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陰陽寮

修行終了

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「んで、お前は結局誰なんだよ。駄目だぞ、目上の人には礼儀正しくしないと」

 まぁ、今の俺はただの少年だけど。なんかなぁ。なんとなくだけど、この少年と背丈が似てる──というか、全く一緒なんだよなぁ。目線がかち合う。
 それに、性格もワガママな自由人……。あれ、なんか既視感。聞き覚えのある性格。

『あんた、鏡見た事ない訳?』
「鏡? こっちで目覚めてからは見てないけど……」

 なんでいきなり鏡?

『はぁぁぁああああああああ。袖の中』

 深すぎるほどのため息。呆れられながら袖を指さされた。

 ん? 袖にまだ何か入ってるのか? そういえば、普段着と比べると重い気がする。
 今までは色々あってそこまで気にする余裕がなかったから気にもとめなかったけど、改めて意識してみると、結構重たい。

『そこに浄化用の魔鏡がある。それで自分の顔を見てみなよ』
「う、うん」

 よく分からないけど、袖に手を入れてまさぐってみる。なんか、色々手に当たるんだけど、魔鏡ってどれ?
 あ、硬く丸い形をしている物を発見。表面もツルツルしているし、多分これが鏡なんだろうな。
 
 取り出すと、見た目は普通の手鏡。裏には白と黒の勾玉が合わさっている模様が入っているな。この模様って陰陽師の模様だったりするっけ? 詳しくわかんないや。

 とりあえず、鏡で今の自分を見てみる。

「…………え?」

 目の前で不機嫌そうな顔を浮かべている少年と、鏡の中に映る自分を何度も見比べてしまった。
 そう、何度も何度も。確認するように。

 だって、なぜか鏡に映る顔と少年の顔が──

「全く、一緒?」
『やっとわかった? 僕は安倍闇命あべのあんめい。あんたが今依代として使っている、天才陰陽師様だよ』

 鼻を鳴らし、少年──もとい闇命君がドヤ顔を向けてきた。

 いや、いやいやいや。

「どゆこと?! どうして俺が今目の前にいるの?!」
『”俺が”って言うのは正しい言葉じゃない。そもそもそれは僕の体だ。そして、今の僕は鼠を利用して姿を保っているに過ぎない』
「鼠?」

 鼠なんて居たかな。まるっきり記憶にない……。それに、小さな穴がなければ侵入する事なんて出来ないと思うんだけど。
 周りを見回しても穴なんて見つけられない。まぁ、暗いから見つけようが無いんだけどさ。

 あ、いつの間にか雷火がいなくなってる。だから、また最初と同じく薄暗くなっていたのか。

『僕は悪霊退治の際、大怪我を負うような大きな攻撃が放たれ、結界を張った。その時、何となく”何か”を感じたんだよ』
「何か?」
『そう。それで、僕の脳が瞬間的に”自身の魂を安全な場所に”って訴えかけてきた』
「何、その非現実的な現象」
『黙って聞いてろよ。それで、僕は瞬時に周りへと目を向け、依代になりそうな物を見つけ意識を集中させたんだ。無事、依代に魂を移す事に成功。その時、まぁ当然なんだけど、力が無くなり結界は簡単に粉砕。僕は攻撃され意識不明の重体になった。死ぬまではいかなかったにしろ、大怪我さ。それに、なぜか僕はすぐにその体へと戻る事が出来なかった。だから、君をここに呼んだの』

 闇命君が説明してくれたが、天才の言う事っていまいちよく分からない。脳が訴えてきたって……。

『よく分からないって顔してんね。でも、結果的には良かったじゃん。僕が依代に入ってなければ、あの水人にやられていた訳だし』
「そもそも、君が俺をここに呼ばなければ良かったのでは? まぁ……。感謝するけど……」

 いまいち納得出来ないけど、今は納得するしかないみたい。凡人である俺には全く理解出来ない内容に頭を抱えてしまう。

「はぁ……」

 頭を抱えていると部屋の襖が開いた、眩しい。

「闇命様、ご無事で何よりです」
「あ、琴平ことひだ」

 琴平が安心したような表情で近付いてきた。心配してくれてるって事だよね。なんだかうれしっ──

「おい、闇命様の体に傷を付けなかっただろうな」
「……ダイジョウブカトオモイマス」

 低い声で脅すように小声で言われた。目つきがものすごく怖い。鋭くとがり、青い瞳がきらりと光る。体に悪寒が走って、寒気がした。

 あれ、水人を相手にしていた時と同じ感覚なんだけど。

 あぁ、なるほどねぇ……。心配ではなく、の体の心配をしていたのか。
 うぅ、少し悲しい。俺も頑張ったのに……。

 琴平の圧に耐えていると、襖からさっきのくそうざいじーさんと厳格男が当たり前のように入って来た。

 あ、理解できた。最初心配しているように見せていたのは、この二人にいつもと違うと思わせないためか。
 小言で俺を睨んできたのも、俺自身について二人に怪しまれたくないという気持ちもあるが、文句も言ってやりたい。そんな気持ちだったんだろうな。

「どうにかなったらしいな」
「お陰様で……」

 何度か死にかけましたけどね。

 文句をブツブツと言ってやりたいが、立場上難しいというのは分かる。なんとか怒りを堪えていると、琴平が俺の足元に目を向け指をさしてきた。なに?

「闇命様、その足元にいる生き物は一体なんでしょうか?」
「え、足元?」

 あ、もしかしてこれが闇命君が依代として使ってる鼠なのかな。その場に待機し、少しも動こうとしない。

 あれ、そういえば。さっきまで半透明で立っていた闇命君の姿もない。もしかして、鼠の姿に戻ったのか?

 足元で動かなくなっている鼠をそっと拾い上げ、手のひらの上に乗っけてみる。

 鼠って、みんなからあまり良い評価はなかったけど。こうやってまじまじと見てみると、なんか可愛いのなぁ。

 頬緩ませまじまじと見ていると、それをうざく感じたらしい鼠が俺の指を噛みやがった。

「いった!!!」
「闇命様!? お怪我はありませんか?!」
「だだだだ大丈夫だよ琴平!」

 こんの。こいつ、やっぱり戻ってやがったんだ。俺の手を噛みやがった!

 睨みつけていると、鼠は不機嫌そうにそっぽを向く。こいつ……。

「ひとまず、今日の修行は終わりだ。後はいつも通りに過ごすがいい」

 鼠に怒りをぶつけようと拳を振り上げそうになった時、じーさんが冷静に言い放つ。

 これで修行は終わりか。この後は自由行動らしいな、案外ホワイト企業なのか?

 じーさんはそれだけを言い残し、男と共にその場を去って行った。

「────はぁ。おい、本当に怪我などは無いんだろうな。闇命様の体を傷つけようものならタダじゃ済まさんぞ」
「どんだけ大事なのさ、心配いらないよ。琴平が大大大好きな闇命様に助けられたからさ」

 鼠を差し出しながら言うと、琴平は首を傾げてしまった。まぁ、当たり前だな。
 
 さっきまでの出来事を簡単に話した。その間、琴平は百面相を浮かべながら聞いてくれる。最後には、渋い顔になり考え込んでしまった。
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