翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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夏めく

買い物

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 公園で話し合った次の日から、静華と奏多は美鈴も巻き込み電車に乗っていた。
 向っているのは、都会のスーパー。田舎では買えないものが沢山ある為、美鈴が提案した。

「まさか、お祭りを自分達で行うと言い出すなんて思わなかったな」

「もう、それしかないかなって思って。あんな悲しい顔をされたら、意地でもお祭りという物に参加させてあげたいじゃん」

 静華と奏多は、隣同士に座り公園での出来事を振り返っていた。
 そんな二人の前には、柔和な笑みを浮かべている美鈴の姿。

「お祭りを自分達で行うなんて、子供の頃を思い出すわぁ~」

「え、お母さんも子供の時とか、自分達でお祭りに近い事を行っていたの?」

 美鈴の言葉に、思わず目を見張る。
「ふふっ」と笑い、過去を思い出すように美鈴は目を細め、青空が広がる窓の外を眺めた。

「やったわよ。私のお友達が病気でね、人混みに出ることが出来なかったの。少しでもストレスになるようなことを避けなければならなかったから」

「え、病気……?」

 ――――そんな話、一度も聞いたことがない。

 美鈴の学生時代の話は、静華も何度か聞いたことはある。
 どのような部活に入っていたのか、勉強はどのくらい出来ていたのか。

 でも、今回の話は初耳だったため、思わず聞き返してしまった。

「えぇ。だから、私の家族や親戚に声をかけて、家で屋台を作り、お祭りもどきをしたの。さすがに金魚すくいとかは出来ないけど、輪投げやヨーヨーすくい。食べ物だと、クレープや焼きそば、タコ焼きだったかな。これくらいしか出来なかったけど、凄い楽しかったの。だから、貴方達が提案してくれた時、すごく嬉しかったのよ。また、あんな楽しい事が出来るのねってね」

 美鈴の瞳には、流れる外の景色が映る。
 だが、その目に映るのは景色ではなく、楽しかった過去。

 美鈴の懐かしむ表情を見て、本当に楽しい経験だったんだなと思い、静華と奏多は安心したように笑う。

「でも、私達はクレープって作れないよね?」

「それなら私が作れるから、問題ないわよ。焼きそばやたこ焼きは奏多君、作れたわよね?」

「はい、自炊をしているので、あまり期待はしないでいただきたいですが…………」

 ――――奏多、自炊していたのか。

 まさか奏多が料理出来るなんて思っておらず、静華は目を丸くし、隣に座る奏多を凝視。
 視線の意味が分からず「なに?」と聞くと、「別に」と返された。

 楽しく話をしていると、降りる駅につき三人ははぐれないように駅に降りる。
 今日は平日で、時間帯もラッシュを避けたため空いており、歩きやすい。

 駅の近くにはショッピングモールがあり、近付けば近付く程人が増え歩きにくくなってきた。

 横並びではなく、縦に歩き、目的である食品売り場へと向かう。
 はぐれないように歩いていたのだが、美鈴が目を輝かせ一人で回り始めてしまい、静華と奏多はおいて行かれてしまった。

「はぁ、お母さん……。本当にお買い物が好きなんだから…………」

「はは、楽しそうだな、おばさん」

 静華は自身の母親の悪い癖を目の当たりにし頭を抱える中、奏多は楽しげに笑っていた。

 二人も使えそうな物がないか、ゆっくり歩きながら探しているも、奏多がいい物を見つけ足を止めた。

「おっ。なぁ、これとか子供好きなんじゃないか?」

「ん?」

 奏多が手にしたのは、棒付きの飴。
 小さく、子供の口にもすっぽり入る形状となっている。

「林檎や苺、葡萄とかの味があるんだね。確かに、翔君とかは好きそう」

「弥狐はどうだろな。お祭りに行きたいとか言っているって事は、人間の食べ物とかも食べられるって考えていいんだろうか」

「あっ、確かに」

 弥狐は狐、人ではないから翔と一緒だと考えてもいい物なのか悩む。

「うーん。まぁ、食べられなかったとしても、飴とかは保管が効くものだから、買ってもいいんじゃないかな」

「それもそうだな。もし、弥狐が無理でも、翔が全部食うだろう」

 そう言って、全部の味を手に持ち、美鈴を探す。
 その際、またしても奏多が気になるものを見つけてしまい、思わず足を止めてた。

「これ、俺がいつも行っているスーパーより二十円安い」

「今はお祭りに使う材料の買い出しだよ。いつもの食材を買う訳じゃないんだけど?」

「…………いや、でも」

 奏多が見ているのは、お祭りの屋台では絶対に使わないであろう鶏肉。
 確かに、値段的にはお手頃かもしれないが、今は余計な物を買う余裕は無い。

 帰りのことも考え、少しでも荷物は少なくしておきたい。
 そのため、今にも手に持ち、買いそうな勢いの奏多を全力で止める。

「荷物増やしてもいいの? 帰りは電車だよ? 重いよ? 大変だよ?」

 諭すように訴えると、苦い顔を浮かべつつも鶏肉を元の場所へと戻した。

「二十円…………」

「また今度ね。今回は買う物が沢山あると決まっているから余計な物は避けたいの。持って帰るの大変だし」

「はい…………」

 スーパーを歩いていると、籠いっぱいにお買い物を楽しんでいる美鈴を見つけた。

 すぐに駆け寄り、籠の中を確認。
 今回の買い物には明らかに関係ない物が沢山入っており、静華は鋭い瞳で美鈴を睨みつけた。

「……………………今回のお買い物の意味、分かってるよね? お母さん」

「…………で、でも、たまにしか来れないわけだし、安いし、欲しんだもの…………」

 静華の訴えかけるような視線に、美鈴はたじろぎ目線をそらす。
 何とか誤魔化そうとするが、これ以上の言葉は出てこない。

「……はぁぁぁぁあ。籠に入れてしまったものは仕方がないけど、これ以上増やされたらたまったもんじゃない。だから、もうお買い物は終わり! 早く帰るよ!!」

「「えっ!!」」

 美鈴だけではなく、奏多も静華の発言には残念そうに肩を落とす。

 ブーブーと文句を言っている二人を無視して、籠いっぱいの材料達を奪い取り、レジカウンターへと向かった。

 ――――なんでカレールーとか刺身とか入っているのさ。絶対にお祭りには関係ないでしょ。

 改めて籠の中を見て、落胆。
 あの二人は何のためにここまで来たんだと、ため息を吐くしか出来なかった。
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