上 下
25 / 246
出会い

余裕のある家事

しおりを挟む
 馬車に乗って約三十分くらい経った頃。前方が赤く染っているのを確認出来た。

 今は西に向かっているからかな。
 夕日……いや。あれは、夕日の赤じゃない!!

 慌てて馬車のドアに備え付けられていた窓を引き上げ、顔を外に出し目を凝らす。
 嫌な予感が頭を過り、胸がざわつく。

 赤く染っているのは夕日のせいじゃない、黒煙も見える。これは、確実に……。

「火事だ!!」

 村全体を覆うほどの大きさはありそうだ。
 嘘だろ、早すぎる。闇命君の読みが外れた? いや、今はそんなこと考えている暇はない。

 四季さんは、顔を青くしわなわなと震え出して、琴平も近くにある窓を開け外に顔を出した。

「本当だな」

 え、なんで琴平はそんなに冷静でいられんの? 慌てている様子が一切ない。

「言ったでしょう。夜という言葉には正確な時間がない、と」
「紫苑さん……。確かにそうですね。いや、それより。もっと早く走れないんですか?!」

 一番最初に確認したはずの紫苑さんは、額に一粒の汗を滲ませているだけで焦っている様子がない。

 なんで琴平と言い紫苑さんと言い、そんなに平然としていられるんだ。
 村が燃えているというのに!!!!

「なら、顔を引っ込めてくれるかい。危ないよ」
「わ、かりました」

 言われた通り顔を引っ込め窓を閉めた瞬間、体が一瞬浮いたような感覚が、え?

 うえ……。胃の中の物が転がってる感じ。
 あれだ、遊園地にある大きな船の乗り物に乗った時の感覚、気持ち悪い。

「おい、何をしている優夏!! 早く手すりに捕まれ!」
「え、どわっ?!」

 体が思いっきり浮いた?! 
 琴平が俺を引き寄せてくれたおかげで怪我せず済んだけど、いきなりなに?!

「中の人のことを考えないんだ、あの人は……」
「あ、あぁ。なるほど」

 紫苑さんが俺の言った通りに馬車のスピードを上げてくれたのか。
 せめて一言、欲しかったよ……トホホ。

 ※

 怪我すると危ないからと、琴平が目的地に到着するまで俺を支えてくれていた。
 そのおかげで無事に到着。

「これは、酷いな……」

 赤く染る村、崩れ落ちる屋根や扉。
 早く、中にいる人達を助けないと!!!

「待ってください闇命様!!」
「は、離してよ琴平!!! 早く行かないと中の人達が!! 逃げ遅れて人がいるかもしれないだろ!!!」

 村の中に入ろうとしたら、なぜか琴平に腕を掴まれた。

 なぜ止める、琴平は心配じゃないのか。
 もしかして、村人より闇命君の体を気にしているのか?

 大事な人なのはわかる。でも、今はそんな事を言っている場合じゃないだろ!!!

「お、かあさん。お父さん……?」

 四季さんが、フラフラと村の中に入ろうとしてる。そっちを止めないと!

「お待ちなさい。大丈夫、君の家族は無事だよ」

 彼女の肩に手を優しく置き、温かい声で紫苑さんが宥める。

 大丈夫? なんでそう言いきれるんだ。

「優夏、もう避難は完了している。中から人の声は聞こえないだろう」

 え、完了している? 
 確認するため耳を澄ませてみると、確かに火の粉が飛び散る音や、家が崩れ落ちる音しか聞こえない。

 もし人がいるのなら、叫び声などが聞こえるはず。

「いつの間に……」
「琴平が頑張ってくれたからね」

 琴平が頑張ってくれた?
 ────あ、もしかして。

「琴平、森の中でめっちゃ疲れていた理由って……」
「あぁ。闇命様達の任務が終わる前に避難を終わらせなければならなかったため、走り回った結果だ」

 わぁお。あ、だから紫苑さんは慌てた様子を見せなかったんだ。

 それに、琴平も何も言わなかった。
 それならなぜ、事前に言ってくれなかったのだろうか。

「とりあえず、この現状をヒザマだけで説明するのは難しいでしょう。威力が桁違いだからね」

 顎に手を当て、紫苑さんはボヤいている。

 ────ヒザマ?

「あ、闇命君。ヒザマって何?」
『そんなのも知らないんだね。本当に無知って可哀想だよ。仕方がないから簡単に教えてあげる』

 くそっ。まぁ、知らないから仕方がない。

 闇命君の簡単で、悔しいがわかりやすい説明でヒザマについてはわかった。
 そこも天才だからか、本当に分かりやすかった。悔しい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...