翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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盛夏

暑苦しい

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「盛大にやらかしたらしいな」

「やらかした、本当にやらかした。久しぶりに親に怒られた」

 目を覚ますと次の日だったことに驚きつつも、静華は奏多と共に庭で遊んでいる弥狐と翔を見守っていた。

 奏多とは喧嘩みたいなことをしてしまったが、親に怒られたことをネタに話しかけてきたため、今は何事もなかったかのように接している。

「本当にあやかしの世界に行ったのか? そんな世界、あるのか?」

「合ったんだよ。そこでは、睡魔も感じなくてさ。だから、時間の感覚がわからなかったの」

 ――――そう言えば、空腹とかも感じなかったな。何も感じない、世界だった。

 また、西瓜を食べながら、あやかし世界での出来事を思い出す。
 口を開かなくなった静華に片眉を上げ、奏多は「どうした?」と問いかけた。

「いや、何でもない…………」

 シャクと一口、口の中に西瓜を入れる。
 ひんやりと冷たく、熱くなった体を冷やしてくれた。

「…………静華」

「なに?」

「本当に昔から強がりだよな」

「え、な、なにそれ…………」

 奏多からの言葉にムッとしつつも、西瓜を食べる手は止めない。
 横目に睨んでいると、奏多はケラケラと笑い、静華の頬に手を伸ばす。

「我慢強いのはすごい事ではある。だが、それは自分を追い込めているのと一緒だ。我慢には限度がある。無理はするな、言いたい事を我慢するな。やりたい事をすればいい。俺は、静華のやる事なら応援したい」

 柔和な笑みを浮かべ、奏多は言い切った。

 最初は何を言っているんだろうと思い唖然、徐々に理解し頬が赤く染まる。
 すぐに顔を逸らし、照れ隠しのように目線を落し、西瓜を食べた。

 手にあった温もりがなくなり、奏多はやれやれと言うように、行き場のなくなった手を西瓜に伸ばし食べた。
 冷たく、甘い。次々食べたくなるほどに美味しい。

 種を飛ばすと、静華が「汚い」と指摘。
「あ、悪い」と、いつもの二人へと完全に戻った。

 翔と弥狐も西瓜を食べるため二人へと駆け寄り、「『西瓜、ちょーだい!』」と手を伸ばす。
 すぐに静華が二切れ持ち、一つずつ渡す。

「わーい」と二人は喜び、シャクッと食べる。
 口の中に広がる甘い香り、ガリッと種を噛んでしまい、翔は苦い顔を浮かべた。

 口から出していると、弥狐が翔の表情に笑う。
 二人は本当に仲が良くなり、触れられないという枷など感じさせない。

 二人の関係を見て、静華は微笑み、もう一つ西瓜を食べる。

 シャクッと音を鳴らし、甘い香りを口の中に広げた。
 一度口に入れれば止まらない美味しさ。次々に食べてしまう。

 みんなで食べていると、奥から追加というように西瓜をお盆に乗せ、美鈴がやってきた。

「あらあら、すぐに無くなったわねぇ~。ほら、追加よ」

 コトンッとお盆を置き、お皿に乗っている西瓜をお皿ごと置く。
 空になったお皿は回収して「お腹、壊さないようにね」と言い残し、廊下を歩き去る。

 弥狐と翔はすぐに手を伸ばし、西瓜を手にし食べる。
 笑い合っている二人を見て、静華と奏多も笑みが零れた。

 シャクシャクと、夏を感じる音が鼓膜を揺らす。
 風が吹くと、木が揺れカサカサと自然の音を奏でた。

 ――――私は、我慢しているのかなぁ。ただ、自分が何も出来なくて、成功している奏多に劣等感を感じているだけなのに。

 青空を見上げ、西瓜を食べながらぼぉ~と考える。

 ――――九尾さんにも、悩みは悪い事じゃないとか言われた。どいう意味なんだろう、分からない。

 ※

 夜、布団に入り就寝。
 だが、目を閉じ、いくら寝返り打っても、夢の中に入る事が出来ない。

 熱いから薄い布団をお腹にかけるだけにしているのだが、それでも暑くて汗が滲み出る。

 ――――暑苦しい、寝苦しい。

 手をどこに伸ばしても暑く、必死に冷たい所を探すが意味はない。

 ――――こういう時は、都会の方が寝やすかったなぁ。クーラーあったし。

 もう、我慢の限界というように目を開け、体を起こした。

「あっつい…………」

 肌にパジャマが張り付き気持ち悪い、汗が流れ髪もべたつく。

 ――――こんな中、どうやって寝ればいいの。

 げんなりとしていると、外から鈴の音が聞こえ始めた。
 この音が聞こえる時は大抵、弥狐が現れる時。

 今回もそうかなと、静華は警戒をせず周りを見回していた。
 だが、いつまでたっても現れない。

 ――――あれ?

 不思議に思い、後ろを振り向くと、人の顔が眼前に現れた。

「っ!? きゃぁぁぁぁぁあ!!!」

 後ろに下がり、逃げる。
 静華の後ろに現れたのは、弥狐ではなかった。

 黒い肌に、ボサボサの髪。
 ものすごく顔が大きく、体がない。

 白い歯はボロボロで、口から吐かれる息は濁っていて臭い。

 確実に人間ではない何かが、目の前にいる。
 黒く濁っている目は、静華を狙うよう視線を離さない。

 体が震え、立ちあがる事が出来ない。
 目を離せば後ろから襲われてしまうんじゃないかという恐怖で、目すら逸らす事が出来ない。

 ガタガタと体が震え、歯をカチカチと鳴らす。
 冷や汗がぶわっと流れ、頬を伝い畳に落ちた。

 息をするのも戸惑われる空気に、静華は無意識に息を止めていた。

『ガッ、アッ…………』

「え、なに…………?」

 声に出した瞬間、なにに反応したのか。
 化け物が鼓膜を破るほどの大きな声を出し暴れ出した。

『グァアゴァァァァァァアアアアアア!!!』

 静華に襲い掛かる化け物。
 動くことも、声を出す事すら出来ず、静華は化け物に襲われた――……
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