翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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夏めく

笑い

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「か、翔君!?」

「おねえちゃぁぁあ――――あっ」

 ――――ベチャッ

「あぁぁぁぁぁ、翔くぅぅぅううん!!」

 翔が静華に向かって走っていた時、石に躓き転ぶ。

 うまく受け身が取れず、ギャグみたいな転び方。
 顔をぶつけてしまい、額を少しだけ擦りむいていた。

 静華がすぐに駆け寄り立たせ、頭を撫でる。

「だ、大丈夫?」

 何が起きたのか理解できていないのか、翔はぽかんとしている。
 だが、徐々に痛みを感じ始め、顔を歪め始めた。

 やばい、そう思ったが遅く、翔の大きな茶色の瞳から大粒の涙が溢れ出す。

 頬を伝い、地面に落ちたかと思うと――……

「びえぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」

 耳をつんざくような泣き声に、静華は耳を傷め塞ぐ。

「い、痛かったね、痛かったよね!! ほら、大丈夫、大丈夫だよ。痛いの痛いのとんでいけ!!」

 額を撫でながら言うが、泣き止んでくれない。
 どうすればいいんだと悩んでいると、後ろから手が伸び翔の額に白い手が添えられた。

 後ろを向くと、ぎりぎり静華に触れない距離に弥狐が立っていた。

 朱色の瞳は細められており、伸ばされた白い手は翔の傷を光で照らす。
 数秒、光に照らされたかと思うと、翔の傷が塞がり始めた。

「えっ、なにこれ」

 唖然としていると、傷は完全に塞がった。
 痛みがなくなったことを不思議に思い、翔は涙を止めきょとんと、弥狐を見上げる。

「――ヤコ?」

『弥狐だ。転んだのか? 大丈夫だったかい?』

 静華から離れ、翔に近づき傷を確認。
 完全になくなったことが分かると、安心したように笑った。

「……すごい」

『これくらいなら簡単だ』

 振り向き、静華を見て弥狐はケラケラと笑う。
 無邪気に笑っている弥狐を見て、静華は肩を落とし「あはは」と、乾いた笑い声w零す。

「簡単、か」

 目を伏せ、下を向く。
 これ以上何も言わなくなった静華に、弥狐と翔は顔を見合わせ目を丸くした。

『何かあったのか?』

 弥狐が問いかけるが、静華は答えない。
 立ち上がり、二人を見下ろした。

「それじゃ、帰ろうか。もう遅くなってきたし、日が沈んできたよ」

 静華の言う通り、先ほどまで自分達を照らしていた太陽が沈み始め、オレンジ色の光景を作りだしていた。

 ――――もう、お祭りの準備は終わったのかな。

 今日の夜にでもお祭りが出来たらいいなと思っていたが、屋台が出来ていないのなら意味はない。

 気になる、確認したい。
 だが、気持ちとは裏腹に体は重く、帰る気になれない。

 その場で立ち止まっていると、弥狐が静華を朱色の瞳で見上げた。

『…………なぁ、静華よ』

「え、なに?」

『疲れているな、少し休もうぞ』

「え?」

 言うと、弥狐は狐の姿になり、静華の裾を噛み、引っ張り出した。

「なに、なに?」と、困惑の声を上げる静華など無視し、引っ張り続ける。

 翔も置いていかれないようについて行き、何も無い田舎道を進み続けた。

 数分、歩みを進めていると、弥狐が突然足を止めた。
 目的地に辿り着いたというように、静華から離れる。

 周りを見るが、変哲もない畑。
 反対には、木が重なり森が広がっている。

 特に変わったものがない田舎道で立ち止まり、一体何をするのか。
 静華はよく分からないまま立ち尽くす。

 唖然としていると、狐姿だった弥狐がまた少年の姿に戻る。
 振り返り静華を見ると、なぜかにんまりと笑みを浮かべていた。

 どういう意味が込められているのかわからず、「へ?」と抜けた声が出る。

 何が起きるのか待っていると、弥狐が翔に駆け寄った。
 耳打ちすると、なぜか弥狐と同じ笑みを浮かべた翔に、静華は恐怖。

 後ずさろうとすると、翔がいきなり駆け出した。

「お姉ちゃん!! かくごぉぉぉおおおお!!!」

「えぇぇぇぇぇぇええ!?!?!?」

 いきなり突進してきた翔を受け止めようとするも、バランスを崩し後ろへと転ぶ。

「いてて……。ど、どうしたの?」

 怪我がないか、お腹に乗っている翔を見ると、パチッと目があってしまった。

「え、なに?」

 顔を引きつらせていると、近くには木の棒を持った弥狐。
 嫌な予感がした静華は顔を青くしたが、もう遅い。

 にんまりと笑ったかと思うと、木の棒で静華の脇をツンツンし始めた。

「や、やめぇぇぇえええあははははは!!!」

 静香の悲痛にも近い笑い声が、沈みかけているオレンジ色の空に響き渡った。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「いい加減にしなさいね?」

「『スイマセンデシタ』」

 やっとくすぐりから解放された静華は、仁王立ち。
 腕を組み、前に立っている二人を見下ろした。

 弥狐と翔は顔面蒼白。
 今にも泣きそうになっており、自身の服を掴み涙をこらえていた。

 だが、そんな二人を見ても、静華の態度は変わらない。
 眉を吊り上げ、見下ろし続ける。

 ――――まったく、私、子供にも舐められているのかな。まさか、くすぐられ続けるなんて思わなかったよ。

 泣くのを我慢している翔と、反省して落ち込んでいる弥狐を見て、徐々に怒りは落ち着く。

「はぁ……、もう大丈夫よ。怒ってごめんね。でも、いきなりあんなことはやめて。驚くし、嫌がる人もいるから」

 しっかり注意をすると、落ち込みながらも頷いた。
 二人を見て、静華は安心させるように笑みを浮かべ、二人と目線を合わせるためしゃがむ。

「でも、どうして突然あんなことをしたの?」

 聞くと、翔は隣に立っている弥狐を横目で見た。

 ――――やっぱり、発案は弥狐君だったんだ。

 静華も気まずそうに顔を逸らしている弥狐を見ると、目を合わせないまま口をゆっくりと開いた。

『静華が、落ち込んでおったから。笑えば、気分も晴れるかと思ったのだ。失敗に終わったが…………』

 ――――え。
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