翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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夏めく

説得

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 ――――私が落ち込んでいると思ったから、弥狐君は笑わせようとしてあんなことをしたの?

 なぜ、そんなことを思ってくれたのか。なんで、そこまでして笑わせようとしてくれたのか。

 静華には、わからない。

 落ち込んでいようが、弥狐には関係ない。
 わざわざこんな手の組んだことをしなくてもいい。

「…………なんで、そんなことをしようとしたの?」

『? さっきも言ったが、落ち込んでおったから…………』

「そうじゃなくてさっ――……」

 声を張り上げ"違う"と言いかけた時、背後からカサカサと、人の足音が聞こえ言葉が止まる。
 咄嗟に振り向くと、そこには肩で息をしている奏多の姿。

 三人を見ている奏多は、荒い息のまま近付き、顔を真っ赤にして――……

「何をしているんだぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

『「「ごめんなさぁぁぁぁぁあああああい!!!!」」』

 奏多の怒声に、翔は涙。
 ついでに静華も怖すぎて体を震わせ、弥狐もとうとう泣き出してしまった。

 ※

 奏多に言われ、弥狐と静華、翔は家へと戻ってきた。
 そこには不安そうに玄関前で待っている美鈴。

「おばさん、見つけてきました」

「っ、奏多君!!」

 奏多の声に、美鈴は目を開き、後ろを歩く三人を確認。
 すぐに駆けだした。

「まったく、勝手に家を出て行ってはいけないといつも言っているでしょ!? 翔君!!」

「ごめんなしゃい」

 もう、何回目の怒りを受けたかわからない翔は、もう謝るしか出来ず涙をボロボロと零す。
 奏多が頭を撫でてあげると、足にしがみ付き「グスグス」と泣く。

「はぁ。それと、静華、貴方もよ」

「え、私?」

 まさか自分に矛先が飛んでくるとは思っておらず、咄嗟に聞き返してしまった。

「何も言わずに出て行くなんて。本当に心配したのよ? 田舎とはいえ、全く危険がないという訳ではないの。お願いだから、勝手にいなくならないでちょうだい」

 眉を吊り上げ、静華の手を掴み美鈴が訴える。
 必死なのは表情と口調でわかり、目を丸くしてしまった。

「奏多君も、探してくれてありがとう。ここまで早くに見つけてくれるとは思っていなかったわ」

「いえ、子供の足ではそこまで遠くへは行けないかなと踏んだまでです」

 安心したように翔の頭を撫でていると、後ろに立っている弥狐が美鈴の視界に入る。

「その子は?」

「え、あぁ。えぇっと……」

 美鈴の質問に奏多が困っていると、弥狐が笑みを浮かべ近づいた。

 美鈴を見上げ、一礼。
 凛々しい佇まい、澄んでいる空気。

 思わず息を飲み、言葉を待った。

『我の名前は弥狐。狐のあやかしと思って構わぬ。人間に触れられんから、そこは理解していただけると助かる』

 隠すことなくすべてを伝えた弥狐。
 美鈴がいぶかし気に見つめていると、翔が奏多から離れ二人の間に入り込む。

「ヤコはうそつきじゃないぞ!! 本当にきつねなんだ! すごいんだぞ!!」

 手を広げ、弥狐を守るように立つ翔に、美鈴は眉を下げた。

 どうすればいいものかと静華と奏多を見るが、二人はもう弥狐が人ではないとわかっている為、どのように説明すればいいのか発言に困った。

「えぇっと、今の話、実は本当なんだ。さすがにすぐ信じてとは言えないけど、せめて触れないであげてほしい」

 静華が言うと、美鈴はまだ疑ってはいたが、「わかった」と頷いてくれた。

「触らないようにすればいいのね。もしかして、この子のためかしら、静華がお祭りを自ら行うと言い出したの」

「うん。弥狐君は人に触れる事が出来ないけど、お祭りには興味がありそうだったの。紅城神社のお祭りは人気だから人が集まるし、危険が多いと思って」

 静華の言葉に、美鈴は少し考えいつもの、柔和な笑みを浮かべた。

「ふふっ、素敵な提案ね。もう準備は出来ているわ、早くお祭りを楽しんでもらいましょ」

「ほら、こっちにおいで」と、弥狐を手招きし、家の中に入る。

 翔と弥狐は顔を見合わせ、無邪気に笑い、駆けだした。
 残された静華と奏多も、クスクスと笑いながらゆっくりと中へと入った。
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