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晩夏
素直な気持ち
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静華が小説を再度書き始めてから、十年以上の月日が経った。
「静華、表紙のラフが出来たから確認してくれないか?」
「わかった、奏多、ありがとう」
二人が今いるのは、都会のど真ん中に建てられているマンションの一室。
部屋の中は様々な資料本や、原稿用紙で埋め尽くされていた。
他にも、様々な機材が置かれ、お世辞にも綺麗とは言えない。
奏多がパソコンから目を離し、回転椅子を回し後ろでキーボードを叩いていた静華にラフを見せる。
立ちあがり、パソコンを覗き込んだ静華の髪は、肩まで短くなっており、前髪は邪魔なのか、ヘアバンドで上に固定していた。
パソコン画面を見ていると、「うん」と頷き、満足したような表情を浮かべた。
「いい感じ。しっかりと私が書きたい雰囲気を捉えている」
「良かった、このままペン入れしていくぞ」
「うん。こっちも締め切り近いから、編集に集中するね」
「あぁ、頑張れよ」
「そっちもね」
今の静華は、小説家として開花していた。
今ではドラマ化なども話に上がっており、書き続けている。
表紙や挿絵はもちろん、奏多が担当だ。
二人はタッグを組み、世間に自身達のイラストと物語を広げていた。
今も休む暇なく執筆などを行い、寝る時間なども取る余裕がない。
静華と奏多の近くには、栄誉ドリンクやめざましのサプリなどが転がっていた。
しっかりしたご飯を食べる余裕すら無く、そのような物で食事は済ませている。
だが、二人とも気を落としてはおらず、逆に生き生きと自身のパソコンに向き合っていた。
――――辛い、苦しい。でも、十年以上前の仕事場より、全然マシ。むしろ、楽しい。
筆が止まらない、思考が止まらない。
眠たいはずなのに、疲労がたまっているはずなのに。
視界はあの時とは違い輝き、勝手に動く。
集中して書いていると、一本の電話が鳴った。
すぐに手を伸ばし、取る。
「はい」
『静華先生、お疲れ様です! 先日、ドラマ化の話をしたかと思うのですが、覚えていますか?』
電話の相手は編集長。
ドラマ化の話は耳にしていた。だが、本決まりではなく、そういう話もあるかもしれないという話で終わっていた。
静華は質問に「はい」と答え、次の言葉を待つ。
『先き程、電話がありまして。なんと、ドラマ化が決定しました!!』
「――――え」
驚きすぎて言葉を失った静華に気づき、奏多は振り向き「どうした?」と問いかけた。
視線を奏多に向け、唖然とした表情のまま、口を開いた。
「ドラマ化、決定したって」
その言葉に、奏多も唖然。
目を丸くしたまま立ちあがり、奏多は静華へと抱き着いた。
「へっ、ちょ、奏多!?」
「おめでとう、静華」
耳元で囁かれた言葉に、静華はやっと思考が追い付き、目の縁に涙が浮かぶ。
耳元でも鼻をすする音が聞こえ、奏多も泣いているんだとわかる。
二人は喜びの涙を浮かべながら、笑い合った。
奏多のパソコンに映る画面には、目元を狐の面で隠している少年と手を繋ぐ、活発そうな少年のラフが描かれていた。
電話を切り、二人で喜びあっていると、またしても電話が鳴り響く。
今度は奏多の方の電話。結晶画面には、見知った人の名前。
すぐ電話に出ると、男性にしては少し高めの声が返ってきた。
『奏多お兄ちゃん、今、近くまで来ているんだけど、もし良かったら気分転換に散歩でもしねぇか?』
「――――そうだな。時間はないが、少し外の空気は吸った方がいいかもな」
『そうだそうだ。もし良かったら、静華お姉ちゃんも一緒に散歩しようぜ。また、新しい発見があるかもしれないぞ!』
「わかったわかった。スピーカーにしているから、静華にも聞こえているぞ」
電話口の相手に、静華は苦笑い。でも、嫌な気分は一切ない。
「まったく、翔君は相変わらずだね」
『へっへー、まぁな。それじゃ、早く外に出てきてくれよ。俺の秘密基地、教えてやるよ』
「「はいはい」」
二人は顔を見合せ、静華はヘアバンドを取り、奏多は上着を羽織る。
外に出られるように整えた後、二人は手を繋ぎ、外へと向かった。
そんな二人の左薬指には、シルバーの指輪がはめられている。
綺麗な青空の下に出ると、私服姿の翔が立っており、二人に手を振り出迎えた。
「いこーぜ!!」
「あっ、勝手に走り出さないでよ、翔君!!」
静華の声を無視し、翔が目的の場所へと駆けだしてしまった。
そんな三人を、ビルの屋上から見下ろす二つの影。
一人は片手に酒瓶を持ち、顔には狐の面を付けている青年。
もう一人は、銀髪を揺らし、白い狩衣を着ている少年だった。
『――――弥狐よ、行かなくても良いのか?』
『我の反応を見て楽しんでいるでしょう、長』
『さて、それはどうかのぉ~』
『はぁ…………。問題ありませんよ、あの者達にはもう、我々のような人ならざるものは必要としておりません。今、出て行っても混乱を招くだけです』
『そんなことを言っても、視線は行きたそうにしておるがのぉ~』
『うるさいですよ。さぁ、我らも、自分達の世界に帰りましょう。我を、死の縁から救い上げてくれたモノ達が集まる、あやかしの世界へ――……』
弥狐と呼ばれた少年は狐の窓を作り、穴から覗き込む。
見えるのは、屋台が立ち並ぶ赤い景色。
人ならざる者達が楽し気に悠々と歩いている。
そんな景色を見て、弥狐は口角を上げ、歩き出す。
青年も、最後に静華達を振り返り、酒瓶を傾けた。
『――――夢、叶って良かったのぉ、人間よ』
それだけを言い残すと、二人の影は瞬きをした一瞬のうちに消えてしまった。
まるで、風が二人を連れて行ってしまったかのように。
何かの気配に気づき、静華は二人が消えたビルを見上げる。
すると、翔と奏多が急かすような事を言ったため、「なんでもない」と返し、また駆けだした。
――――弥狐君、私、今。ものすごく幸せだよ。素直になる事を教えてくれて、ありがとう!!
「静華、表紙のラフが出来たから確認してくれないか?」
「わかった、奏多、ありがとう」
二人が今いるのは、都会のど真ん中に建てられているマンションの一室。
部屋の中は様々な資料本や、原稿用紙で埋め尽くされていた。
他にも、様々な機材が置かれ、お世辞にも綺麗とは言えない。
奏多がパソコンから目を離し、回転椅子を回し後ろでキーボードを叩いていた静華にラフを見せる。
立ちあがり、パソコンを覗き込んだ静華の髪は、肩まで短くなっており、前髪は邪魔なのか、ヘアバンドで上に固定していた。
パソコン画面を見ていると、「うん」と頷き、満足したような表情を浮かべた。
「いい感じ。しっかりと私が書きたい雰囲気を捉えている」
「良かった、このままペン入れしていくぞ」
「うん。こっちも締め切り近いから、編集に集中するね」
「あぁ、頑張れよ」
「そっちもね」
今の静華は、小説家として開花していた。
今ではドラマ化なども話に上がっており、書き続けている。
表紙や挿絵はもちろん、奏多が担当だ。
二人はタッグを組み、世間に自身達のイラストと物語を広げていた。
今も休む暇なく執筆などを行い、寝る時間なども取る余裕がない。
静華と奏多の近くには、栄誉ドリンクやめざましのサプリなどが転がっていた。
しっかりしたご飯を食べる余裕すら無く、そのような物で食事は済ませている。
だが、二人とも気を落としてはおらず、逆に生き生きと自身のパソコンに向き合っていた。
――――辛い、苦しい。でも、十年以上前の仕事場より、全然マシ。むしろ、楽しい。
筆が止まらない、思考が止まらない。
眠たいはずなのに、疲労がたまっているはずなのに。
視界はあの時とは違い輝き、勝手に動く。
集中して書いていると、一本の電話が鳴った。
すぐに手を伸ばし、取る。
「はい」
『静華先生、お疲れ様です! 先日、ドラマ化の話をしたかと思うのですが、覚えていますか?』
電話の相手は編集長。
ドラマ化の話は耳にしていた。だが、本決まりではなく、そういう話もあるかもしれないという話で終わっていた。
静華は質問に「はい」と答え、次の言葉を待つ。
『先き程、電話がありまして。なんと、ドラマ化が決定しました!!』
「――――え」
驚きすぎて言葉を失った静華に気づき、奏多は振り向き「どうした?」と問いかけた。
視線を奏多に向け、唖然とした表情のまま、口を開いた。
「ドラマ化、決定したって」
その言葉に、奏多も唖然。
目を丸くしたまま立ちあがり、奏多は静華へと抱き着いた。
「へっ、ちょ、奏多!?」
「おめでとう、静華」
耳元で囁かれた言葉に、静華はやっと思考が追い付き、目の縁に涙が浮かぶ。
耳元でも鼻をすする音が聞こえ、奏多も泣いているんだとわかる。
二人は喜びの涙を浮かべながら、笑い合った。
奏多のパソコンに映る画面には、目元を狐の面で隠している少年と手を繋ぐ、活発そうな少年のラフが描かれていた。
電話を切り、二人で喜びあっていると、またしても電話が鳴り響く。
今度は奏多の方の電話。結晶画面には、見知った人の名前。
すぐ電話に出ると、男性にしては少し高めの声が返ってきた。
『奏多お兄ちゃん、今、近くまで来ているんだけど、もし良かったら気分転換に散歩でもしねぇか?』
「――――そうだな。時間はないが、少し外の空気は吸った方がいいかもな」
『そうだそうだ。もし良かったら、静華お姉ちゃんも一緒に散歩しようぜ。また、新しい発見があるかもしれないぞ!』
「わかったわかった。スピーカーにしているから、静華にも聞こえているぞ」
電話口の相手に、静華は苦笑い。でも、嫌な気分は一切ない。
「まったく、翔君は相変わらずだね」
『へっへー、まぁな。それじゃ、早く外に出てきてくれよ。俺の秘密基地、教えてやるよ』
「「はいはい」」
二人は顔を見合せ、静華はヘアバンドを取り、奏多は上着を羽織る。
外に出られるように整えた後、二人は手を繋ぎ、外へと向かった。
そんな二人の左薬指には、シルバーの指輪がはめられている。
綺麗な青空の下に出ると、私服姿の翔が立っており、二人に手を振り出迎えた。
「いこーぜ!!」
「あっ、勝手に走り出さないでよ、翔君!!」
静華の声を無視し、翔が目的の場所へと駆けだしてしまった。
そんな三人を、ビルの屋上から見下ろす二つの影。
一人は片手に酒瓶を持ち、顔には狐の面を付けている青年。
もう一人は、銀髪を揺らし、白い狩衣を着ている少年だった。
『――――弥狐よ、行かなくても良いのか?』
『我の反応を見て楽しんでいるでしょう、長』
『さて、それはどうかのぉ~』
『はぁ…………。問題ありませんよ、あの者達にはもう、我々のような人ならざるものは必要としておりません。今、出て行っても混乱を招くだけです』
『そんなことを言っても、視線は行きたそうにしておるがのぉ~』
『うるさいですよ。さぁ、我らも、自分達の世界に帰りましょう。我を、死の縁から救い上げてくれたモノ達が集まる、あやかしの世界へ――……』
弥狐と呼ばれた少年は狐の窓を作り、穴から覗き込む。
見えるのは、屋台が立ち並ぶ赤い景色。
人ならざる者達が楽し気に悠々と歩いている。
そんな景色を見て、弥狐は口角を上げ、歩き出す。
青年も、最後に静華達を振り返り、酒瓶を傾けた。
『――――夢、叶って良かったのぉ、人間よ』
それだけを言い残すと、二人の影は瞬きをした一瞬のうちに消えてしまった。
まるで、風が二人を連れて行ってしまったかのように。
何かの気配に気づき、静華は二人が消えたビルを見上げる。
すると、翔と奏多が急かすような事を言ったため、「なんでもない」と返し、また駆けだした。
――――弥狐君、私、今。ものすごく幸せだよ。素直になる事を教えてくれて、ありがとう!!
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