翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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夏めく

輪投げ

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 奏多は白いエプロンを腰に巻き、焼きそばを鉄板で作り始める。
 その隣では、静華が奏多の手元を凝視。興味深げに見続けていた。

「…………静華、見すぎ」

「いや、だって。気になるんだもん」

「なにが?」

 手元は動かしたまま、奏多は顔を上げ静華を見る。

「なんか、台所で焼きそばを作っている光景と、やっぱり違うなぁって思って」

「あぁ、まぁ、確かに。フライパンと鉄板とは、また違うよな」

 言いながら、味をつけるためにソースを入れる。
 辺りに美味しそうな匂いが広がり、ヨーヨーつりに集中していた二人も振り向いた。

「焼きそば!!」

『焼きそば!!』

 目を輝かせながら立ちあがり、焼きそばの屋台に駆け寄る。
 奏多を囲い、キラキラした瞳で見上げた。

「あー、見つかった」

 苦笑いを浮かべながら翔の頭を撫で落ち着かせるが、興奮は収まらない。
 それは弥狐も同じく、奏多に触れないように気を付けながら、焼きそばが出来上がるのを今か今かと待っている。

「わかった、わかった。待ってくれって」

 困ったように眉を下げ、奏多は静華に「紙皿取って」と手を伸ばす。
 近くに置かれていたカウンターを見て、すぐに取り出し渡した。

 トングで焼きそばを掴み、紙皿に乗せ、まずは翔へと渡す。
 次に弥狐の分も紙皿に乗せ、渡した。

 手が触れないように気を付けながら渡すが、弥狐はそんな奏多の気遣いを無視。
 すぐに手を伸ばし、ギリギリ触れない所で受け取った。

「あっぶな」

 すぐに手を引っ込めた奏多の目線の先には、割り箸を翔から受け取り食べ始めている姿。
 口にソースをつけ、美味しそうに食べる二人。

「あーあ。取られちゃったね」

「しゃーね。また作るわ」

 仕方がないと頭をガシガシと掻き、奏多はすぐ鉄板に油を塗り、作り始める。
 またしても美味しそうなソースの臭いが充満するが、二人はもらった焼きそばで満足。
 すぐに違う所へ興味が逸れた。

 次に二人が向かった先には、輪投げ。
 景品は、お菓子が主に置かれている。
 二つだけ、ぬいぐるみが用意されていた。

 輪っかは六つ。赤、白、青とカラフル。
 それが、シートの上にある景品の近くに置かれていた。

 翔がまず、六つの輪っかを持ち上げ、三つを弥狐に渡す。
 素直に受け取り、ジィ~と見た。

「どうしたの?」

 翔が問いかけると、弥狐が首を傾げた。

『これは、何をするのだ?』

 聞くと、美鈴が「ふふっ」と笑いながら近づき、翔から一つの輪っかを借りた。

「これはね、輪投げっていう遊びよ。こうやって――ほい」

 目線を同じくらいにするようにしゃがみ、翔から借りた輪っかを水平にし、放つ。
 すると、一つのお菓子に引っかかり命中。ストンと落ちた。

「あんな感じで、輪っかを景品にひっかける事が出来ればもらえるのよ」

『もらっても良いのか?』

「うん。だから、頑張って」

 輪っかを取り、翔に返す。
 二人は顔を見合せ、頷き合った。

「負けないぞ!!」

『我もだ!!』

 またしても二人は闘争心向き出しで、挑み合う。
 ジャンケンをした結果、最初に投げるのは翔に決まった。

 一歩前に出ると、輪っかを一つ右手で持ち、静華と同じ構えを取る。
 輪っかを水平にし、「えい!」と投げた。

 ――――カラン

「あっ」

『あっ』

 翔が放った輪っかは、景品に届く少し前で落ちてしまった。

 距離が離れすぎていたのか、それとも翔の欲しい物が手前にあるお菓子だったのか。
 美鈴は印として引いていた線を少しだけ景品に近付かせ、もう一回練習で放つように翔に言う。

 すぐ、言われた通りに力いっぱい投げると、景品に当たった。
 距離は大丈夫だと判断、美鈴は何事も無かったかのように輪っかを翔へと返した。

「今のは練習、なしよ。ここからが、本番」

 美鈴が言うと、次こそはというように、翔は片足を一歩前に出し、本気で放つ。

 ――――カンッ!

「あぁぁあ!!」

『惜しかったなぁ…………』

 真ん中にあるお菓子に当たりはしたが、ひっかける事は出来ず落ちてしまった。
 これでは、景品ゲットという訳にはいかない。

 翔は肩を落とし、弥狐と入れ替わった。

 翔を見ていたため、力み過ぎても、力を抜きすぎても駄目だと判断した弥狐は、輪っかを右手で持ち、構え始める。

 片足を一歩、前に出し、輪っかを水平にし構える。
 狙いは一つ、先ほど翔が外した、真ん中にある箱に入ったお菓子。

 絶対に視線を逸らさない。
 集中力を高め、右手を揺らし始めた。

 強さや角度の調整。
 それらを全て決め、眉を吊り上げたかと思うと、ヒュンッと輪っかは投げられた。

 ――――カランッ!

『あっ!! 入った!!』

「なっ!!!」

 狙い通りのお菓子にひっかける事が出来た。
 その事に弥狐は大いに喜び、翔は頬を膨らませ悔しがる。

「つ、次は必ずゲットしてやるからな!」

『へへっ、頑張るのだぞ、翔!!』

 入れ替わり、今度は翔。
 先程と同じように輪っかを持ち、一歩右足を前に出し構える。

 だが、その構えには焦りがあり、力が入っている。
 弥狐はそれに気付き、お菓子を抱えながら今にも投げようとしている翔の横に立った。

「っ、な、なに?」

『手に力が入り過ぎだ。それでは、輪っかが明後日の方向へと放たれてしまうぞ』

「あ、あさって?」

『変な方向に飛んでしまうという事だ、もっと力を抜くのだ。それで、視線は欲しい景品に向ける。それだけでうまく出来るぞ』

 ニカッと笑みを浮かべ、その場から離れた。

 最初はきょとんと目を丸くしていた翔だったが、すぐに言われた通り体に入っていた力を抜き、欲しいお菓子に目を向ける。

 今、翔が見ているのは、大好きな袋菓子。
 いつもは買ってもらえない、特別なお菓子。

 あれだけは絶対に欲しい。でも、力は入れない。
 子供なりに考え、翔は再度、構えた。

「――――えいっ!!」

 翔が投げた輪は、真っすぐ狙ったお菓子へと放たれた――……
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