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夏めく

大人

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「わぁぁぁ、凄い」

 庭には、焼きそば、クレープ、タコ焼き、ヨーヨー釣り、輪投げと。
 五個の屋台が準備されていた。

 簡易的に作られたため、普通の屋台よりは小さいが、これでも十分お祭りの雰囲気は楽しめる。

 予想通り、弥狐は目を輝かせ、興奮状態。
 鼻息が荒く、色んな屋台を見回していた。

 翔も同じで、キラキラと目を輝かせ、走り回っている。
 転びそうになっている為、落ち着いてほしいと願うばかりだ。

「――え、あ、危ない!!!」

 二人とも周りを見ておらず、ぶつかりそうになる。
 静華が声をかけると弥狐は気づいたが、もうぶつかる寸前、間に合わない。

 目を閉じぶつかるところから目を逸らす。
 だが、静華の耳に衝撃音は聞こえない。

 恐る恐る目を開けると、翔の襟を掴み止めている奏多の姿があった。

「っ、ぶな……」

「な、ナイス奏多!!!」

 息を止めていたらしく、安心したように思いっきり吐く。
 そんな奏多の焦りなど気づいておらず、翔はまたしても駆けだそうとバタバタと暴れていた。

 おいおいと呆れつつ、奏多は抱き寄せ動きを封じ、自身へと振り向かせた。
 同時に静華も、弥狐の隣に座る。

「翔、走り回ってもいいんだったか?」

「…………ううん」 

「そうだな。走ったら駄目だよな。なら、その理由はわかるか?」

「危ないから」

「何が危ないんだ?」

「人に、ぶつかる」

「そうだ、えらいぞ。なら、今ぶつかりそうになったのは誰だ?」

 奏多が聞くと、翔は振り向き弥狐を見た。
 すると、やっと思い出したのか顔を青くし、駆けだした。

 またぶつかるかと思い静華は警戒したが、弥狐の前で足を止め一安心。

「ご、ごめんなさい!!!」

『我も興奮しすぎて周りを見ていなかった、お互い様だ。すまなかった』

 お互い顔を下げ、謝罪。
 すぐ顔を上げ、笑いあった。

 肝が冷えた出来事だったが、無事に何事もなく終わる。
 皆が安心した時、美鈴が屋台の上に巡らせている提灯に光を灯した。

 暗くなってしまった庭が光で明るくなった。
 すぐに奏多が腰に白いエプロンを巻き、美鈴もいつものエプロンを身に着ける。

「さてさて。では、お祭り開始よ? 何がしたいかしら」

 美鈴が問いかけると、翔と弥狐が目を合わせる。
 そして――………

「『ヨーヨー!!』」

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 子供用のプールに水を張り、スーパーで買ったヨーヨーを浮かべた屋台。
 ヨーヨーには太い糸を付け、絶対に切れないように割り箸と輪ゴムで作った竿を渡し、準備完了。

 弥狐と翔に渡すと、にんまりと笑い、プールへと歩く。

「どっちが多く取れるかしょうぶだ!」

『望むところだ!!』

 弥狐は長い袖を捲り、準備。
 翔も水に浮かんでいるヨーヨーを凝視、なにから狙おうか見定める。

「『…………』」

 ――――あれ、どっちも始めようとしない。

 準備が出来ているのに、二人は動かない。
 浮いているヨーヨーを見ているだけ。

 何をしているのか後ろから見ていると、奏多がやっと二人の思惑に気づき、歩き出した。

 二人の横に立ち、腰に手を当てる。
 ヨーヨーに集中しているのを確認すると、両手を軽く広げた。

「よーい、どん!!」

 ”どん”というのと同時に、パンと手を叩いた。
 すると、今まで動かなかった二人が勢いよく動き出す。

 バシャン!! という音と共に水しぶきが舞い、辺りを濡らした。

 後ろから見ていた静華は、戻ってきた奏多を見て目を丸くする。

「よくわかったね」

「まぁな。これでも翔と共に過ごした時間は、お前より長い。少しは分かるぞ」

 それでも、今ので普通わかるか? と思いつつ口には出さず、静華は楽し気に水しぶきを浴びながら勝負している二人を見守る。

 弥狐は翔に触れないように、弥狐も翔に触れないように。
 お互い距離を測りながら、本気の勝負を繰り広げている。

「すごいだろ」

 奏多が横目で、二人を見ていた静華に自慢げに言った。

「あれで翔は、まだ三歳なんだぞ。大人より大人しているかもしれねぇな」

 奏多の言葉に、静華は納得する部分があった。

 学生の時は、自分と合わないからと距離を取られ。
 会社では自分がやりたくないからと、人の状況などを無視し仕事を与える。

 人の事を考えない高校生や社会人と比べると、今の翔は誰よりも大人に思えた。
 それを口から出す事はせず、翔達を見続ける。

 奏多が横目で静華を見て、一つ、提案した。

「……なぁ、ちょっと、腹空かねぇか?」

「え?」

 隣に立つ奏多を見ると、笑みを浮かべ焼きそばの屋台を指さしていた。

 ――――確かに、お昼から何も食べていないし、お腹空いてきたかも。

 言われて、お腹が空いていることに気づき、同時に”グゥゥゥウウウ”という音が響く。

 誰の音か、何の音なのか瞬時にわからなかった二人は、きょとんと顔を見合わせる。
 同時に静華は赤面、奏多は口元を手で押さえ肩を震わせた。

「わ、わわ、わらうなぁぁぁぁぁあぁあああ!!!!!」
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