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晩夏

決意

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「な、なんで。なんで、奏多は私に怒らないの?」

 静華が震える声で聞くと、美波も奏多を見た。
 質問された奏多は、きょとんと目を丸くしつつ、考えるように空を見て、ポソポソと話し出した。

「あー、別に嫉妬されることは日常茶飯事だし。結構な数のアンチとかも沸いていたから、静華の言葉は特に何も思わなかったな」

「…………つまり、慣れって、こと?」

「まぁ、それが大半だな。名前が売れると、それだけ様々な人の目につく。その人達が全員、善人なわけがない。仕方がない事だろう」

 腕を組み、うんうんと頷く。
 そんな奏多を見て、静華は「はぁ?」と言ったような表情で固まってしまった。

「なに、阿保面浮かべてるんだ?」

「だ、だって。それ、私の葛藤を返してほしいと言いたいくらいなんだもん」

「返しても何も、お前が何で悩んで、何を抱えているのか一切話さなかったんだから、俺も何も言える訳ないだろう」

 ――――うっ、そ、それは、確かに……。

 奏多の言葉に静華は、肩をガックシと落とし、項垂れる。

「はぁ、今までの葛藤……」

「まぁ、どんまい」

 肩をポンと叩き、適当に慰める。
 その事にいら立ち、静華は顔を上げ、ギリギリと歯を食いしばった。

「まぁ、でも。その嫉妬心、俺的には嬉しい報告だったけどな」

「はぁ? なんで。私を馬鹿にしているの?」

 苛立ちのままに言うと、奏多はケラケラと笑いながら顔をズイッと近づかせた。

「だって、お前。まだ夢を諦めていないという事だろう? 心から、諦めきれていないという事だ」

 黒い瞳に見つめられ、静華は体に甘い痺れが走り体をビクッと跳ねさせる。
 頬が赤く染まり、頭が真っ白になってしまった。

「な、な。そ、そんなの、わからない、じゃない」

 なんとか言葉を投げかけたが、それは意味のない事だった。

「わかるよ」

「なんで……?」

「自分の意思とは関係なく、感情が動いたからだ」

 顔を話し、真面目な顔つきで言い切った。

 ドクンと心臓が鳴り、目の前がキラキラと輝き始める。
 静華を縛っていた見えない鎖が解き放たれたような。心に突っかかっていた何かがストンと落ちたような。

 しがらみが今の言葉により全て解き放たれ、静華の楽しかった記憶、夢を叶えようと走っていた時の気持ちを思い出す事が出来た。

 何も言わなくなり、顔を俯かせた静華を心配し、奏多は顔を覗き込もうとする。
 だが、それより先に、翔が美波の手から離れ、静華の膝に置かれている手を握った。

「っ、翔、君?」

「おねえちゃん、すなおになろうぞ!!」

 言い方が完全に弥狐。
 満面な笑みを浮かべ、弥狐の言い方を真似る翔を見て、静華の口元に笑みが浮かぶ。

 今まで必死に抑えていた執筆意欲が溢れ始め、もう止める事が出来ない。

 ふふっと笑い始めた静華を見て、奏多はとうとう壊れてしまったかと、何もわかっていない美波を見た。
 すると、静華は輝かしい瞳を浮かべ、奏多の手を掴み言い放つ。

「私――――小説をまた、書いてみる!!」
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