44 / 48
晩夏
イラスト
しおりを挟む
次の日、静華は太陽の光で目を覚ました。
隣には、泣いて目を腫らしている翔の姿。
今も戯言ように弥狐の名前を口にしている。
頭を撫でてあげ、静華は起こさないように自身にかけられていた布団から抜け、洗面台へと向かった。
鏡を覗き込むと、目元が赤く腫れており、泣いたことがまるわかり。
「うわぁ」と苦笑いが自然と零れてしまう。
何とか隠したいが、思いっきり泣いてしまったため、隠すのは難しい。
今日は家の中で待機していようと、心に決めた。
そんな時、玄関の方から奏多の声が聞こえた。
声につられ向かうと、美鈴と共に買い物袋を持って中に入る二人の姿。
目が合い、笑みを向けられた。
「あら、起きたのね」
「うん、おはよう」
「おはよう。翔君はまだ寝ているかしら」
「うん、まだ寝てたよ」
美鈴から買い物袋を受け取り、中を確認。
しっかりとグリーンピースが入っており、自然と眉を顰める。
奏多が靴を脱いでいる時、買い物袋の中に一冊の本が入っていることに気づいた。
「奏多、本買ったの?」
「ん? あ、あぁ。もっとイラストの質を上げたくてな」
「質?」
「そうだ。あとは、今描いているのはアニメ塗りだけだから、他の塗り方もしてみたいと思ってな。損は絶対にしないし。相手の望む絵柄で渡すために、もっと勉強をしようと思ったんだ」
言いながら、袋から出したのは様々な塗り方のコツが書かれている本。
「へぇ、凄いねぇ。私じゃまったくわからないや」
中をペラペラと見てみるが、静華では全く分からない。
「まぁ、これは専門的な知識を持っている人を狙って書いている資料本だからな。上級者向けだ」
「へぇ…………」
――――すごいなぁ、ここまで突き詰めて自分の可能性を広げてさ……。
凄いと思う反面、やっぱり悔しい気持ちは静華の中にある。
自分も、頑張れば小説家としての道を今も頑張って目指していたのだろうかと、考えても意味は無いが、頭をよぎる。
胸が痛くなり、顔を俯かせた。
だが、同時に、それだけ小説は、静華の中では大きな存在となっているということも理解する。
「――――なぁ、静華」
「ん?」
「今から、俺の家に来ないか?」
・
・
・
・
・
奏多の家に辿り着くと、静華はその場に立ち止まり唖然。
田舎道を真っすぐ進み、途中の曲がり角で左折。
森に挟まれた道を進むと、自然に囲まれた場所に無理やり作られたであろうボロイ小屋を発見した。
「え、確か、奏多の家、こんな所じゃない、よね?」
「まぁ、そうだな。ここは俺の仕事場だ。最近ではここで過ごしているから、家と言ってもいいんだけど」
「えっ」
「だが、実家はしっかりとある、安心しろ」
「そ、そうなんだ……」
平然と言っている奏多だが、こんな所で生活をしているなんてと、どうしても驚きを隠しきれない。
「あ、雨、風、凌げるの?」
「さすがにそこまでボロくないぞ。見た目よりはしっかりとしているし、時々雨漏りする程度だ。それも決まった場所だし、バケツとかを置いておけば問題はない」
言いながら立て付けが悪そうなドアを横にスライドさせ、中に入るように促す。
見た目がイケメンで、女性など選り取りみどりにも関わらず今も独身を貫いている原因は、このずぼらな性格がありそうだなと、静華は内心思ってしまった。
「入らないのか?」
「…………入ります」
――――こんな所に女性一人を連れ込もうとしている神経も、彼女が出来ない原因だろうなぁ。
静華は言われた通り玄関を潜ると、中も驚きの光景が広がり、今回は興奮してしまった。
「わぁ! すごい!!」
机は窓側に置かれており、パソコンとイラストを描くためのタブレットが乗せられている。
下には、インターネットを繋げる機械。
他にも、本が床に積まれているが、一応人が通れる場所は確保されている。
机の後ろに置いているベッドも、整頓されていた。
「汚いような、綺麗なような」
「今日は、締め切り前より遥かに綺麗だぞ。締め切り前は、足の踏み場すらないからな」
「…………本当に、頑張っているんだね」
「まぁな。イラストの依頼がなくなると、食っていけねぇし」
――――イラストで生計を立てているくらい稼いでいるんだっけ。
そう思うと、尊敬の気持ちが現れ、自然と笑みがこぼれる。
物珍しそうに周りを見回していると、一つの小説が目に入り、詰まれている本の隣に座った。
「この本…………」
拾い上げると、タイトルが『きつねさんのおさんぽ』と書かれていた。
中を開くと、見覚えのある書き方、構想、雰囲気。
最初しか開いていないが、結末までもう覚えている、わかる。
「これ、私が書いた小説じゃない?」
「ん? あぁ、そうだぞ」
なんともないように返事をした奏多に、静華は固まる。
なぜ、こんな所に本であるのだろう。
なぜ、奏多が持っているのだろう。
もう、訳が分からないことが多すぎて、ただただ片づけている奏多を見るしか出来なかった。
隣には、泣いて目を腫らしている翔の姿。
今も戯言ように弥狐の名前を口にしている。
頭を撫でてあげ、静華は起こさないように自身にかけられていた布団から抜け、洗面台へと向かった。
鏡を覗き込むと、目元が赤く腫れており、泣いたことがまるわかり。
「うわぁ」と苦笑いが自然と零れてしまう。
何とか隠したいが、思いっきり泣いてしまったため、隠すのは難しい。
今日は家の中で待機していようと、心に決めた。
そんな時、玄関の方から奏多の声が聞こえた。
声につられ向かうと、美鈴と共に買い物袋を持って中に入る二人の姿。
目が合い、笑みを向けられた。
「あら、起きたのね」
「うん、おはよう」
「おはよう。翔君はまだ寝ているかしら」
「うん、まだ寝てたよ」
美鈴から買い物袋を受け取り、中を確認。
しっかりとグリーンピースが入っており、自然と眉を顰める。
奏多が靴を脱いでいる時、買い物袋の中に一冊の本が入っていることに気づいた。
「奏多、本買ったの?」
「ん? あ、あぁ。もっとイラストの質を上げたくてな」
「質?」
「そうだ。あとは、今描いているのはアニメ塗りだけだから、他の塗り方もしてみたいと思ってな。損は絶対にしないし。相手の望む絵柄で渡すために、もっと勉強をしようと思ったんだ」
言いながら、袋から出したのは様々な塗り方のコツが書かれている本。
「へぇ、凄いねぇ。私じゃまったくわからないや」
中をペラペラと見てみるが、静華では全く分からない。
「まぁ、これは専門的な知識を持っている人を狙って書いている資料本だからな。上級者向けだ」
「へぇ…………」
――――すごいなぁ、ここまで突き詰めて自分の可能性を広げてさ……。
凄いと思う反面、やっぱり悔しい気持ちは静華の中にある。
自分も、頑張れば小説家としての道を今も頑張って目指していたのだろうかと、考えても意味は無いが、頭をよぎる。
胸が痛くなり、顔を俯かせた。
だが、同時に、それだけ小説は、静華の中では大きな存在となっているということも理解する。
「――――なぁ、静華」
「ん?」
「今から、俺の家に来ないか?」
・
・
・
・
・
奏多の家に辿り着くと、静華はその場に立ち止まり唖然。
田舎道を真っすぐ進み、途中の曲がり角で左折。
森に挟まれた道を進むと、自然に囲まれた場所に無理やり作られたであろうボロイ小屋を発見した。
「え、確か、奏多の家、こんな所じゃない、よね?」
「まぁ、そうだな。ここは俺の仕事場だ。最近ではここで過ごしているから、家と言ってもいいんだけど」
「えっ」
「だが、実家はしっかりとある、安心しろ」
「そ、そうなんだ……」
平然と言っている奏多だが、こんな所で生活をしているなんてと、どうしても驚きを隠しきれない。
「あ、雨、風、凌げるの?」
「さすがにそこまでボロくないぞ。見た目よりはしっかりとしているし、時々雨漏りする程度だ。それも決まった場所だし、バケツとかを置いておけば問題はない」
言いながら立て付けが悪そうなドアを横にスライドさせ、中に入るように促す。
見た目がイケメンで、女性など選り取りみどりにも関わらず今も独身を貫いている原因は、このずぼらな性格がありそうだなと、静華は内心思ってしまった。
「入らないのか?」
「…………入ります」
――――こんな所に女性一人を連れ込もうとしている神経も、彼女が出来ない原因だろうなぁ。
静華は言われた通り玄関を潜ると、中も驚きの光景が広がり、今回は興奮してしまった。
「わぁ! すごい!!」
机は窓側に置かれており、パソコンとイラストを描くためのタブレットが乗せられている。
下には、インターネットを繋げる機械。
他にも、本が床に積まれているが、一応人が通れる場所は確保されている。
机の後ろに置いているベッドも、整頓されていた。
「汚いような、綺麗なような」
「今日は、締め切り前より遥かに綺麗だぞ。締め切り前は、足の踏み場すらないからな」
「…………本当に、頑張っているんだね」
「まぁな。イラストの依頼がなくなると、食っていけねぇし」
――――イラストで生計を立てているくらい稼いでいるんだっけ。
そう思うと、尊敬の気持ちが現れ、自然と笑みがこぼれる。
物珍しそうに周りを見回していると、一つの小説が目に入り、詰まれている本の隣に座った。
「この本…………」
拾い上げると、タイトルが『きつねさんのおさんぽ』と書かれていた。
中を開くと、見覚えのある書き方、構想、雰囲気。
最初しか開いていないが、結末までもう覚えている、わかる。
「これ、私が書いた小説じゃない?」
「ん? あぁ、そうだぞ」
なんともないように返事をした奏多に、静華は固まる。
なぜ、こんな所に本であるのだろう。
なぜ、奏多が持っているのだろう。
もう、訳が分からないことが多すぎて、ただただ片づけている奏多を見るしか出来なかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる