25 / 48
夏めく
説得
しおりを挟む
――――私が落ち込んでいると思ったから、弥狐君は笑わせようとしてあんなことをしたの?
なぜ、そんなことを思ってくれたのか。なんで、そこまでして笑わせようとしてくれたのか。
静華には、わからない。
落ち込んでいようが、弥狐には関係ない。
わざわざこんな手の組んだことをしなくてもいい。
「…………なんで、そんなことをしようとしたの?」
『? さっきも言ったが、落ち込んでおったから…………』
「そうじゃなくてさっ――……」
声を張り上げ"違う"と言いかけた時、背後からカサカサと、人の足音が聞こえ言葉が止まる。
咄嗟に振り向くと、そこには肩で息をしている奏多の姿。
三人を見ている奏多は、荒い息のまま近付き、顔を真っ赤にして――……
「何をしているんだぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
『「「ごめんなさぁぁぁぁぁあああああい!!!!」」』
奏多の怒声に、翔は涙。
ついでに静華も怖すぎて体を震わせ、弥狐もとうとう泣き出してしまった。
※
奏多に言われ、弥狐と静華、翔は家へと戻ってきた。
そこには不安そうに玄関前で待っている美鈴。
「おばさん、見つけてきました」
「っ、奏多君!!」
奏多の声に、美鈴は目を開き、後ろを歩く三人を確認。
すぐに駆けだした。
「まったく、勝手に家を出て行ってはいけないといつも言っているでしょ!? 翔君!!」
「ごめんなしゃい」
もう、何回目の怒りを受けたかわからない翔は、もう謝るしか出来ず涙をボロボロと零す。
奏多が頭を撫でてあげると、足にしがみ付き「グスグス」と泣く。
「はぁ。それと、静華、貴方もよ」
「え、私?」
まさか自分に矛先が飛んでくるとは思っておらず、咄嗟に聞き返してしまった。
「何も言わずに出て行くなんて。本当に心配したのよ? 田舎とはいえ、全く危険がないという訳ではないの。お願いだから、勝手にいなくならないでちょうだい」
眉を吊り上げ、静華の手を掴み美鈴が訴える。
必死なのは表情と口調でわかり、目を丸くしてしまった。
「奏多君も、探してくれてありがとう。ここまで早くに見つけてくれるとは思っていなかったわ」
「いえ、子供の足ではそこまで遠くへは行けないかなと踏んだまでです」
安心したように翔の頭を撫でていると、後ろに立っている弥狐が美鈴の視界に入る。
「その子は?」
「え、あぁ。えぇっと……」
美鈴の質問に奏多が困っていると、弥狐が笑みを浮かべ近づいた。
美鈴を見上げ、一礼。
凛々しい佇まい、澄んでいる空気。
思わず息を飲み、言葉を待った。
『我の名前は弥狐。狐のあやかしと思って構わぬ。人間に触れられんから、そこは理解していただけると助かる』
隠すことなくすべてを伝えた弥狐。
美鈴がいぶかし気に見つめていると、翔が奏多から離れ二人の間に入り込む。
「ヤコはうそつきじゃないぞ!! 本当にきつねなんだ! すごいんだぞ!!」
手を広げ、弥狐を守るように立つ翔に、美鈴は眉を下げた。
どうすればいいものかと静華と奏多を見るが、二人はもう弥狐が人ではないとわかっている為、どのように説明すればいいのか発言に困った。
「えぇっと、今の話、実は本当なんだ。さすがにすぐ信じてとは言えないけど、せめて触れないであげてほしい」
静華が言うと、美鈴はまだ疑ってはいたが、「わかった」と頷いてくれた。
「触らないようにすればいいのね。もしかして、この子のためかしら、静華がお祭りを自ら行うと言い出したの」
「うん。弥狐君は人に触れる事が出来ないけど、お祭りには興味がありそうだったの。紅城神社のお祭りは人気だから人が集まるし、危険が多いと思って」
静華の言葉に、美鈴は少し考えいつもの、柔和な笑みを浮かべた。
「ふふっ、素敵な提案ね。もう準備は出来ているわ、早くお祭りを楽しんでもらいましょ」
「ほら、こっちにおいで」と、弥狐を手招きし、家の中に入る。
翔と弥狐は顔を見合わせ、無邪気に笑い、駆けだした。
残された静華と奏多も、クスクスと笑いながらゆっくりと中へと入った。
なぜ、そんなことを思ってくれたのか。なんで、そこまでして笑わせようとしてくれたのか。
静華には、わからない。
落ち込んでいようが、弥狐には関係ない。
わざわざこんな手の組んだことをしなくてもいい。
「…………なんで、そんなことをしようとしたの?」
『? さっきも言ったが、落ち込んでおったから…………』
「そうじゃなくてさっ――……」
声を張り上げ"違う"と言いかけた時、背後からカサカサと、人の足音が聞こえ言葉が止まる。
咄嗟に振り向くと、そこには肩で息をしている奏多の姿。
三人を見ている奏多は、荒い息のまま近付き、顔を真っ赤にして――……
「何をしているんだぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
『「「ごめんなさぁぁぁぁぁあああああい!!!!」」』
奏多の怒声に、翔は涙。
ついでに静華も怖すぎて体を震わせ、弥狐もとうとう泣き出してしまった。
※
奏多に言われ、弥狐と静華、翔は家へと戻ってきた。
そこには不安そうに玄関前で待っている美鈴。
「おばさん、見つけてきました」
「っ、奏多君!!」
奏多の声に、美鈴は目を開き、後ろを歩く三人を確認。
すぐに駆けだした。
「まったく、勝手に家を出て行ってはいけないといつも言っているでしょ!? 翔君!!」
「ごめんなしゃい」
もう、何回目の怒りを受けたかわからない翔は、もう謝るしか出来ず涙をボロボロと零す。
奏多が頭を撫でてあげると、足にしがみ付き「グスグス」と泣く。
「はぁ。それと、静華、貴方もよ」
「え、私?」
まさか自分に矛先が飛んでくるとは思っておらず、咄嗟に聞き返してしまった。
「何も言わずに出て行くなんて。本当に心配したのよ? 田舎とはいえ、全く危険がないという訳ではないの。お願いだから、勝手にいなくならないでちょうだい」
眉を吊り上げ、静華の手を掴み美鈴が訴える。
必死なのは表情と口調でわかり、目を丸くしてしまった。
「奏多君も、探してくれてありがとう。ここまで早くに見つけてくれるとは思っていなかったわ」
「いえ、子供の足ではそこまで遠くへは行けないかなと踏んだまでです」
安心したように翔の頭を撫でていると、後ろに立っている弥狐が美鈴の視界に入る。
「その子は?」
「え、あぁ。えぇっと……」
美鈴の質問に奏多が困っていると、弥狐が笑みを浮かべ近づいた。
美鈴を見上げ、一礼。
凛々しい佇まい、澄んでいる空気。
思わず息を飲み、言葉を待った。
『我の名前は弥狐。狐のあやかしと思って構わぬ。人間に触れられんから、そこは理解していただけると助かる』
隠すことなくすべてを伝えた弥狐。
美鈴がいぶかし気に見つめていると、翔が奏多から離れ二人の間に入り込む。
「ヤコはうそつきじゃないぞ!! 本当にきつねなんだ! すごいんだぞ!!」
手を広げ、弥狐を守るように立つ翔に、美鈴は眉を下げた。
どうすればいいものかと静華と奏多を見るが、二人はもう弥狐が人ではないとわかっている為、どのように説明すればいいのか発言に困った。
「えぇっと、今の話、実は本当なんだ。さすがにすぐ信じてとは言えないけど、せめて触れないであげてほしい」
静華が言うと、美鈴はまだ疑ってはいたが、「わかった」と頷いてくれた。
「触らないようにすればいいのね。もしかして、この子のためかしら、静華がお祭りを自ら行うと言い出したの」
「うん。弥狐君は人に触れる事が出来ないけど、お祭りには興味がありそうだったの。紅城神社のお祭りは人気だから人が集まるし、危険が多いと思って」
静華の言葉に、美鈴は少し考えいつもの、柔和な笑みを浮かべた。
「ふふっ、素敵な提案ね。もう準備は出来ているわ、早くお祭りを楽しんでもらいましょ」
「ほら、こっちにおいで」と、弥狐を手招きし、家の中に入る。
翔と弥狐は顔を見合わせ、無邪気に笑い、駆けだした。
残された静華と奏多も、クスクスと笑いながらゆっくりと中へと入った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる