が指先を濡らしている。

「これって、雨?」

 上空からは冷たい雫、辺りを冷やす。
 後ろで紫苑さんが片手に光り続けている御札を手にし、村を見上げていた。その目線を追うと──……

「あれは、壺に封印したはずの水人?」
『あれはまた別。大きさが全然違うでしょ。あれは、猫ジジィの式神の水人だよ』

 言われてみれば、確かに違う。

 俺が相手したのは、天井を覆い隠すほど大きかった水人だ。でも、今村の水を消そうとしている水人は、そこまで大きく見えない。

 二階建ての家の屋根にちょこんと乗りながら、両手を空へと上げ、なぜか踊っている。
 屋根一つすら覆う事が出来なくらい小さい。

「水人って、雨を降らす事が出来るの?」
『普通は出来ないよ。基本、水人に殺傷力はないし、戦闘には向かない。人の形をしたただの水だからね』
「なら、なんで紫苑さんの水人は雨を降らせられるの?」
『本人に聞きなよ』

 えぇ、そこまで言ったら教えてよ。
 紫苑さんの方を向くと、なぜか優しく微笑んでくれた。その笑みに心が殺られました。

 もう、どうでもいいや。
 火さえ消せれば。

 でも、さすがに雨だけでは火が大きすぎて、消しきれない。

「困ったね……」
「私の村が……」

 紫苑さんが険しい顔を浮かべ、四季さんは不安そうに自分が住んでいた村を見続けている。早く何か手を考えないと。

「闇命君」
『僕のは対妖だよ。こういう災害系は専門外』
「…………さすが天才少年だね」
『含みのある言い方やめてくれる? 何も出来ないあんたよりマシだよ』

 くそっ。

 それにしても、なんで闇命君はこんなに余裕そうなんだ。鼠の姿から変わろうともしない。
 もう、この村は全焼手前。諦めてしまっているのだろうか。

『ちっ。めんどくさいのが来た』
「──えっ」

 闇命君が鼠の姿のまま、顔を他所へとそらした。
 その目線を追うけど、よくわかんない。ただ、夕日がどんどん沈み暗くなっていくだけ。

「どうやら、来たみたいだね」
「来なくても良いのだけれどな」
「紅音、そう言うな。こういう時だけは頼りになるお人だ」

 紅音が苦い顔を浮かべている。
 琴平も遠回しに嫌悪感を出しているのを感じるな。

 二人がこんな嫌そうにする相手なんて、俺が知っている人では二人。

 ────ガルルルルルルル……………

 え、獣の声? どこから──

「出ましたね。

 送り狼? なんか、優しそうな狼だな。

『クソジジイの式神だよ。送り狼は他にも送り鼬とも呼ばれている。名前の通り、道を歩く人の後ろをひたすら付いて行くだけの獣さ』

 本当にそのまんまなんだな。

 獣の威嚇のような声がした方を見ると、そこには人間と同じくらいの背丈はありそうな狼。

 毛は青色に輝き神秘的、口から覗く牙は光を反射し、村を見上げている瞳はギラギラと鋭い。

 地面に付いている足の爪も鋭く光っており、近付く事さえ許されないような感覚だ。

「『青狼せいろう、全ての厄災を鎮たまえ。急急如律令』」

 聞き覚えのある嗄れた声。
 気配なく、俺の隣に移動してきたな。

「…………じーさん」
「何を勝手な行動をしている、闇命よ。この依頼は主のものでは無い。下がっておれ」

 やっぱり、いつ見ても意地汚い陰陽頭だ。
 何が俺のものじゃないだよ。元々、この依頼は断られていたものだ、誰のものでもねぇーだろ。

 文句を言いたいのは山々だが、ここで何かを言うと前みたいな殺人的な修行をさせられる可能性があるし、何も言わず一歩後ろへと下がる。あんな修行はごめんだからね。

「素直に聞くようになったな」
「…………」

 別に、じーさんの言葉に素直に従ったわけじゃない。勘違いすんな。

 溜息を吐きながら村を見上げると、いつの間にか火がほとんど消されてる。
 後は、紫苑さんの雨だけでも鎮火出来るくらいにまでになった。

「いつの間に……」
「これが陰陽頭の実力なのですよ、闇命様。お忘れですか? 陰陽頭が使っている妙技みょうぎを」

 え、琴平にそんな事言われても、分からないんだけど……。

「陰陽頭の一技之長いちぎのちょうは水。御札は、俺達陰陽師にとっては立派な武器となります」
「は、はぁ……」
「一技之長は、武器に自身の属性を纏わせる技。送り狼に自身の一技之長を纏わせ、村を燃やし続けていた火を蒸発させたのです」

 なるほど。送り狼が上空を走っていたのはそういことだったのか。

 送り狼が触れた所の火は、水に包まれるように消える。
 シャボン玉のような綺麗な水の球体が、上空をふわふわと浮かんでいた。

 その中には、恐らく包み込んだ炎が今も尚、燃え続けているだろう。

 ──あぁ。琴平がわざわざそう言ったのは、じーさんの前だからか。
 遠回しに俺に教えてくれたわけだ、ありがとう。

「勝手な行動をした罪は、しっかりと償って貰うぞ」

 げっ、厳格男もいたのかよ。

雨燕こじろう、早くヒザマを捕まえろ」

 おっと、ここで厳格男の名前判明。
 雨燕さんか。ふーん、興味無いけどな!!!

「分かりました。行ってまいります」

 厳格男、雨燕さんは、散歩にでも行くような足取りで、未だ燃えている村の中へと入っていった。
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